RIETI政策シンポジウム

Auto Industry Symposium: The 2003 RIETI-HOSEI-MIT IMVP Meeting

イベント概要

  • 日時:2003年9月12日(金)10:00-17:30
  • 会場:法政大学 スカイホール(ボアソナードタワー26F)
  • 開催言語:英語⇔日本語(同時通訳あり)
  • 議事概要

    Jamie WINEBRAKE (Associate Professor, Rochester Institute of Technology)

    "Transition to a Hydrogen Future - Scenarios for the U.S."

    水素時代の到来へのシナリオに関して特にアメリカを中心に、今後の変遷がどのようなプロセスを経ていくのか-どのようなインパクトをもたらすのか-どのような外的要因の影響を受けるのか、といった視点から話をする。ここでは環境(Environment)、エネルギー安保(Energy security)、経済(Economy)という「3つのE」が重要になってくる。
    環境面では特に自動車が大気汚染に非常に大きな影響を与えている。自動車は新型になるほど環境負荷が小さいといえども台数自体が非常に多く、また旧型の自動車が利用され続けているために全体では環境負荷が非常に大きいといえる。自動車の総走行距離は現在2兆マイルであるが2025年までに倍増すると見られている。加えて2012年前後までは乗用車、小型トラックの燃費はSUVブームなどのために悪化傾向にあると予測されている。このような傾向からも自動車による大気汚染のインパクトは非常に大きいものであり続けると考えられる。
    エネルギー安保については石油への依存度の高さが問題となる。1990年にアメリカではついに1日当たりの交通、輸送分野での石油消費量と国内生産量が逆転してしまった。これ以降格差は拡大を続けると予測されている。アメリカ全体で見ると現在石油の輸入依存度は50%であるが、今後20年で65%まで拡大していくと予測されている。これに伴うコストは毎年2000億ドルと見積もられており、これが貿易赤字になるという意味で経済にも深刻な影響を及ぼしかねない。これらの現状により、代替エネルギーへの期待は高まりつつある。今後は持続可能な輸送技術へと転換を図っていかねばならないのである。アメリカではこの現状を受け、ビッグ3と連邦政府共同での“FreedomCAR”プロジェクトが始まっている。これは安価かつ多目的に利用でき、エネルギー効率が高く排出ガスも少ない、しかもバリエーションの幅は狭めないという自動車である。これを実現するためにはまず軽量化技術が必須である。そしてエネルギー源の問題が次にくるのである。エネルギー源の問題に対して必ずしも水素エネルギーが最高の解決策とは限らないが、アメリカ政府は政治的判断も含めて将来の代替エネルギーの最右翼として水素を考えており、それに向けて巨額の投資計画を準備している。
    このような将来の社会予測、それに向けた政策立案を行う際に強力な武器となるのがシナリオ分析である。これは、焦点となるイシューを認識し、それに関するドライビングフォースを認識、評価した上でシナリオの合理性を高めていくというものであり、単なる将来予測とは異なるものである。このシナリオ分析を基に政策・戦略立案者は最もフレキシブルな政策・戦略を決定していくのである。シナリオ分析には移行期が考慮されていない、現状を正確に反映しない場合があるといった弱点もある。しかし研究交流などでこれらの弱点を克服しつつ利用するならばシナリオ分析は非常に有用であるといえる。

    文責:東 秀忠