RIETI政策シンポジウム

Auto Industry Symposium: The 2003 RIETI-HOSEI-MIT IMVP Meeting

イベント概要

  • 日時:2003年9月12日(金)10:00-17:30
  • 会場:法政大学 スカイホール(ボアソナードタワー26F)
  • 開催言語:英語⇔日本語(同時通訳あり)
  • 議事概要

    酒向 真理 (RIETI客員研究員 / オックスフォード大学Saidビジネススクール教授)

    「サプライヤー・パーク:工場の集積と所有の分散」

    サプライヤーパークは、完成車組立工場の近くに立地している部品サプライヤーの集積(クラスター)である。欧米では、1980年代にシートなどの部品を中心に数十キロ離れたサプライヤー工場からのジャスト・イン・タイム(JIT)納入が普及した。1990年代からは、工業団地のように、組立工場に隣接した敷地にてサプライヤーが生産・組み立てを始め、コンベイヤー又はトラックで納入している。又、完成車組立ラインといっしょに1つの屋根の下にサプライヤーが構内請負のごとくサブラインで組み立てを行うモジュラー・コンソーチウムも普及している。
    サプライヤーパークは、自動車産業においてはモジュール化に並んで最近(1990年代から)の現象である。今現在、計画中のものを除くと少なくとも35以上のサプライヤーパークがある。パークの普及状況を見ると、まずemerging marketsで実験をして、それから自国に導入するというパターンが主流である。たとえば、フォード社では、ブラジルを念頭にアマゾンプロジェクトを計画した後、ヨーロッパ各国でパークを構築し、来年以降始めて自国のシカゴ工場にてパークを使って生産開始する予定だ。同じくジェネラルモータ社もブラジルのブルーマカオプロジェクトに次いでヨーロッパ各国でパークを設立した。ヨーロッパの完成車メーカーの中には、ルノー社のようにブラジルの実験に基づいて自国(フランス)でコックピットなど品種の多い内装品に限ってパークを設立している場合と、BMWやメルセデスのようにアメリカのgreenfield siteでパークを設立しながら自国にも普及させている事例がある。
    サプライヤーパークといっても、色々なarrangementで構築されていることが、次の4つのdimensionを見るとわかる。まず第1に、完成車メーカーとサプライヤーとが、ひとつの屋根の下に密集している場合と、比較的近いがある程度距離を置いている場合とがある。第2に、取引先特有の専用設備(建物、機械、治具など)をサプライヤーが所有している場合と完成車メーカーが所有している場合とがある。第3に、雇用関係の統治(ガバナンス)が、パーク全体で統一されて行われている場合と、各サプライヤー別に行われている場合とがある。最後に、パークに立地しているサプライヤーへの外注業務内容が、モジュールの設計開発からの場合と、ただ部品の在庫からモジュールをsequence納入している場合とがある。

    それではなぜこのようにパークによって実態が違うのであろうか。また、完成車メーカーとサプライヤーは何のメリットを目的にサプライヤーパークを設立し、パークに立地しているのであろうか。パーク設立の動機は必ずしも一律ではなく、多様である。それにはさまざまな動機にいくつかのジレンマがあるからだ。少なくとも4つの要因が指摘できる。

    (1)モジュール化と外注化の本質:モジュール化を実施すれば、擦り合せの調整をする必要が比較的なくなるため、外注することによってサプライヤーを隣接させるためのパークは不必要になるはずである。しかし、パークが設立される理由は、自動車産業ではモジュールといわれるもののサイズが大きいこと、モジュール内のvarietyが多いこと、そして見込み生産から受注生産へ移行する過程で生産計画のsequence情報を最後まで変更する自由を保つためである。

    (2)発言(voice)と退却(exit)のトレードオフ:パークがあることによってサプライヤー関係がどのように発展していくか、不確実である。一方では、集積することによって完成車メーカーとサプライヤー間で長期的なコミットメントが高まるようにも思われるが、他方では市場にまかせて取引先を代えることができるフレキシブルな取引形態を目的に外注している。

    (3)雇用制度の統一と多様化のメリットとデメリット:フランスのスマート工場では、完成車メーカーがサプライヤーの人事管理も取り締まって統一させた雇用制度を導入している。しかし、これではサプライヤーの比較的低い労務コストを利用することができない。他方、サプライヤーごとにばらばらの人事制度では、労働者の間に不満が生じたり、また採用や訓練の面でパーク内の競合関係が障害になる可能性がある。

    (4)企業のガバナンスのあいまいさ:サプライヤーパークでは、あたかも1つの企業のように生産工程は垂直統合されているが、企業の所有は分散している。このため、人材、設備や品質の管理において企業間の役割分担が複雑になっている。完成車メーカーはサプライヤーに外注することによって、投資や管理の負担を外に出しているが、その結果密接なcoordinationが必要になる。たとえば、採用は完成車メーカーが行うが、雇い主はサプライヤー、しかしオペレーターが使う機械設備の一部は完成車メーカーが所有・維持している場合、品質に問題が生じたときの責任追及が難しくなる。