RIETI政策シンポジウム

Auto Industry Symposium: The 2003 RIETI-HOSEI-MIT IMVP Meeting

イベント概要

  • 日時:2003年9月12日(金)10:00-17:30
  • 会場:法政大学 スカイホール(ボアソナードタワー26F)
  • 開催言語:英語⇔日本語(同時通訳あり)
  • 議事概要

    下川 浩一 (法政大学名誉教授 / 東海学園大学教授)

    「日本自動車産業の新戦略:タイ・中国の最新動向」

    先進国の自動車市場は成熟化が進んでおり、拡大余地のある途上国市場の重要性がますます高まってきている。中でも最も成長が見込まれているのが、中国、インド、アセアン諸国といったアジア市場である。日本自動車メーカーは、このうちアセアン地域には早くから進出し圧倒的な地位を築いてきたが、中国については従来社会主義経済や国家統制下にあったこともあり、相対的に出遅れていた。しかし、市場主義経済化が急ピッチで進んでいることから、従来の遅れを取り戻すべく、最近トヨタ、ホンダ、日産など各メーカーは積極的な展開を始めている。電子・電機産業、そして二輪車産業については、現地資本メーカーによるイミテーションが活発なことなどから、日本メーカーは苦戦を強いられている。四輪自動車産業では製品特性(アーキテクチャ)がこれら産業のそれとは違うといわれているとはいえ、今後同様の傾向に陥らないかを注目していく必要がある。
    タイでは1997年の通貨危機を契機に自動車関連輸出が増加し、タイ自動車産業国産化への協力とアセアンの地域内国際分業拠点と位置づけるという従来の戦略から、タイをより積極的にグローバルビジネスの(ピックアップトラックの)重点拠点へと育てようとする戦略に転換してきている。通貨危機に伴い国内市場が急速に収縮したため、各メーカーは生き延びるために輸出の拡大を図った。通貨が大幅に下落したこともまた追い風になった。ただ、輸出を行うには現場の能力向上などが欠かせず、各メーカーではそれに向けた取り組みを行っている。最近では、タイトヨタがピックアップトラックベースの世界戦略車IMV(Innovative Multipurpose Vehicle)の中心拠点になるなど、その重要性・存在感はますます高まっている。
    中国自動車産業については、大衆車主導の国内向け生産では今後大いに力を発揮すると考えられるものの、輸出産業化には依然多くの課題が残されている。国営自動車メーカーの改革や、品質保証能力や設計開発能力の向上の必要性、中長期的視野に立った人材の育成の必要性などである。しかし、将来的に中国がアジアにおける自動車生産大国になることは疑いの余地がない。
    しかし、自動車産業については一気に中国への一極集中が進むとは考えられない。ただ、中国とアセアンとのFTA交渉の進展で両者間の貿易が自由化されると、部品産業を中心に影響は避けられないだろう。タイが今後とも引き続き世界分業の一角を担う拠点として発展を続けるには、競争力と独創性を持つことが欠かせない。
    日本についていえば、労働集約的な分野を中心に今後とも一層の空洞化は避けられそうにない。ただ、アジア進出を以って単なる空洞化として片付けてしまうのは間違いである。むしろ、地域経済のグローバルリンケージの一環とそれを受け止め、グローバルビジネスを創造していく一里塚と捉えるべきである。日本企業も、中国の低賃金だけを利用するという安易な考え方は捨て、中国との長期的合作の道を両国それぞれの得意分野で補い合う形で考えるべきである。技術移転そして人材活用などについて、グローバル時代にふさわしい大胆な合作の戦略を立てる必要がある。特に差し迫った環境技術では早急な合作が望まれる。

    文責:折橋 伸哉