政策シンポジウム他

アジア太平洋の安全保障環境

イベント概要

  • 日時:2002年12月18日(水)10:00-16:00
  • 会場:RIETIセミナールーム(経済産業省別館11F1121)
  • 開催言語:英語(日本語同時通訳つき)
  • 主催:RIETI
  • 議事録

    SHIRAISHI Takashi (RIETI / Kyoto University)

    どのように、どの程度、9.11テロと「テロとの戦争」がアジア地域の安全保障環境や、各国の政策の優先順位に変化を与えたのかを議論したい。その中心となるのが東南アジア地域である。北東アジア地域、南アジア地域にはその都度触れていく。

    東南アジア地域は「テロとの戦争」の第2戦線として浮上している。その理由には、マレーシア、フィリピン、インドネシアに多く存在しているイスラム主義者の存在が挙げられる。ここで指摘しておくべきことは、これらの原理主義者はこの地域内の要因から誕生し、育ったということである。すなわち、彼らは自生なのである。例えばインドネシアでは、イスラム原理主義者は1940年代から存在していた。そして彼らは武装化を進め、イスラム国家の樹立を目指した。こういった動きは1940-50年代当時には、インドネシアにとっては大きな脅威であった。ジャマーイスラミアは、1970年代のイスラム主義運動の残党から成り、1980-90年代には、インドネシアを中心とした活動拠点を築いた。こういったイスラム原理主義には、さまざまなタイプのものが存在する。より強硬なものもあれば、穏健なものもあり、また政治目的を持たないマフィアタイプのものも存在する。つまるところ、一概に、東南アジアのイスラム教徒は危険であり、中東から戦いの場を求めてやってきたとするのは誤解である。東南アジアのイスラム教徒はこの地域に自生的なものなのである。

    SHIRAISHI Takashiまた、東南アジアにはイスラムの脅威よりも大きな持続的構造が存在する。この構造は2つの要素によって変化している。ひとつは1997年のアジア通貨危機の影響といえるものである。例えば、インドネシアの軍隊や警察は、スハルト政権下にあっては必要な資金の30%を国家予算から得ていたが、この残りの70%は、非公式な経済活動によってまかなわれていた。しかし、現在ではよりひどい状況であると思われる。通貨危機の影響で軍隊や警察はこういった資金源に頼ることができなくなった。その後には、2つの資金源に頼ることとなった。1つは資金や中小企業の保護であり、もうひとつは麻薬の密売やギャンブルである。すなわち、インドネシアの軍隊や警察にはこれらからの資金が重要であり、テロリストの取締りなどの本来の業務は資金の確保につながらないため、関心の薄いものとなっているのである。こういった状況は、現在の経済状況が続く限りなくならず、インドネシアは東南アジアの安全保障構造における脅威となりうるであろう。

    もう1つの重要な要素は、中国の長期的な台頭である。ここには3つの重要な局面が存在する。1つは、東南アジアに関するものである。中国が経済大国、軍事大国になり、日本は停滞するという認識が広がることにより、東南アジア諸国、特に内陸の小国は中国にバンドワゴンする傾向が現れた。次は北東アジア地域に関するものであり、中国が台頭し、日本が停滞することにより地域のパワーバランスが崩れるのである。最後が、台湾問題である。台湾からの投資が増大し、台湾人の多くが中国本土に存在している。すなわち、台湾にとっての中国の脅威とは安全保障上のものではなく、中国に吸収されることなのである。

    9.11テロや「テロとの戦争」は確かに大きな意味を持っている。しかしながら、それと同時に中国の台頭やアジア通貨危機の影響も大きなものである。