経済産業研究所・中信出版社『比較』編集室共催セミナー

制度変換期の日本経済

イベント概要

  • 日時:2003年8月29日 9:00-12:30
  • 会場:北京京倫飯店(北京)
  • 主催:経済産業研究所・中信出版社『比較』編集室
  • パネリストの発言に対するコメント

    青木 昌彦 (経済産業研究所所長、スタンフォード大学経済学部教授)

    皆さんの発言はたいへん興味深かったです。まず、栄教授の総括は非常に有益なものでした。先生は制度変化の5つの特性についてお話しになりましたが、私は全く先生の意見に賛成です。特に興味深かったのは、栄教授が研究機関のモジュール化の問題に触れ、秦海博士が5種類の政府類型に触れられたことです。私はこのモジュール化という概念は改革における多くの場で活用できると思います。私ども経済産業研究所を例にとりますと、元来それは経済産業省内部の研究組織でしたが、2年前にそこから独立しました。研究経費はまだ全て政府からの交付金でまかなわれますが、研究プロジェクトの選択や内容は政府から独立いたしました。私どもは研究テーマ、研究プロジェクトを自由に選べる代わりに、専門に設立された評価委員会の非常に厳格な評価を受けています。委員会は、私どもが選んだ研究プロジェクトの進行状況や質、公共利益への関連性をたいへん厳しく評価し、納税者の立場から見て、私どもがこの方面の仕事をきちんと進めているかをチェックしようということからスタートしているのです。今年10月からさらに多くの政府部門や大学が独立した機関や部門(独立行政法人)に変わりますが、そうなれば機構の透明性と自主性の向上につながるだろうと、少なくとも私は期待しております。

    また林毅夫教授が双軌制について素晴らしい発言をされましたが、これは日本の状況にも似ています。というのは、多くの人は「失われた10年」という見方をしますが、私はそのようには見ておりません。実際、10年の間に新しい要素が育まれているからです。保守的な方法が理にかなうかどうかは一概には言えません。もし政府がすでに競争力を失った産業を保護するとしたら、それは不適切です。しかし、自動車産業のように環境変化に適応しながら国際的に競争力を維持できる産業であれば、従来の日本の方式が継続されるでしょう。

    制度の変化は皆さんが強調されているように深く政治経済問題と結びついているものです。中国も同様だと思いますので、この分野での交流強化を望みます。強調したい点は、私は日本の今日の制度機構は、ある統一した、一枚岩の機構に向かっているとは考えておらず、組織構造から政府構造、金融システムも含め、多様化したシステムに向かうだろうと考えているということです。

    先ほど謝平さんが述べられた金融システムに関するいくつかの意見についてもお話したいと思います。私は謝平さんのおっしゃる日本の銀行システムの問題は本質的には政治問題であるという見方には賛成です。政界、工業界、金融界のさまざまな利益集団間の癒着があり、とくにそれは建築業界屋や小売業界の一部などでは深刻です。しかし、メインバンク・システムは生命力の強い企業にとっては最早それほど重要ではありません。たとえば、自動車メーカーの日産の4年前の負債は300億USドルに達していましたが、この債務はすでに全て返済されています。数カ月前に政府は産業再生機構という公営会社を設立し、不良債権・債務の問題に取り組もうとしています。この公営会社は再建可能な企業の非メインバンクからの不良債務を買い取って、メインバンクと共同して会社を再生させます。中にはこの機構創設に対して、政治家が職権を濫用して私益を図る可能性があると批判する人もいました。しかしこの機構ではどの企業を再生させるかを決定する委員会と実際に再建業務を担当する実務を分離させ、前者は政府から独立した弁護士、検察官などで構成されるメンバーが、企業を存命させていくべきかどうかを決定します。上後者は外部から来た再建専門家、特に金融分野の専門家で、その職責は他でもなく(金融)問題を解決することです。こうすることで、金融システム問題解決の措置を政治家の関与から有効に分離できるわけです。この会社の委員や執行役員は政治家から接触があった場合には、コンプライアンス委員会に報告しなければなりません。私はこのような管理と執行と監視を分離させるモジュール化は非常に重要な一歩だと思います。なぜなら会社の透明性が高まり、専門性が活用され、政治的関与が減少するからです。以上、モジュール化原則をどのように応用すべきかというもう1つの例を、説明させていただきました。

    最後に皆さんに紹介したいのが、今年4月に成立した日本の新会社法です。この法律は日本がコーポレートガバナンス(企業統治)の多様化に向けて進んでいることを示しています。2種類のガバナンス・システムが選択可能です。第一の選択肢はアメリカ的モデルで、取締役会の中に、外部者が多数を占める委員会が設置され、CEOの任命、会計監査、役員の報酬の決定などを行います。第二の選択肢は修正版伝統的日本モデルです。取締役会に外部監査役が加わって監視するシステムです。目下日本の企業は、みなどのモデルを選択するか、決定する努力をしています。たとえばソニーは第一モデルを選択しました。コーポレートガバナンスの構造面では、多くの会社では所有権は集中しているわけではなく、中小株主の手に分散しており、メインバンクがコーポレートガバナンスに及ぼす影響は小さくなりました。過去10年間に銀行の影響力が低下したことにより、日本のコーポレートガバナンスにある種の空白が生まれましたが、目下法律の修正によりこの状況に適応し、コーポレートガバナンスに対する外部の影響力強化を通じて、統治の透明性と効率の向上を図る方針です。現在のところコーポレートガバナンスのモデルはゆっくりと転換しています。今、景気は回復中でありますが、私はそれによって古いガバナンスのモデルが再び息を吹き返すだろうとは考えていません。新しい状況下で新しく興った中小企業も、重要な役割を果たしつつあり、経済全体に占める比率は、それほど大きくなくても、それぞれの分野が及ぼす影響は、益々大きくなってきています。