政策シンポジウム他

アジア太平洋の安全保障環境

イベント概要

  • 日時:2002年12月18日(水)10:00-16:00
  • 会場:RIETIセミナールーム(経済産業省別館11F1121)
  • 開催言語:英語(日本語同時通訳つき)
  • 主催:RIETI
  • アジア太平洋地域における安全保障問題の論点

    SOEYA Yoshihide (RIETI / Keio University)

    12月18日にアジア太平洋の安全保障環境を話し合うシンポジウムが開催されます。これに先立ち、添谷芳秀ファカルティフェローにシンポジウムの論点などを伺いました。

    RIETI編集部:これまで研究所で取り扱ってきた問題は経済中心でしたが、あえてRIETIで安全保障問題を取り上げる意義はなんですか?

    添谷:経済が安全保障問題に影響されるようになっていることが大きな理由として上げられます。とりわけ、米国が安全保障を政策の第一の優先課題にしていることが大きいと思います。昨年9月11日の対米テロ攻撃以来、アジア太平洋を含めた世界の安全保障環境は大きく転換しています。北東アジア・中央アジア・南太平洋・南アジア・東南アジアの安全保障に関する5人の専門家が、それぞれの地域からみた安全保障の視点を提示し、議論するのが今回のシンポジウムの趣旨です。
    テロ自体がこれまでの西側中心の自由主義に対するアンチテーゼともいえるでしょう。大規模テロは自由主義的経済システムを溶解させる潜在性をもっています。実際、9.11後、株式市場がおかしくなり、金融市場がかく乱されています。ブッシュ大統領は正面から対決する意志を表しています。それぞれの地域は米国の政策をどのように見ているのか、9.11後、地域の安全保障はどうかわったのかも重要なテーマです。今後のアジアを考える上での材料がふんだんにでてくると期待してください。

    RIETI編集部:アジアの安全保障の図式上、北朝鮮が大きくクローズアップされています。背景を教えていただけますか?

    添谷:根底には米国主導の図式があります。特にブッシュ政権は強硬な対北朝鮮政策を掲げており、かなり北朝鮮も怖がっているといえます。対米交渉の余地はほとんどなく、だからこそ日本にも譲歩を示したのだろうと思います。とはいえ、米国は絶対に核を認めないとしても、すぐに北朝鮮の体制をつぶすつもりもありません。北朝鮮はここ数年、国交を回復できる国とは立て続けに回復し、精力的に外向きの外交を展開してきています。日朝会談では核問題を含む全ての問題を協議しており、日本が今後の北東アジアの安全保障を左右する展開の先頭を切る形になっています。そこでは、どう米国を利用できるのかがひとつの大きな焦点です。

    RIETI編集部:拉致問題についての日本での報道が白熱しています。

    添谷:拉致は国家主権の問題であると同時に普遍的な人権問題です。もし米国で同じことがおこったらもっと強硬な策を講じていたはずです。北朝鮮がこれまで存在しない、としてきた拉致問題を認めて謝罪したのは前代未聞であり、米国との交渉余地がない状況で、日本との関係を打開する必要性に迫られているのだと思います。これまでは核を開発することで体制の生存を図ろうとしてきたのが、もはやそれではサバイバルできないと認識したのだともいえます。体制のサバイバルという目的は変わらないが、手段を変える必要性を感じ、日本に対して拉致問題を認めたのです。日本は有利な立場ですので、原則論をきちんと主張すること自体は正しいことだと思います。
    しかし同時に、日朝交渉の行方はアジアの秩序に大きな影響を与えます。ですから日本も、「拉致問題」「地域の秩序」の2つを整合的に考える必要があります。北朝鮮が日本に圧力を加えるために「日本が拉致問題に固執するなら先に米国と交渉する」といったとしてもそれは全く無理なオプションであって、日本と交渉せざるを得ないのが実情です。 これまで日本外交は、戦略論を持っていなくてもなんとかなってきました。今回、外務省が拉致被害者の方を軽んじるような対応をした、と批判を受けていますが、外務省が戦略論と拉致の問題との両方に苦労していることも事実です。マスコミによる外交問題の扱い方にも問題があり、外交をやりにくくしているのも確かです。
    本来、こうした困難な時にこそ、何よりも政治家同士の議論がなされるべきです。55年体制が崩壊し、社会党が弱小化し、自民党も単独政権ではやっていけない。このような中で自民党と連立している政党も、離脱のカードを持っているはずなのに自民党を牽制しない。野党がまったく機能しておらず、健全な対北朝鮮外交のオルタナティブが示されないことに問題があります。55年体制が壊れた後、健全な多元主義の軸がしっかりしていません。本来もっと政治が国民に異なった選択肢を提示し、外交の場においても民主主義の本来の機能を果たさないといけないと思います。

    (RIETI編集部 熊谷晶子)