イベント概要
議事概要
武石 彰 (一橋大学イノベーション研究センター教授)
「日本のサプライヤーシステムの構造的変化」
本報告は、現在取り組んでいる日本の自動車産業におけるサプライヤーシステムに関する研究の狙いと予備的な分析結果の一端を紹介したものである。
本研究は、日本の自動車メーカーの垂直統合の実態とその要因を探ることを目的としている。自動車メーカーの垂直統合の水準(どこまで自社でまかなうか)はどのような要因で決まるのか、どのように変化しているのか、変化の理由は何か、といった問題を分析する。ここでいう垂直統合とは完全な内製だけではなく、部分内製や系列部品メーカーからの調達をも含む、広義の内製をも含めて考えていく。かつて賞賛されたケイレツ・システム、企業グループという仕組みや、関連する多数のビジネスを内部に抱える企業組織のありかた(例:総合電機メーカー)の意義がここにきて疑問視されている。企業の境界はどのようにきまるのか、どうあるべきなのか、という問題はそうした観点からもとても重要である。
本研究ではアイアールシーが出している1984年から2002年にかけて(3年ごと)の部品別(約200品目)・自動車メーカー別の取引データ(それぞれに部品について、どの自動車メーカーがどの部品メーカーからどのくらいの量を調達しているのか)をもとに、垂直統合の変遷とその要因を定量的、定性的に分析する。取引データの予備的な分析結果によれば、最近(1999-2002年にかけて)、一部の自動車メーカー(とくに日産、マツダなど)による系列部品メーカーの保有株式売却により、資本関係のある部品メーカーからの調達(「準垂直統合」)の比率が落ちていることが明らかになった。株式の売却がはたして企業関係や分業のあり様にどのような影響をもたらすのかは冷静に吟味する必要があるが、質的な変化をもたらす可能性もある。(近々実施を予定している)部品特性を計測するアンケートデータやインタビュー調査の結果を交えながら、部品ごと、自動車メーカーごとの垂直統合度の違いの背後にある要因や、最近の変化の要因や意味するところを分析していくことが今後の課題である。