RIETI政策シンポジウム

Auto Industry Symposium: The 2003 RIETI-HOSEI-MIT IMVP Meeting

イベント概要

  • 日時:2003年9月12日(金)10:00-17:30
  • 会場:法政大学 スカイホール(ボアソナードタワー26F)
  • 開催言語:英語⇔日本語(同時通訳あり)
  • 議事概要

    藤本 隆宏 (RIETIファカルティフェロー / 東京大学教授)

    「アーキテクチャ論から分析する中国自動車産業について」

    アーキテクチャとは「設計思想」であり、オープン/クローズド、モジュラー/インテグラルの二軸から分類できる。ここから産業競争力を分析することで既存の産業分類からでは見えてこない強みが見えてくる。日本はクローズド・インテグラル型に強みを持っているといえる。
    自動車の製品アーキテクチャはクローズド・インテグラル型であり、このまま10~20年は変化しないと考えられる。しかしながら燃料電池車はオープンアーキテクチャになる可能性が高い。このような製品アーキテクチャの大変化が起こる時には競争の構造的変化があると考えられている。つまり、燃料電池車の登場によって自動車というハードウェアのアーキテクチャが大きく変化し、10年前にIBMが総崩れになったような事態が発生する可能性も否定は出来ないのである。
    また、ソフトウェアの影響力も無視出来ない。車載の各種制御ソフト間の摺り合わせが進むことで制御ソフトによる自動車全体の統御が可能になり、それがブランド価値を担保する時代の到来を呼ぶ可能性もある。この場合にはハードウェアは汎用品に変化し、競争の焦点はソフトウェアに移行することになるだろう。このように、アーキテクチャのダイナミックな変化がいつ起きるのか、というのは注意深く見守る必要がある。
    製品アーキテクチャの観点から中国自動車産業を俯瞰すると、一汽VWのパサートのような合弁によるOEM製品もあるが、特筆すべきは例えば吉利(ジーリ)の自動車である。これはトヨタ、ベンツ等各社の部品を寄せ集め、木槌で叩き込むという方法で作られている。世界的には自動車に関してこのような寄せ集めは市場で認められていなかったが、中国では約50万円という低価格を盾になかなか好調な売れ行きを見せているのである。この事実から、アーキテクチャは顧客が決めるものであるということが分かる。
    自動車で寄せ集め製品が出る前に、オートバイでも同様の事態が発生していた。日本メーカーのコピー部品が汎用品として認定され、各社がそれをベースにコピー商品や改造品を販売しているのである。また、ホンダのフレームにヤマハのエンジンといったような寄せ集めも可能にしており、いわばアーキテクチャが擬似的にオープン化している。超低価格でそこそこの品質の製品が大量に供給されているために、全世界で敵なしと言っていいホンダが中国では3%のシェアしか取れていないのである。
    このように、中国は「アーキテクチャの換骨奪胎能力」とでも言うべきものを持っているため、今後はアーキテクチャ間での競争が始まる可能性がある。先述の吉利やホンダの例のようにアーキテクチャは市場が決めるものであるため、日本メーカーにはインテグラル・アーキテクチャで勝ち残るために顧客の教育など顧客ニーズを進化・洗練化させる仕掛けが求められているといえる。

    文責:東 秀忠