RIETI/G-COE Hi-Stat 国際ワークショップ

CIP, IIP, JIP, KIP等産業生産性データベース整備に向けて (議事概要)

イベント概要

  • 日時:2010年10月22日(金) 9:45 - 18:30
  • 会場:経済産業研究所国際セミナー室 (東京都千代田区霞が関1丁目3番1号 経済産業省別館11階1119/1121)
  • 日本産業生産性データベース(Japan Industrial Productivity Database(JIP))を共同で整備しているRIETIの産業・企業の生産性と日本の経済成長プロジェクト(プロジェクトリーダー:深尾FF)と一橋大学グローバルCOEプログラム「社会科学の高度統計・実証分析拠点構築」は、2010年10月22日、International Workshop on Establishing Industrial Productivity Database for China(CIP), India(IIP), Japan(JIP)and Korea(KIP)を開催した。

    議事概要

    主な産業生産性データベース

    JIPは、全産業を108業種に分類して、産業別の生産性、産業構造、寡占の状況など、日本経済の成長と産業構造を供給側から分析するためのデータベースである。最新のJIP2010 は、1970年から2007年に関する、各部門別に全要素生産性(TFP)を推計するために必要な、資本サービス投入指数と資本コスト、質を考慮した労働投入指数と労働コスト、名目および実質の生産・中間投入、TFPの上昇率を算出した成長会計の詳細などの年次データから構成されている。

    EU KLEMSは、JIPデータベースの数年後にEU(欧州連合)の資金で作成された欧州・米国・日本・韓国等に関するデータベース。KLEMSとは資本(K)、労働力(L)、エネルギー(E)、中間投入(M)、サービス(S)の頭文字をとっており、生産に必要な投入を計測することで、生産性を産業別に見ることができる。日本と韓国に関するデータはJIPとKIPをそれぞれ使用し、EU側で、データを国際比較可能な形に調整して発表している。また米国ハーバード大も連携しており、多国間での国際比較が可能。EU KLEMSプロジェクト自体は3年で終了したが、それを受け継ぐ形でのプロジェクトがWIODプロジェクトなど複数動いている。

    ワークショップの参加者

    ワークショップの主要な参加者は、アジア各国および欧州で生産性データベースに従事している専門家である。アジアからは、インド生産性データベースの整備に従事してきたインドの研究者グループ、中国におけるデータベース構築にあたっての主要な問題点を特定する上で助けとなる中国統計専門家のグループ、また、国際比較可能なデータベースをすでに構築している日本と韓国の研究者が、欧州からはハーバード大を中心とするワールドKLEMSプロジェクトやCIPと連携する予定の世界投入産出データベース(WIOD: World Input-Output Database)プロジェクトを推進している専門家であるMarcel Timmer教授(フローニンゲン大学(オランダ))が参加した。

    ワークショップの目的

    1) 今回のワークショップは、中国産業生産性データベース(CIP: China Industrial Productivity Database)を構築するプロジェクトの重要なスタートとして位置づけられる。中国経済は世界経済、アジア経済のいずれにおいても、ますます重要な役割を果たしている。しかし、中国経済をより深く理解するためには、データ上の問題が大きな障害となっている。CIPの目的は、中国産業における国際標準に準拠した指標を構築することにある。これにより、中国経済の国際比較、特に産業構造の変化や産業レベルでの生産性パフォーマンスの分析が可能となる。このCIPの目的を達成するためには、他国の経験から学ぶこと、また中国国家統計局の統計専門家を交えて議論をすることがCIPチームにとって重要である。

    2) また、アジアおよび欧州の専門家たちがアジアKLEMSの構想について議論を発展させることも本ワークショップの開催目的の1つである。

    概要

    本ワークショップは4つのセッションにより、最近開始されたワールドKLEMSやWIODの最新情報、中国のデータ問題、インドのデータ問題の経験、韓国・日本の産業レベルの生産性計測に関する経験と成果の報告が行われた。

    最初のセッションは、森川正之副所長、Harry Wu教授(一橋大学)による開会の辞から始まった。続いて、Marcel Timmer教授がWIODプロジェクトとワールドKLEMSプロジェクトの進行状況や今後の計画について報告した。次に、Harry Wu教授により、CIPのこれまでの進展、ワールドKLEMSとのデータの整合性、JIPと韓国産業生産性データベース(KIP: Korea Industrial Productivity Database) とアジア経済へのリンクを発展させ、アジアKLEMS確立に向けて努力する抱負が述べられた。さらに、今後の課題として、中国政府統計が持つ問題点が指摘された。

    第2セッションは中国に関しての報告が行われた。最初はYue Ma教授(香港嶺南大学)により、企業パフォーマンスと中国製造業の輸出行動との関係の分析が報告され、データ上の課題も提起された。次にWu Yang氏(中国国家統計局)より、統計局の生産性計測プロジェクトの発足の経緯が説明され、引き続きJianchun Yang氏(中国国家統計局)により中国の産業における雇用数と労働時間の計測について報告が行われた。

    第3セッションでは、すでにプロジェクトを立ち上げている韓国、日本、インドの産業生産性プロジェクトに焦点があてられた。まず、Hak K.Pyo教授(ソウル大学)とHyunbae Chun教授(西江大学)により、KIPの紹介・問題点・将来の課題、KIPとKLEMSのデータベース間の比較、ならびに各国産業における生産性パフォーマンスについて報告があった。さらに、KIPデータベースにもとづいた推定分析も報告された。次に、日本について、深尾京司FF(一橋大学)より報告が行われた。日本の経済成長を考える場合、経済に占める割合が大きくなったサービス部門の生産性成長が重要な点となることから、日本のサービス部門の生産性についてJIPデータベースをもとに分析結果が報告された。最後に、インドKLEMSにおける労働投入と資本投入の計測に関して、Suresh Chand Aggarwal氏(デリー大学)が報告を行った。Suresh Chand Aggarwal氏はインドにおける労働投入量と質の計測について報告し、雇用の時系列データ、労働の質指標の時系列データ、それぞれの構築方法について紹介した。

    最後のセッションは、Deb Kusum Das氏(インド国際経済関係研究所(ICRIER:Indian Council for Research on International Economic Relations))がインドKLEMSデータベースにおける産業の資本投入について報告を行い、インドKLEMS、JIP、KIP、CIPとの密接な協力を期待すると述べた。次にGaaitzen de Vries氏(フローニンゲン大・一橋大学)により、中国の1980年代中ごろから現在に至るまでの供給・使用表 (SUTs: Supply and Use Tables) の年次時系列データを作成する方法の原案、ならびに残された課題が提起された。引き続き、Marcel Timmer教授が、最近終了したEU KLEMSプロジェクトや、進行中のワールドKLEMSプロジェクトのデータ構築について発表を行った。これらの議論を通じて、CIPプロジェクトの将来の作業にとって重要なガイドラインが示された。また、CIPの今後の発展のために大変有益だと考えられるデータ更新のマニュアル化を紹介する目的で、RIETIよりJIPの資本に関するシステム化プログラムのデモンストレーションが行われた。最後に深尾京司FFによりアジアKLEMSデータの分析の活用について、また将来の展望についての発表があり、続いてHarry Wu教授による閉会の辞をもって、ワークショップは閉幕した。

    ワークショップの成果

    主要な成果は3つにまとめられる。

    第1は、CIPチームが他国からの研究者ならびに中国国家統計局から統計専門家に、解決すべき重要な統計データ上の問題を報告したことである。また、データの欠陥やその時系列面での断絶の解決法を見出すための議論が行われたことも有意義であるといえる。

    第2に、アジア経済の経験に基づいた実証研究における生産性についての重要な意見交換が行えたことである。アジア経済の中で日本や韓国のように産業生産性データベースの整備が既に確立している国からの経験は、より多くのデータ問題を抱えている中国やインドの研究者にとって役立つものである。

    第3に、アジアの生産性研究者たちが、EU KLEMSやワールドKLEMS、WIODプロジェクトの国際的な枠組みに触れたこと、そして、現在、アジアの中でEU KLEMSに含まれている国が日本と韓国のみにとどまっていることから、中国やインドなどのその他のアジア経済に関するデータベースを国際的なデータベースと比較可能にする方法について議論を発展させたことがあげられる。

    また、今回主要なアジアの国々の研究者たちが一堂に会し、アジアKLEMSの設立に向けて今後さらに協力し合うことが確認されたことも重要な成果といえる。