経済産業研究所・中信出版社『比較』編集室共催セミナー

制度変換期の日本経済

イベント概要

  • 日時:2003年8月29日 9:00-12:30
  • 会場:北京京倫飯店(北京)
  • 主催:経済産業研究所・中信出版社『比較』編集室
  • 日本の金融制度改革に内在する問題と中国に対する示唆

    謝平 (中国人民銀行研究局局長、『比較』編集委員)

    日本の銀行構造改革に関する感想を述べさせていただきます。
    1つ目はメインバンク体制が徐々に衰退していることです。中国も以前メインバンク制度を推進した時期がありました。この制度は中国が正式に推進した制度の1つで、およそ6~7年前に中国人民銀行はそれに関する公式文書を公布しましたが、その後徐々に衰退していきました。現時点でわかった事は、銀行と企業の固定関係に関して言えば、日本のメインバンク制度には株式の所有関係があり、中国のメインバンク制度は固定的な業務があるということです。もっとも、商業銀行には別の理論が存在します。Relationship loanには取引コストを下げる効果があるということです。なぜなら、Relationship loanは貸す側、借りる側双方とも相手の事情をよく理解していて、信頼関係があるからです。企業と銀行の間に非常に緊密に結んだ関係はある程度緩和されてもいい、それほど厳しい制約を受けなくてもよくなりました。しかし、銀行が顧客を選定し、顧客が銀行を選定するプロセスにおいて、やはりloanの相関性をもつことでコストを削減することができます。

    2つ目は、日本の銀行体制と中国の銀行体制において少し似通ったところでもあるのですが、メガバンク主導の体制が存在することです。メガバンク主導の体制は少し変化の兆しがあります。銀行が合併を通じてどんどん大きくなっていくなかで、融資構造の中で銀行融資の割合は少なくなっていき、企業内部の融資と市場からの融資により多くの関心が寄せられています。つまり、日本社会の融資構造のなかで、銀行融資の比重は下がってきているのです。銀行自身についても、日本国内では合併が相継ぎ、メガバンク化の傾向が顕著になってきています。銀行主導の体制は徐々に市場主導に変わりつつあるのです。日本はまだ市場主導とは言えませんが、米国は(証券)市場主導の体制であります。青木教授が述べられたように、市場融資の割合が高くなっていくプロセスは、非常に長い時間をかけて、ゆっくりと進んでいきます。すなわち、銀行主導融資体制から市場融資体制へと変わっていくのは、人々が思っているほど簡単ではなく、非常に長いプロセスを必要とするであろうということです。中国でも同じような現象が起きています。数年前、市場融資の割合は増加傾向にあり、1999年、2000年、2001年には証券融資の割合は10%近く上昇しましたが、現在は下降しています。増加率で見てみますと、昨年と今年は大幅に下がり、証券融資の割合は5%、今年は2%にとどまっています。このように反復を繰り返しながら、ゆっくりとしたペースで体制が変わっていくのです。日本の銀行構造改革の例を見れば、外的要素により制度の変化を促すのは容易ではないことが良くわかります。今のところ、シティバンクのような世界規模のメガバンクは、現代社会においてまだ一定の優位性を持っています。日本型モデルも規模の効果、ネットワーク化の効果、範囲の効果といったメガバンクの優位性を証明しています。メガバンクは安定性があり、多種多様な業務を提供できます。また大きな金融持株会社は総合的な業務を提供することができます。銀行も新技術や制度の変遷のなかで自己業務を絶えず調整し、内部管理体制を改善しています。メガバンクの内部管理コストは非常に高く、管理が難しいと思われがちですが、新技術――IT技術を駆使することにより下がっています。そしてそれは、社会の多様化、モジュール化という現状に適しています。以前は、分散化と多様化により中小規模の銀行が主流になると考えられましたが、現在では必ずしもそうではないことがわかります。日本の銀行体制において、一部の中規模銀行は倒産し、預金保護制度も変わり、限度額付きの預金保護体制となっています。日本と米国の例を見れば、メガバンクには生命力があることを示しています。制度の変化プロセスにおいて、メガバンク主導体制も徐々に適応していくでしょう。

    3つ目は日本の銀行構造改革にとって最も難しく、中国にとっても大きな啓発意義を持つことで、いかにして不良債権を処理するかという問題です。日本は非常に興味深い方法を見せてくれました。つまり、処理しないあるいはゆっくりと処理するということです。日本の実情を見ると、不良債権の背後には情報と政治的な利益集団の複雑な争いが潜んでいます。日本の現状はわが国と似ているところがあります。表面的に見れば不良債権の問題ですが、その背後には膨大な情報、事柄や事件が潜んでいるのです。そのため、日本は不良債権を非常にゆっくりとしたペースで処理し、膨大な不良債権が経済に悪影響を及ぼしていても処理のスピードを速めようとはしません。このことから、銀行の不良債権処理の複雑さがよく分かると思います。日本の例を見ても分かるように、銀行と政治的な利益集団は非常に強い関係で結ばれています。そこから、銀行という商業機関が持っている政治利益を見て取ることができます。