一橋大学産業・金融ネットワーク研究センター・経済産業研究所共催

産業・金融ネットワークプロジェクトワークショップ (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2011年2月18日(金)14:00~19:30
  • 会場:経済産業省別館11階 経済産業研究所1119・1121会議室
  • 議事概要

    1. 日本における企業間関係と企業間信用の現状:TDBデータベースの概観

    内田 浩史 (神戸大学大学院経営学研究科)

    日本における企業間関係と企業間信用について、帝国データバンク(TDB)の大型ミクロデータを用いて、さまざまな変数に関する平均値や中位値などの記述統計を求めている。特に、企業間の関係に基づく資金調達である企業間信用(手形・売掛債権)に注目している。研究の結果から、1)近年では企業間の決済において手形があまり用いられておらず、ほとんどの企業が銀行振込などを利用していること、2)企業間信用の利用率には大きな産業間や地域間の差が存在すること、3)企業間信用の利用確率は企業規模や信用度に対して逆U字型の非線形性があることを示した。

    Discussion

    服部氏(日本銀行)からの企業間信用利用の地域差が生じる要因についての問いに対し、内田准教授は、日本旧来の商圏ごとの取引慣行の差が地域差の源泉となっている可能性を指摘した。

    また宮川氏(日本政策投資銀行)は企業間信用の分析にあたって、利用する側だけでなく取引相手側の情報も利用することが必要であると指摘した。更に細野教授(学習院大学)は、得られた結果の国際比較やクロスボーダー取引における取引条件の分析の必要性を指摘した。胥教授(法政大学)は資産・負債に占める企業間信用の時系列的な減少の原因を明らかにする必要があることを指摘した。

    2. 日本における企業-銀行間関係と担保利用の現状:TDBデータベースの概観

    小野 有人 (日本銀行金融研究所)

    内田教授と同じ帝国データバンク(TDB)の大型ミクロデータを用いて、日本における企業の取引銀行との関係と担保の利用状況を概観した。過去2年間にメインバンクを変更した企業が全体の1.2%に留まっており、日本における企業-銀行間関係が安定的であることを示した。また、企業の規模とメインバンク変更確率が非線形な関係にあることを明らかにし、企業成長に伴うメインバンク変更確率の上昇は、ある閾値を超えると逆に安定化することを指摘した。更に、多くの企業がメインバンクとの取引において、借入よりも定期預金取引を行っていることを示し、日本において企業部門が貯蓄主体となりつつある点との関連性を示唆した。担保利用に関しては、企業ごとの担保権設定に関する詳細なデータを用いて、中堅規模の企業が担保を用いる確率が最も高く、地方銀行や信用金庫などの地域金融機関ほど担保利用確率が高いことを明らかにした。加えて、不動産物件ごとの登記データを用いて、メインバンクが担保権をもたない物件では、政府系金融機関や非金融機関が担保権をもつことが多いことや、担保の設定時の借入枠金額に対して企業が実際にどれだけの借入を行ったかという指標(疑似借入金担保価値比率)を作成し、1を超える企業も多いことを明らかにした。

    Discussion

    胥教授(法政大学)は、不動産登記データを用いる場合、住宅ローンを取り除くには根抵当のみに分析を絞るべきではないかと指摘した。石井氏(大田区)が、疑似借入金担保価値比率が1を超える企業で、なぜ担保価値以上の借入が可能かという点について質問した。小野氏は、1を超える企業は信用力の高い優良企業であることを示した。また石井氏と細野教授は、リーマンショック時に取引金融機関との関係や特別保証制度などの政策発動がどのような影響を持ったかについて質問した。小野氏は、企業-銀行間の関係の変化については、別のデータを用いた実証研究を始めていると答えた。

    3. 中小企業向け融資における審査体制と条件決定に関する実態調査

    根本 忠宣 (中央大学商学部)

    中小企業向け融資がどのように審査され条件が決定されるかについて、金融機関への調査を通じて実態調査を行った結果を報告した。1)融資実行にかかる日数は小規模銀行ほど短い傾向があり、大銀行ほど審査体制が複雑でありソフト情報が活用しにくい可能性があること、2)貸出金利決定などにおいて、銀行はソフト情報を用いない傾向があること、3)信用保証協会による信用保証が付与される場合には、銀行は貸出先の審査やソフト情報の活用に消極的となることを報告した。

    Discussion

    小川教授(大阪大学)がソフト情報のうち、貸出先企業が所有する生産技術等の評価については、融資担当者レベルにおいても活用が難しく、十分に利用されていないのではないかと指摘した。それに対して、根本教授は企業の技術等については、外部評価機関へのアウトソーシングが行われている例があることを補足した。次に北村氏(帝国データバンク)は、地域金融機関における競争とソフト情報がどのような関係にあるかを質問した。根本教授は、地域金融機関の競争相手は主として都市銀行であり、ソフト情報が必要ないような優良顧客を奪われる傾向があることを指摘した。その上で、ソフト情報の活用によって銀行が各々の貸出を差別化し、都銀からの競争圧力を回避できる可能性を指摘した。

    4. 企業成長のダイナミクスとネットワーク

    渡辺 努 (RIETIファカルティフェロー/一橋大学)

    日本における企業間ネットワークに関する事実を紹介した。帝国データバンクによる約30万社の企業ミクロデータを用いて、規模が非常に大きな企業は取引先数も非常に大きい傾向があることを示し、企業成長においてはintensive-margin(取引量)よりもextensive-margin(取引先数)がより重要な役割をもつことを示した。更に、30万社のうち任意の企業について、その取引先の取引先を遡るという操作を行うと、3リンク先においては、30万社あるサンプル企業のほとんどが網羅されることを明らかにした。最短経路長と企業における売上高成長率の相関の間に正の関係があることも示し、つながりが企業活動に重要な役割を果たしていることを統計的に明らかにした。

    Discussion

    森川副所長が、ある企業の3リンク先の取引先が日本全国の企業と関連しているように見える点について、総合商社の存在が影響を及ぼしている可能性について質問した。それに対して、渡辺FFはそれが(日本特有な)総合商社の影響であるとすれば、得られている結果が日本特有なものとなるため、海外での研究結果との比較が必要であると論じた。更に共同研究者の水野准教授(筑波大学)は、商社を除いた場合にも同様の結果が得られていることを付け加えた。次に田中Fは、日本における外資系企業の行動に関して質問し、渡辺FFは外資系企業のネットワークの張り方が日本企業と異なるかを今後検証していくと述べた。

    5. 製造業集積地における企業間のつながり:取引ネットワークに関するアンケート調査の概要

    植杉 威一郎 (RIETI上席研究員)

    企業間のつながりと企業-銀行間関係の現状把握を目的として、産業集積地である東京都大田区、東大阪市、浜松市周辺に所在する企業を対象に一橋大学と中小企業庁が2009年に行ったアンケート調査の集計結果を報告した。それによって、通常データからは分からない企業間のつながりに関する事実を見出している。企業の販売先・仕入先企業の所在地については、国内との回答が大部分であり、販売先、仕入先の本社が外国に所在すると回答した企業数は、約1000社中、それぞれ10社程度、40社程度にとどまっている。技術力のある集積地にある製造業企業でも、海外との直接的なつながりは数少ないことを示した。また、新規開業企業では、共同研究開発を通じたつながりが多いなど、他と異なる特徴が多いことも示した。

    Discussion

    星野氏(中小企業庁)が企業間のつながりに対して経営者の属性が与えている可能性を指摘した。たとえば、事業承継を行った若い経営者の企業については、先代の社長の支援がある企業とそうでない企業の間に業界団体への参加率に差がある可能性を論じた。それに対して植杉SFは、経営者の属性情報も用いた分析を行いたいと述べた。