RIETI特別講演会

"Challenges for Asia" by GOH Chok Tong, Prime Minister, Republic of Singapore

イベント概要

  • 日時:2003年3月28日
  • 会場:RIETIセミナールーム(経済産業省別館11階)
  • Questions and Answers [和訳]

    青木: ゴー首相、洞察力に富んだスピーチをありがとうございました。「アジアが直面する課題」という講演タイトルで、まず米国の力が未曾有の規模で優位にあること、次に中国の台頭、そしてインドネシアにおける政治的断絶、最後にEAFTAがこの地域の経済発展を約束する仕組みとなりうるというお話でした。非常に示唆に富んだスピーチだったと思います。自由で双方向な質疑応答は経済産業研究所の伝統であり、ゴー首相にもご快諾いただいておりますので、30分ほど質疑応答を行いたいと思います。質問をお持ちの方がかなりいらっしゃると思いますので、発言は長くとも5分に限っていただきたいと思います。また、質問の前にお名前を名乗って下さい。では挙手をお願いします。

    Sloan(ロイター通信): ロイター通信のSloanです。ゴー首相の講演を伺って、2点ほど心に浮かんだことがあります。まずグローバル化のことについてですが、色々な議論を呼んでいますが、今は特にウイルスによる健康への脅威があると思います。シンガポールとしてはどういった対応をしていますか? 第2に北朝鮮に関する貴コメントに関連し、日本は北朝鮮の核開発をモニターすることをある程度念頭に入れて2機の偵察衛星を打ち上げましたが、これが北朝鮮の何らかの反応を招くとする見方もあります。シンガポールは北東アジアにおける衛星の利用についてどういった考えをお持ちですか?

    ゴー首相: まずシンガポールがグローバル化にどのように対応しているかについてですが、我々の答えはとても簡単です。それは他に選択肢がないからです。シンガポールは小さい国ですので、貿易が必要です。グローバル化のトレンドを見たとき、これを受け入れ、グローバル化がもたらす機会を捉えるしかないと決断しました。もちろんグローバル化に伴う汚染・弊害もあるわけで、我々はそれを最小化するための措置を取っています。

    また、ウイルスの脅威について言及されていましたが、我々がいかにそういったことに対応しているかを示す例として取り上げることができます。シンガポールにとって観光は必要ですし、シンガポール人が旅行をすることも必要です。従って香港や広東などでウイルスが流行しているからといって、シンガポール人に旅をするなとは言えません。十分な注意を促し、潜在的な問題と接触する可能性があるような場所を避けるようアドバイスしています。シンガポールへの渡航自粛勧告を出している国もありますが、我々は実に透明性のある方法でこの問題に対処しているというイメージを与えるようにしています。人々に患者の数や発生源を知らせ、それをオープンに話し合うことで外国から来る人にシンガポールには問題があること、しかしそれは国家的問題ではないということを知らせようとしています。学校閉鎖を行いますが、これは医学的に必要な措置というより、子供を学校に通わせることはウイルス接触の危険にさらすことだと親に知ってもらうためです。新型肺炎の原因となるウイルスの連鎖を断ち切るため、10日間学校を閉鎖すると親に伝えるつもりです。

    これは我々のグローバル化への対応の一例です。グローバル化には良い面も悪い面もありますが、利益を最大化し困難を最小化するよう努力しています。貿易に関する我々のアプローチも同様です。我々は経済を保護するのではなく-もしそうすればコストは膨大になるでしょう-経済を開放し、日本とFTAを締結しました。現在、日本から来た医者や歯医者がシンガポールの医者や歯医者と競合していますが、日本でも同様の競争が起こせるのですからこれは歓迎すべきことです。貿易協定の締結後、日本・シンガポール間の貿易は成長しました。それがFTA締結の成果だと考えられるでしょう。

    次に、日本の偵察衛星打ち上げが北朝鮮の更なる反応を招くかどうかについてです。別の見方をすれば、日本が偵察衛星を打ち上げなかったとしても、北朝鮮にはそのつもりがあると思います。事実北朝鮮は独自の理由で濃縮ウラン開発を進めています。従って、偵察衛星の打ち上げが北朝鮮の反応に影響を及ぼすかどうか私には分かりませんが、北朝鮮で何が起こっているのかをだれかがどこかで把握しているということは、日本のみでなく世界を安心させるものだと思います。

    宗像直子(RIETI): 経済産業研究所上席研究員の宗像直子です。EAFTAに関する提案について質問したいと思います。東アジアの統合という共通のビジョンを持つことが重要なことですが、域内の国々は口では地域と言っていても実際の行動は2国間または地域よりも小さい単位で行われています。それは欧州や米国に比べて政治的団結が無いことが原因でしょう。
    東アジアの統合をどういった順序で進めていくかということも論争の的だと思います。例えば、シンガポールや日本、韓国など、地域統合に向け能力を備え準備が進んでいる国がスターターとなり、残るアジア諸国の地域統合の実現を支援しながら受け入れていくということもありえますが、このような動きは戦略的な不信感から中国を囲い込もうとしていると見られるかもしれません。このパズルをどうやって解決していけるでしょうか?

    ゴー首相: もし我々がビジョンとイマジネーションしか持っておらず、そしてこのビジョンを実現化する手段を持っていないとすれば、我々は雲の中で生きることになります。しかし、ビジョンを持たず目前の問題を解決するための具体的な手段を取るだけでは、稚拙なリーダーシップということになります。我々はビジョンを現状に結びつける方法を見つけなければなりません。政治的な連帯を全ての国の中で確保してからビジョンの話をするべきなのでしょうか。もちろんそれは理想的なことですが、現実には今の質問者が上げる理由にもあるとおり不可能なことです。各国はそれぞれ異なる発展段階にあり、発展段階の遅い国は開かれた形での経済統合に対して不信感を持っています。

    従って私は、将来へのビジョンを中期的また長期的に提示し、域内各国に対し我々はどこに向かうべきかを唱えて行きたいと思っています。

    さて、ではどうすればそのような状況に到達できるのか。まずは2国間で話しあうべきです。もし多国間ベースでEAFTAのことを話し合うとすれば、例えばいきなりASEAN10プラス北東アジア3カ国、これに台湾経済と北朝鮮も加えるとすれば、にっちもさっちも行かないでしょう。

    ですから2国間でまずは話を進めていくということで、我々は日本にシンガポールと2国間FTAを締結するよう説得しました。2カ国の経済は、相互補完の関係なので容易なのです。もちろん我々の農業セクターに対する影響はありますが、熱帯魚や蘭の花への影響であれば受け入れることはできます。

    こうして1つのFTAが締結されましたが、シンガポールが日本とFTAを締結することで周囲に対して優位に立つと見るや、すぐにバランスを保とうとする動きが出てきました。マレーシアはシンガポールが日本とFTAを締結することを批判していましたが、今や日本はマレーシアと話し合いを進めており、フィリピンもすぐに続くでしょう。1つの2国間が複数の2国間へと移行しています。さらに中国は、日本がシンガポールと対話するのを見てASEAN・中国間のFTAについて提案してきています。中国は経済が発展してもASEANを圧倒するつもりは無いと安心させたがっているため、ASEANのリーダーに中国の発展をうまく利用するようにと言ってきています。これは元気付けられる動きです。ASEANは中国のこの提案を1年かけて熟考した末、中国との交渉を進める決心をしました。

    日本は中国とアセアンの取り組みが日本の2国間取り組みより早く進むのを見て、「FTAではなく、FTAの要素を含んだ包括的な経済連携を進めてはどうか」と提案しています。また、韓国は興味を示していませんでしたが、今はシンガポールとの2国間FTAを話し合っています。

    これら全てが実現した時、これらはASEANおよびシンガポールに向かうスポーク(輻)になります。スポークの1つは中国からASEANへ、1つは日本からシンガポールを通じてASEANへ。しかし、日本と中国がASEANの愛を奪い合うことになれば、それは東アジアを2分することになるでしょう。ご存知の通り、この状況は多くの恋人がいることを厭わない状況です。多ければ多いほど良いかもしれません。しかし、いつか我々はEAFTAとしてそれら全てを結び付けなければなりません。全ての経済を結びつけて1つにする、EAFTAという最終段階を達成するために、我々は積み木アプローチや2国間アプローチを採るのです。しかしそれだけで十分でしょうか? FTAとは、モノといくつかのサービスの貿易だけのことです。最終ゴールはEUに似た東アジア経済共同体といえるでしょう。しかし、人の自由な行き来ができるようになるでしょうか? 私は無理だと思います。なぜならシンガポールはそうしてしまった場合、2千万人の人口を抱えるようになり、それを支えることは不可能です。このように東アジアでは、ヨーロッパのやり方ではうまく行かない部分もあります。では東アジア共通通貨はどうでしょうか? それは可能性があると思いますが、どの通貨がより強いのかを見極める必要があります。人民元なのか円なのか。今は分かりませんが時間が答えを出してくれるでしょう。20年、30年、50年後には、ASEANや東アジアの共通通貨としてどれを使うべきかを話し合っていることでしょう。それは人民元でも円でもなく、新しい通貨でしょう。EUにEuroがあるように、アジアにはAsioとか、もっと日本語のような音のする言葉かもしれません。私にはこれらの全てが可能性として見えます。夢追い人は50年、100年先のことを夢見なければなりません。しかし、夢追い人は夢を実現するためにどのようなステップを踏まなければならないかも知っていなければなりません。我々はこの経済産業研究所とシンガポールが、我々はどちらも夢追い人ですが、実生活の担い手であるよう望んでいます。
    中国を囲い込むということについてですが、EAFTAというのは中国もその一部なので、中国を包囲するという話ではありません。

    草生(フォーサイト編集部): フォーサイト編集部の草生です。スピーチでも言及されていたメガワティインドネシア大統領が直面する課題であるイスラム原理主義についてですが、イラクで現在起きている戦争が東南アジアの穏健派イスラム教徒へどのようなメッセージを送っていると思いますか? また、昨年シンガポールでは未遂でしたがテロ攻撃がありました。そういった反動を恐れていますか?

    ゴー首相: イラク戦争における東南アジアの位置付けについては、お気付きのことと思いますが政治的立場や反応がシンガポールとフィリピンでも、マレーシアとインドネシアでも異なります。インドネシアとマレーシアではイスラム教徒が人口の多数を占めています。シンガポールのイスラム教徒の人口も16%と大きいです。フィリピンにもイスラム教徒は多く、南部に集中しています。しかしなぜシンガポールはインドネシアやマレーシアとは異なる立場を取ったのか? 我々はこれを大量破壊兵器問題として捉えており、イスラム問題とは考えていないからです。米国はイラクにイスラム教を破壊しに行くのではなく、イスラム国家を攻撃するわけでもありません。目隠しでもしていない限り、今回の戦争がサダム・フセインから大量破壊兵器を取り去るためのものであることは明らかです。

    そしてサダム・フセインには過去に大量破壊兵器を使用した経緯があります。ではシンガポールの関心事は何でしょうか? この件に関する我々の対外政策や安全保障のスタンスは? 我々は、サダム・フセインは核兵器ではなく生物化学兵器を保持していると確信しています。そしてこれらの兵器がテロリストの手に渡り、米国や米国の友人を攻撃する可能性が高いとも考えています。テロリストはシンガポールをシンガポールとして攻撃することはないでしょうが、シンガポールにある米国および西側の標的を攻撃するかもしれません。2年前実際にそういうことがありました。国全体が吹き飛ばされるようなひどい経験でした。テロリストは7台のトラックに爆弾をしかけ、異なる7箇所を同時に爆破しようとしたのです。その中には米国大使館があり、近くにはイギリス大使館(高等弁務官事務所)、オーストラリア大使館(高等弁務官事務所)がありますので、1つの爆弾で3つの大使館を爆破しようとしたのです。

    当然ながらテロリストはいくつかの米国企業の事務所も標的にしましたが、ほとんどはアメリカ人ではなくシンガポール人が駐在していました。また、米国人が学校や職場から帰宅するのに利用する地下鉄も狙われました。アメリカ人が殺害される可能性はありましたが、より多くのシンガポール人が殺される危険性があったのです。実際にテロの脅威があるという実体験、シンガポールの7つの異なる場所で爆破があったかもしれないという事実、しかも7つの異なる場所とは600平方キロしかないシンガポールでは国全体を意味しています。これがどれほどのショックだったか想像できますか? 我々はこのことをシリアスに捉えており、ゆえに大量破壊兵器をイラクから取り去ろうと言うのです。そして米国がサダム・フセインに勇敢に立ち向かうとすれば、米国が北朝鮮やテロリストにどう対処するかも分かります。北朝鮮はより多くの武器を持つようになり、テロリストは世界中で暗躍するようになるでしょう。これはとても危険な事態です。シンガポールは米国と歩調を合わせ、イスラム教徒を含むシンガポール国民に対し、この戦争が西側のイスラムへの攻撃ではなく我々自身にとっての安全の問題であるということを説得することができました。従って我々は国家的利益から今の立場を取ったのです。

    私はインドネシアやマレーシアの穏健派イスラム教徒もこのことを理解していると信じています。インドネシアの反応を見てみると、平和的デモの開催は許可されています。メガワティ大統領とイスラム教のリーダー達は、自身の信念と政治的必要性から米国のイラク攻撃を批判しています。もし米国を支持したら、彼らは2004年の選挙では勝てないでしょう。だから彼らは米国を批判し、米国に反対するデモの開催を許可しているのです。しかし穏健なデモにのみ限っています。マレーシアも同様です。本件に関してマレーシアはより率直な態度を取ってきましたが、デモに関しては政府が組織したもの以外は全て禁止しました。政府が組織したデモを実施する時は、悪い方向へ行くはずはありません。もし悪い方向へ行ってしまったとしたら、その国は大問題をかかえているということになるでしょう。イスラムの方式では、たとえこれが米国のイスラム国家への攻撃ではなく、イラクがたまたまイスラム国家だったのでイスラム教徒が戦争で殺される可能性があるということを理解していても、イスラム国家に対する米国の攻撃には反対であるということを示さなければならないのです。イスラム教徒がイラクのイスラム教徒に対して感じる同情は理解できます。戦争の犠牲になるのは市民ですから。しかしシンガポールは将来的な安全保障に関する目論見から、国益のために異なる立場を採るのです。

    奈良: 奈良と申します。1969年から1972年までの3年間シンガポールへ大使として赴任していました。私の質問は、シンガポールのように小さい国をどうやってあれほど美しく世界で最も成功した経済となし得たのかについてです。私がシンガポールに赴任した際には、前職がニューヨーク総領事だったこともあって、世界最大の町から世界最小の国に赴任することに大変失望していました。しかし私の滞在期間に貴方はシンガポールを変えてしまいました。これは全て、貴方と前任のリークァンユー氏のリーダーシップの賜物です。日本にはゴーチョクトンもリークァンユーもいませんので、国を発展させる秘訣を教えてもらえませんか?
    第2の質問は、隣国マレーシアについてです。私は貴方が下水道の水を飲んでいる写真をみました。今後、水についてはどうなさるつもりですか?

    ゴー首相: シンガポールで奈良さんとは何度かお会いしました。古い友達です。ここにいる在日シンガポール大使に、リークァンユーを日本に連れて来たら彼は日本をうまくリードすることができると思うかと尋ねたことがあります。ばかばかしいという答えが返ってきました。リークァンユーは日本の政治システムの中では生き延びられないと。つまり私は、政治や政府のシステムがリーダーシップの程度を決めるのだと思います。リーダーシップは質が肝心です。シンガポールはリークァンユーとその仲間達が建国しましたが、彼らは国家の優れたリーダーシップの意味をよく知っていました。彼は若かった私や現外務大臣を政治の世界に参加させるのにいつも例え話を使いました。当時、外務大臣は大学の法学教授で大変尊敬されており、教えることを楽しんでいましたし、私は船会社を経営するのを楽しんでいました。そんな時リークァンユーから「もし一国の内閣が多国籍企業の取締役会より弱かったら、その国には何のチャンスがあるだろうか」と聞かれました。そして、米国や欧州の多国籍企業の取締役会を例に、ある1社の取締役会メンバーの質が多くの国の閣僚の質より勝っていることがあるが、もしシンガポールの閣僚の質が取締役会にも劣っているとするならば、シンガポールには生き残るチャンスは無いと言われたのです。私たちは将来の取締役会のメンバーとみなされたと思い、政治に参加することに決めましたが、彼の説得方法は「もし君達が私の人民行動党に参加できないなら、他に誰を推薦するのか。君はだれの指導の下で生活し、子供を育てたいと思うか」というものでした。よく考えた末、我々が政治に参加した方がまだ良いと思ったので参加することにしたのです。

    この話の要点は、現在は我々もリー氏の知恵を吸収したので、シンガポール全体を政府のリーダーをリクルートする場として捉えているということです。従って、毎回選挙の後で大学、企業、公務員、軍、警察などシンガポール全体を調査し、知的能力と可能性のある人を政府に招き入れます。しかしこれは第1段階で、もっと重要なのは個々人の個性、つまりやる気やエネルギーや想像力と現実性のバランスなどを計るということです。アイデアばかりで現実性の無い人は何ももたらすことが出来ないので、シンガポールでは政治家にはなれません。しかし現実的であってもビジョンがなければ指導者にはなれません。私たちは政治の舞台に人々を生かそうとし始めたばかりです。

    我々シンガポールの第2世代の指導層が幸運なのは、リー氏とその仲間がシンガポールという家を建てた時、彼らはその後に続くいくつかの物語をイメージしていました。彼らは家の基礎を築き、我々は枠組みを作ることになりました。基礎は非常に安定しており、建築計画もあります。我々は世界の情勢が変化しない限りは計画に沿って建築を進めます。もし情勢が変わったとしても、デザインは変更しますが基礎的枠組みはそこにあります。ここで言う枠組みとは物理的なものだけではなく、哲学や価値観も含まれます。ひとつの価値観がシンガポール政府の品位を示しています。それは、良くも悪くも、ミスを犯しても犯さなくても、人々に対してオープンであるということです。もしミスを犯しても、それを認め是正する解決策を一緒に考えるということです。

    我々の持つもう1つの価値観は、実力主義です。シンガポールの大臣は、コネではなくその能力によって指名されます。こうして我々は責任感のある適任者を得ることができます。このシステムを正しく保持すれば、システムを運用するのに適した人材を得ることができ、シンガポールの成長も保てるわけです。しかしながら、それらは要素の1つではありますが、私は人間の重要性を無視したくはありません。よくシンガポール人は従順であると西側プレスは批判しますが、間違った政策などを取った場合には人々から大変な非難を浴びることでしょう。人々が我々の言うことをよく聞いてくれるのは、我々の政策が正しいからであり、従順な人々ということではありません。人々は勤労に励み、議論も出来て、リーダーに従う。こうして我々はシンガポールを建国してきたのです。我々の問題は現在にはなく、将来どうやってシンガポールの成長路線を継続していこうかという点にあります。それは簡単ではありませんが、私は既に私の後継者を見つけており、彼を長々と待たせるつもりはありません。私の政権の最高時に私は身を引き、次の人が後を継ぐでしょう。それが我々のシステムの運営の仕方なのです。

    次の質問はマレーシア関連ですね。それは大変複雑かつシンプルなことです。ほとんどの水をマレーシアから買っている我々にとって、水は戦略的関心事です。マレーシアにとって水は良いツールですが、二者の間で問題を引き起こしかねないため、末永く良好な関係を保持するのに適切とはいえません。長い目で見て、我々は独自で水を供給できるようにならないといけません。

    四方を海で囲まれていますので、海水を淡水化すればよいわけですから、水が不足することは無いでしょう。しかし海水を淡水化して供給するのは大変コストがかかります。そこで我々は、膜を使った新しいテクノロジーを開発しました。これは下水から水をろ過することができ、水質はWHOの基準をクリアしています。ここ数年こっそり研究してきましたが、米国からコンサルタントを招聘し、水質調査を行っている担当者にも面接しました。我々は、ろ過した水が本当にきれいで飲料可能であるという結果に大変満足しました。首相として、もし私がその水を飲まなかったら誰が飲んでくれるでしょうか? というわけで、テニスの後でリサイクルした下水を飲んだわけです。現在、この技術を学びに海外から人が来るようになりました。米国ではフロリダ州や(カリフォルニア州の)オレンジ・カウンティーで、また一部のヨーロッパでもこの方法は採用されています。我々は“これはOKだ”といえるのですが、あとは心理的な問題のみです。しかし、誰のおかげでこのリサイクル水が人々に受け入れられたのかと言えば、それはマレーシアです。その意味ではマレーシアに感謝しなければなりません。水の問題ではマレーシアが我々をこき下ろしていたので、シンガポールの人々は何の問題も無くこの新しい水を受け入れたのです。

    青木: セッションを終了するのには良いトピックでしたね。残念ながら質疑応答を終了する時間となりました。ASEAN統合へのさらなるリーダーシップの継続とすばらしいスピーチに感謝し、拍手をお願いします。

    ゴー首相: ありがとうございました。