ワークショップ

「グローバル金融システムと日本経済再生」委員会

イベント概要

  • 日時:2009年4月16日(木) 14:00-16:00
  • 会場:経済産業研究所国際セミナー室 (東京都千代田区霞が関1丁目3番1号 経済産業省別館11階1121)
  • 議事要旨

    意見交換

    池上徹彦委員

    これまで日本はイノベーションを旗印にしてきたが、なかなかうまくいっていない。どうしたらよいのか。米国の事例からアドバイスが欲しい。

    藤森義明委員

    最近、イノベーション機構、ファンドが通った。企業は金を出すに当たって必ず優先順位をつける。下のほうで眠っている技術はなかなか出てこない。やはり経済産業省主導で出てきたイノベーションファンドのアイデアは素晴らしい。

    原子力は、将来の環境エネルギーを考えると絶対やらなくてはいけない。原子力の技術は日本が完全独占している。もっと日本が原子力に関して、政治的なリードを国際間で執れるのではないか。それには技術だけではなく、それを支える政治力が必要だ。

    長谷川閑史委員

    日本の将来のエネルギーのサプライを考えると、当面はやはり原子力を活用するしかない。ところが、原子力は日本の電力、エネルギー供給の内の3~4割である。やはり原子力の政策を電力会社に委ねず、国家が主導して戦略的にやらなければいけない。国家が責任を持ってやることと、民間企業にやらせることの区別をつけなければ、せっかくいいものを持っていても立ち遅れる。

    医薬品の世界でいうと、新しいコンセプトやプラットフォーム・テクノロジー、あるいはターゲットを見つけるのは、欧米人が得意で、それを活用して、薬を仕立て上げていくのは、日本人が得意だ。そこで、ターゲットやシーズ、コンセプトを見つけるのが得意なアメリカやヨーロッパの会社を買って、日本のサイエンティストの薬を作る得意な部分とドッキングさせて効率を上げる。

    停滞を防ぐには外部との競争をして刺激を与えなければいけない。そういう観点から、会社や研究所を買って、年間のリサーチのファンド額に応じて、それ以上の生産性を上げるか上げないかで評価をして競争をさせて、イノベーションを促進させている。

    藤井清孝委員

    電池のテクノロジーは日本がいちばん進んでいるが、車のメーカーの垂直統合にぶら下がって、昔半導体がやったことと同じことをやっている。今はテクノロジーが進んでいないので、それでもいいが、標準化されると他国に持っていかれてしまう。アメリカでは、MITを卒業したPh.D.を50~60人採用して電池会社を作り、すべての車メーカーにサプライする。垂直統合ではなく、サプライヤーのモデルになる。

    標準化した時には一気に市場を取られてしまう。要素技術が発言権につながらない理由は、過当競争と同じことをみんながやっていることにある。国がある程度リーダーシップを執らないと、この構造は変わらない。

    北川高嗣委員

    日本はイノベーションの名のもとに大変なお金を使っている。「イノベーション25」では25兆円入れた。イノベーションを「やれ、やれ」と言うのはいいが、優秀な人材が結局ドクターまで行って、どこへ行くかというときの出口がない。アメリカでは優秀な大学院生はすべからくベンチャーを立ち上げる。その次に優秀なのは、ベンチャー企業へ行く。それから大企業や国の役人になると、イグジットが明確にできていた。

    日本でイグジットさせてくれる場所があるか。今はない。ほとんど出口もない。この状況を打破しないと、「ベンチャーをやれ、優秀だからチャレンジしろ、イノベーションしろ」とは言えない。ここをしっかり認識する必要があるのではないか。

    藤田昌宏経済産業省貿易経済協力局長

    「政府がリーダーシップを発揮して、過当競争をやめさせて、国として一本化して打って出るべきだ」といわれたが、最近われわれがそう言われることは少なく、むしろ逆の議論がマスメディアやエコノミストの主流になっている。だから、急にそう励まされても、「本当にやっていいんですか」という感じがある。

    日本のものづくりの強さは、チームワークやすり合わせで、個性が突出しないという前提で均質に力を合わせてやっていこうというところにある。一方で、自分で会社を起こすような、個性を伸ばす教育もいわれてきたが、日本という国は両方を同時に満たすことはできないのではないか。

    したがって、役所主導で大学発ベンチャーなどをやっても、「笛吹けど踊らず」というか、やはり元気な人がいない中、「さあ、頑張れ。1人で戦え」と言っても簡単には出てこない。行政でやれることのある種の限界もあるのかという気もするが、何をなすべきか、引き続き模索していきたい。

    北川高嗣委員

    日本人が資質として肝が切れないということではなく、仕組みとして肝が切れなくなっている。

    グローバルという土俵で物事が回れば、当然マーケットのボリュームも広がり、けたが違ってくる。イグジットがあれば、それをリスクヘッジする仕組みがあるのだから、そこへ入っていける。その仕組みが今なくなってしまった。

    イグジットは、ベンチャーの場合、IPOかM&Aしかない。確かにアメリカもIPO多いわけではない。ところが、それをM&Aで買ってくれる会社はけっこうある。そういうプレーヤーも日本にはいない。マーケットに応じた資金のスケールは当然出てくるもので、その辺日本が乗り切れていない。特にIT系はそのITシステムに乗って各業界の当該企業が上がってくるわけだから、日本の成長に対するブロックになる可能性が大きい。

    日本は実は進んでいるところもガラパゴス、強いはずのコンテンツもガラパゴスだ。動画配信サイトのYoukuやTudouで、映画『レッドクリフ』はプロモーションを全世界にかけた。ところが、YoukuもTudouも日本からの閲覧を排除している。そういう意味で、日本はマーケットからアウトフォーカスされてしまっている。そこを何とか打開する必要がある。

    岩下正委員

    役所あるいは経済産業省が一体何ができるだろうか。新しい組織、機構を作り、官・民から人間を集めて、各企業の先端的な技術の知識やノウハウを集約して、一方で補助金を流し税制上の特典を与えというやり方を昔はしていた。でも今、この手法は通用しないだろう。

    まずやはり業界で何が起こっているのか、起ころうとしているのか、テクノロジーの最先端の部分も含めて官のほうで共有させてもらう。ここ15年間ぐらいこの情報流通が弱くなっているのではないか。情報がない限り、役所としてはなかなか、つかみにくい。

    グローバルなスタンダード作りが表の議論になってから出てくるのではもう遅い。早めに問題点をとらえ、国際的な根回しもやって、特許面、知的財産権面も含めたイニシアチブを取るために、できるだけ早くから役所機構が動いていく。そのためには、民間側もできるだけ積極的に情報を提供しやすい仕組みができるような、新しい行政側の手法が必要ではないか。

    藤森義明委員

    100 年に1度の危機を感じているのか。政府が今リーダーシップを執らなければ、いつ執るのか。危機があるときにリーダーシップを発揮するのが本当のリーダーである。そういう意味で、今までと全く別のことをやらないと変化は起きない。

    コンソリデーションにしても、タックスにしても、いろいろなやり方が出てくるはずだ。イノベーションファンドは素晴らしいと思ったし、具体的に素晴らしい技術にお金が出るようなことが、ビューロクラティックなプロセスなしにできればいいのではないか。いわゆる技術、技術という昔からのやり方はある程度必要なのではないか。

    長谷川閑史委員

    その国の産業や市場は、その国のカルチャー、国民性にかなり影響を受ける。日本の企業が過当競争をやり、消耗戦をやりながら、コンソリデーションのドライブがかからないのは、資本市場のメカニズムが働かないから、プレッシャーが働かないからだ。株主がプレッシャーをかけないし、競合会社がもう買いにくるというプレッシャーもかからない。だから、いつまでも我慢競争をしながら、選択と集中もやらないでいる。

    現場が壊れたから本当のいいチャンスではあるが、そういう方向に行くかどうか。外に出て行くだけのクリティカルマスを作るのは、自分たちではできない。資本市場も働かない、現場は壊れても働かない。だれがどこでやるのかは、やはり国家として考えざるをえないのではないか。

    ベンチャーで出口がないというけれど、アメリカやヨーロッパに行ったらいい、どんどん起業して成功すればいい。日本の企業も、優秀な人がいなくなれば何かしないといけないと考えるだろう。

    日本でベンチャーはなぜ成功しないか。起業する人がサイエンティストやテクノロジストで、経営の経験もないからだ。1つのシーズやターゲットを持って出て行って、それがだめになったらもうその持続性がない。それに日本にはベンチャーキャピタルファンドでベンチャーの経営指導まできちんとできるようなところがほとんどない。そこにはアメリカのコンセプトだけ持ってきたところで、できないから、日本流の育成をしなければならない。たとえば大企業にもエンジェル税制を適用して、経営指導をやれる人を送り込む等、日本の得意なやり方を取らないといけない。

    藤森義明委員

    アメリカのベンチャーキャピタルファンドの役割を政府が果たしたらいいのではないか。

    藤井清孝委員

    ベンチャーキャピタルはこの人に任せたらいいというブランドができているからで、政府ではできない。目利きは個人に属するものだ。日本でも、早く「ベンチャーキャピタリスト」のステータスを上げればいい。

    市場に任せる場合、1つの市場は機能していても、もう1つの市場は機能してないので、だれかがその役割をしない、コンソリデーションが起こらない。消去法でいくと、その役割は政府しかない。

    池上徹彦委員

    日本にとって一番の問題は、「霞が関」よりは「現場」にあると思っている。学長経験者として言えば、日本の大学は知識偏重、他方、米英ではまずはスキル第一とし、それを支えるカギとして知識を開拓するという手法をとっていると思う。ベンチャーをやるにしても、経営のスキルが重要という発想に欠けるので具体的に展開していくのに自信が持てず責任は「霞が関あるいは日本の産業構造にあり」としてしまい、結果として成功例は極めて少ない。つまり、ガバナンスより、現場を動かすガバナビリティ・マインドの欠如が日本では問題である。お互いの「得意技」を磨いて理解しあい、相乗効果を活用することが現実な解決策と思っている。

    宮内淑子委員 (座長・進行役)

    ベンチャーがなかなか育たないといわれるが、日本の体質がベンチャーが育つような土壌になっていないといえる。ベンチャーは新しいことを立ち上げるので、事例がないが、企業に提案するとまず事例を作ってから来てくださいといわれることが多い。また大手企業が強力で、特にSI系のベンチーなどは下請けの下請けとなり、金額的に成り立たないといったことも生じている。特許についても、特許の維持管理には多額のお金がかかる。特許侵害に対しても、訴訟となると経費がかかる。知財があっても、大手同士はともかく、なかなかその知財を有効に認める環境になっていない。うまくベンチャーとして立ち上がって育っているところは、アメリカのアイデアや海外の成功したゲームなどをもってきたところだ。

    岩下正委員

    金融サイドでは、やはり日本の機関投資家の投資ビヘイビアが変わらないと、なかなか事態が改善しない。経済産業省を超えた、厚生労働省、金融庁等を巻き込んだ大きな制度変更、あるいは機関投資家の行動パターンの変化のための誘導なり後押しなりをする仕組みが必要ではないか。

    長谷川閑史委員

    あと10年、15年たつと中国から株を買いにくる。だが全く無防備である、そうなる前に考えないといけない。そういう危機感を持っていないところが問題だ。

    及川耕造経済産業研究所理事長

    ビッグバン以来、金融市場の改革をもって資本市場を強くしようとしてきたが、まだその機能が十分発揮されていない、政府が補完的にしなければいけない。国際金融市場で、まさに今JBICが海外での流動性が足りないから出ていかないといけないように、日本はさまざまな市場が十分機能していないのだと改めて実感した。

    経済産業研究所は、政府から3つテーマを与えられており、そのうちの1つがイノベーションだが、イノベーションについては結論をどうすべきか迷っている。低いのはサービス業だからという議論が強いが、製造業もかなり低い。つまり、限られた企業に頼って輸出しているのが日本の特徴だということで、海外からのアタックによって変わってくると、いい方向に行くのかどうかという問題がある。

    また、日本では経済界においてなぜPh.D. が重要視されないのか。むしろ日本では、Ph.D. をとるような人は社会に出たくない人ではないかと見られるほど、根本的に人材市場、労働市場まで国際的な基準から乖離しつつあるのかという感じがする。

    ただ、日本の現場では大学も出てない人の特許で重要発明をするのもある。日本のすり合わせの強さ的な要素もあるので、ケース・バイ・ケース、産業、企業によって違うのだろう。まさに日本型イノベーション、あるいは日本が国際社会の中で生きていくためには、教育まで含めて、労働市場、資本市場、財の市場等すべてで、どういう形で日本のよさを生かしながら国際化、さらにはグローバル化に対応していくのかを改めて問われている。

    池上徹彦委員

    製造業とサービス業との間にもう1つ何か作ったほうがいいのではないか。そうでないと、ものづくりといって頑張っても、金は流れてこない。現実はサービス志向の強い製造業が日本は勝っている。その辺も検討してほしい。

    及川耕造経済産業研究所理事長

    おっしゃるとおりで、経済産業省がまさにその融合をやっておられると思う。

    今回非常に意味があると思ったのは、「皆に批判されていたのに、国が本当にしていいのだろうか」ということに対して、「今だからこそ、国に期待している。行動してほしい」というコメントがあったことだ。皆様からいただいたコメントは、ぜひ具体的に検討し、精査して次につなげてほしい。

    閉会挨拶-藤田昌宏貿易経済協力局長

    いただいたご意見はわれわれが直ちに実行できるものばかりではないが、参考にさせていただきたい。アメリカがこうやってうまくいっているからといって、似たような制度を導入するというやり方を日本はしてきたわけだが、必ずしもそれがうまくいっていない面もある。そういう意味でも、日本人の体にフィットした政策を考えないといけない。われわれはまさにそういうことをやりたいと思っているわけで、大変に心強く感じた次第である。