RIETI政策シンポジウム

コーポレートガバナンスの国際的動向 ~収斂か多様性か~

アカデミックコンファランス概要報告

アカデミックコンファランス会場風景 1月8日(水)と9日(木)の2日間のアカデミックコンファランスにおいては過去から近年にいたるまでの世界各国のコーポレートガバナンスの変化について理論的・実証的な分析が呈示され、経済学的視点のみならず、法的あるいは実務的視点といった幅広い観点から突っ込んだ議論が行われた。

1月8日(水)

第1セッション前半

アカデミックコンファランス会場風景最初にRIETI所長である青木昌彦より「組織アーキテクチャと企業統治の間の制度的補完性について」と題してプレゼンテーションが行われ、「さまざまなコーポレートガバナンスの形態を分析するにあたっては比較制度分析的な手法が有用である」とし、ヒエラルキーモデルやシリコンバレーモデルなど4つのシステムを分析、そして「コーポレートガバナンスにはさまざまな形態が存在しうること、これらのシステムは他のドメインにおける制度的アレンジメントによって補完されている可能性があること、コーポレートガバナンスのアレンジメントと関連する組織的アーキテクチャは関連して発展しうること、ドメイン間の補完性によりコーポレートガバナンス制度も強固なものである可能性があること、一方で、法はゲームの構造および結果に影響を与えうること、しかしながら、法的ルールは補完的ドメインにおける均衡点と整合的でない場合には所期の結果を生み出さない可能性があること、逆に持続的な法的ルールは補完的制度の長い歴史の下で発展したひとつの均衡点であると理解されること」などが示された。
続いて、Franklin Allen氏(ペンシルバニア大学教授)より「コーポレートガバナンスに関する比較分析」と題してプレゼンテーションが行われ、「一般にコーポレートガバナンスにはアングロサクソンモデル(H?mode)とステークホルダーモデル(J-mode)があるといわれること、J-modeにおいて年配経営者と若年経営者が相互に共同して経営をしているモデルを想定してモデルを構築すると、市場が不完全な場面においてはステークホルダーモデルの方が優れている可能性があること、アングロサクソンモデルはコーポレートガバナンスの一形態にすぎないこと」などを、理論モデルを用いて示した。
その後、柳川範之氏(RIETIファカルティフェロー・東京大学大学院経済学研究科・経済学部助教授)および星岳雄氏(RIETIファカルティフェロー・カリフォルニア大学サンディエゴ校教授)よりコメントが提起され、議論が行われた。

第1セッション後半

第1セッション後半においては、Curtis Milhaupt氏(コロンビア大学法律大学院教授)より「投資家保護におけるNPO:東アジアにおける会社法のエンフォースメントの問題解析」と題してプレゼンテーションが行われ、「コーポレートガバナンスのエンフォースメントの側面に関しては、韓国ではPSPDといわれるNPOが、台湾では証券先物機構によって組織化されたNPOが、そして日本では株主オンブズマンといったNPOが活動していること、それらは会社法のエンフォースメントという観点から重要な役割を果たしていること、それぞれのNPOの活動は歴史的経緯や法制度、政治などに規定されて多様であること、こういったNPO活用手法は中国におけるコーポレートガバナンスのエンフォースメントにも活用することが考えられること」などが示された。その後、Jang Hasung氏(高麗大学教授)および宍戸善一氏(成蹊大学法学部教授)よりコメントが呈示され議論が行われた。

第2セッション前半

最初にOren Sussman氏(オックスフォード大学Saidビジネススクール教授)より「英国の中堅企業における過剰債務問題と銀行のリストラクチャリング」と題してプレゼンテーションが行われ、「世界では裁量的な裁判所が介入する米国型の会社再建システム(Chapter 11)がしばしば取り上げられるが、英国は契約重視型モデルを採用しており、そのプロセスで債務帳消し問題や債権者の(担保権の)前倒し執行問題などは生じておらず、むしろスピーディで効率的な再建メカニズムになっていること」が示された。
続いてXu Peng氏(RIETIファカルティフェロー・法政大学経済学部教授)より「日本における破産:会社更生法と民事再生法の比較」と題してプレゼンテーションが行われ、「日本においては、多くの破産企業において経営者の交替が行われること、貸し手はかつてに比べて必ずしも積極的に介入をしないこと、債権順位はおおむね保全されること、民事再生法においては会社更生法との比較において計画取りまとめにかかる時間が短縮されていること、したがって日本の倒産にかかわる法改正は概ねその目的を達成していること」といった点が指摘された。
その後、Franklin Allen氏および柳川範之氏よりコメントがなされ、参加者で議論された。

第2セッション後半

アカデミックコンファランス会場風景最初に宮島英昭氏(RIETIファカルティフェロー・早稲田大学商学部ファイナンス研究所)および蟻川靖浩氏(RIETIファカルティフェロー・山形大学人文学部助教授)より「投資とコーポレートガバナンス:90年代における日本の分析」と題してプレゼンテーションが行われ「90年代において製造業の投資は債務の増大と負の相関関係があったこと、一方で非製造業(特に不動産および建設業)においては、正の相関関係があったこと、特に製造業においては97年の金融危機以降特に投資額が減少したこと、それは負債により規律が働いたのか資金調達の困難性が過少投資を招いたのかいずれか(あるいは双方)であると考えられること、これらは外資の株式保有、メインバンク比率、企業の成長可能性などとも密接に関連すること」などが示された。
その後Xu Peng氏およびColin Mayer氏(オックスフォード大学Saidビジネススクール教授)よりコメントが行われ、議論がなされた。

1月9日(木)

第3セッション前半

Gregory Jackson氏(RIETI研究員)より「独のコーポレートガバナンスにおける従業員:制度的リンケージと補完性、緊張関係の変化」と題してプレゼンテーションが行われ、「かつての独企業においては長期的資本、長期雇用、合意に基づく経営、水平的な組合、インサイダーコントロールなどの特徴があったが、近年それらは大きく揺らいでいること」を示し、3つの軸(Class Conflict, Insider/Outsider Conflict, Accountability Conflict)にそって社会学的な分析を試み、うち「Class Conflictは『株主と経営陣』対『労働者』、Insider/Outsider Conflictは『株主』対『経営者と労働者』、Accountability Conflictは『株主と労働者』対『経営者』において生じていること、一方で、労使の共同決定や集団交渉といった独のコーポレートガバナンスの特徴は機能的な変化を伴いながらも引き続き残されていること」などを明らかにした。
続いて星岳雄氏および阿部正浩氏(RIETIファカルティフェロー・獨協大学経済学部助教授)より「企業金融とHRM(Human Resource Management):日本におけるコーポレートガバナンスの変化の分析」と題してプレゼンテーションが行われ、「日本企業のコーポレートガバナンスは70年代後半から大きく変化しつつあること、その変化は独の変化と共通する部分も多いこと、その過程で終身雇用と年功序列、特殊技能重視といった雇用関係も90年代に入って大きく変化し、成果主義の導入、賃金ギャップの増加、パートタイム労働者の増加などが見られるようになってきていること、そして終身雇用を採用しない企業、成果主義を導入する企業、フレックスタイムシステムを導入する企業、永年勤続賞が存在しない企業、発明者に対する報酬のある企業は概して銀行への依存度が低く、外資に所有されている割合が高いこと」などを示した。
その後、酒向真理氏(RIETI客員研究員・オックスフォード大学Saidビジネススクール教授)よりコメントがなされ、続いて議論が行われた。

第3セッション後半

Colin Mayer氏より「所有及びコントロールの発展と組織」と題してプレゼンテーションが行われ、「(20世紀における英国企業の所有とコントロールについて分析してみると)投資家保護が所有の分散を促すと一般にいわれているが、英国においては投資家保護ルールがなくても所有は分散し、大きな資本市場が形成されたこと、創業一家は所有が分散した場合であっても(ボードの構成員に存続するなどして)コントロールを維持すること、『信頼』と『地域における暗黙の契約』が所有の分散に大きな役割を果たしたこと、英国は前世紀初頭には現在の独のような所有構造となっており、独と英の企業構造の発展形態は対照的であること」などが示された。
その後、Gregory Jackson氏および宮島英昭氏よりコメントが呈示され、議論が行われた。

第4セッション前半

アカデミックコンファランス会場風景Tong Daochi氏(中国証券監督管理委員会副主任)より「コーポレートガバナンスの比較分析:中国の公開企業の場合」と題してプレゼンテーションが行われ、「中国においては国有企業における統治の欠如、忠実義務の不存在、インサイダーコントロール、プロの経営者の不在などの問題があること、近年、社外取締役の導入や忠実義務の導入、ディスクロージャーの強化、機関投資家の育成など大幅な改革が行われたこと、しかしながら、そのエンフォースメントについてはさらに強化していく必要があること」が示された。
続いてHu Angang氏(清華大学教授)より「移行期における中国のコーポレートガバナンス:レビューと今後」と題してプレゼンテーションが行われ、「WTO加盟と第16回全国人民代表会議を契機にコーポレートガバナンスに関する関心が強まっていること、中国においては大きく分けて(1)国有企業、(2)家族経営、(3)個人経営、(4)ジョイントベンチャー、(5)移行期のガバナンスの5つの企業形態があり、それぞれにおいて企業の形態、所有者、所有構造、インセンティブシステム、外部コントロールなどが異なっていること、資本市場においては政府の役割はより重要になること、市場開放と機関投資家の育成、取締役会の強化などが重要な課題であること」などが示された。
その後、津上俊哉氏および青木昌彦氏よりコメントが提示され、議論が行われた。

第4セッション後半

Jang Hasung氏(高麗大学教授)より「経済危機後の韓国におけるコーポレートガバナンスの発展」と題してプレゼンテーションが行われ、「韓国においても社外取締役や監査委員会の導入、ディスクロージャーの強化、株式相互保有の禁止、利害関係者との取引の規制、外資規制の撤廃、敵対的買収の解禁、ホールディングカンパニー制度や累積投票制度の導入、主要株主の責任強化、少数株主権の強化、クラスアクションの解禁などが行われ、その実態も大きく変化、一方で、韓国財閥の家族コントロールの残存、ペーパーカンパニーの横行、エンフォースメントの脆弱性などの課題が残っていること、しかしながら、コーポレートガバナンスインデックスと企業価値との相関関係は極めて明白に見られること、今後の課題は公正効率的な裁判所のシステムなどの法的システムの改善、少数株主アクティビストなどの市民社会役割の増大などがあること」が示された。
その後、岡崎哲二氏(RIETIファカルティフェロー・東京大学大学院経済学研究科教授)および鶴光太郎氏(RIETI上席研究員)よりコメントが示され、議論が行われた。

最後に青木昌彦氏より、「以上の議論を踏まえ、東アジアをはじめとする各国のコーポレートガバナンスの比較制度分析をより深めていくことが重要であること、その際に各国の専門家の連携を一層強化することが必要であるが、特に、経済学者だけではなく今回のコンファランスにおいて試みが行われたように、法学者や実務家も交えて横断的に分析を精緻化させていくことが重要であること」が総括的に指摘された。

(文責:赤石浩一)