RIETI政策シンポジウム

Auto Industry Symposium: The 2003 RIETI-HOSEI-MIT IMVP Meeting

イベント概要

  • 日時:2003年9月12日(金)10:00-17:30
  • 会場:法政大学 スカイホール(ボアソナードタワー26F)
  • 開催言語:英語⇔日本語(同時通訳あり)
  • 議事概要

    伊藤 禎則 (METI製造産業局自動車課課長補佐 (総括・企画調整))

    「日本の自動車産業の現状と今後5年タームでの課題について」

    1980年台の日本は「経済大国」という称号の下でバブル経済を謳歌し、「強すぎる日本」という話題が中心となっていた。しかし1990年代に入りバブルが崩壊すると一転して長期不況に陥り、「失われた10年」と呼ばれる時代を経験することになった。その中でも、静かにそして着実に進化していたのが自動車産業である。現在の日本経済全体における位置づけとしては、製品出荷額の内の14%、設備投資額の22%、全雇用人口の10%、全輸出の22%を占め、基幹産業の名に恥じないものといえる。そしてこのような数字として表出する実力に加え、裾野産業の広さや頻繁なイノベーションによる波及効果、そしてマネージメント手法などから形成される利益生成能力には、さらに大きな潜在力があると考えられる。
    こうした我が国自動車産業の「強さの源泉」は3つ存在すると考えられる。
    第1には、ものづくり能力、生産技術へのフォーカスである。QCDの向上などに見られる「深層の競争力」が世界最高レベルであることは、藤本教授の研究からも明らかである。第2には、環境問題をアドバンテージにしてきたことが挙げられる。高度成長期の公害問題や資源制約をバネに、日本自動車産業は低燃費、低公害車において環境問題への対応をむしろアドバンテージとして転化してきたのである。第3には、米国市場を中心としたビジネスモデルの堅牢性がある。輸出に加えて現地生産へのシフトを推進し、米国市場を舞台にした利益生成が安定的に維持されているのである。
    今後の自動車産業は、以下に挙げる「4つのC」に代表される新たなチャレンジに挑戦することとなるだろう。それは"Clean car"、"China"、"Currency"、"Communication technology"の4つである。
    まず、環境問題への対応には大気汚染やリサイクルに代表されるローカルなものと、地球温暖化問題といったグローバルなものの両側面があり、双方に対処しなければならない。政府としては、世界でもっとも厳しい排気ガス規制である「新長期規制」が2005年に導入されるほか、自動車リサイクル法も2005年に施行されることとなっている。また、温暖化問題については、6%という京都議定書のコミットメントを達成するために、運輸部門におけるさらなる努力が求められている。ただ私は、環境問題への対応は規制を中心にするのではなく、むしろ環境制約を技術開発のインセンティブとして取り込んでいくことで乗り越えていくべきものであろうと考える。次に中国であるが、中国の乗用車市場は2010年には800~1000万台規模にまで成長すると見込まれている。これはチャレンジであると同時に、日本の自動車産業にとって新たなビジネスモデルを打ち立てられるかどうかの機会とも受け取ることが可能である。グローバルに供給できるかどうかという点が競争力の観点から重要な位置づけになるであろう。第3に、通貨に関しては、もちろん政府として為替レートはコントロール出来ないが、これは古くて新しい問題であり、やはりその影響力は大きい。最後に、コミュニケーションテクノロジーについて、ITS、ETCといったものを想定している。それらの技術はまだ成熟しているとはいえないが、人・車・道路、あるいは人・車・社会の三者の新しい関係としてシステムを構築していくことが求められている。