政策シンポジウム他

アジア太平洋の安全保障環境

イベント概要

  • 日時:2002年12月18日(水)10:00-16:00
  • 会場:RIETIセミナールーム(経済産業省別館11F1121)
  • 開催言語:英語(日本語同時通訳つき)
  • 主催:RIETI
  • 議事録

    Mehrdad HAGHAYEGHI (Southwest Missouri State University, USA)

    9.11テロ後におけるアメリカ主導の「テロとの戦争」は、少なくとも短期的には、グローバルもしくは地域における安全保障環境に影響を及ぼしている。このような変化は、「テロとの戦争」における私がいう「グラウンドゼロ」、すなわちアフガニスタンやその周辺において顕著である。

    9.11テロとその後の対テロ活動がこの地域にどのような影響を与えたのかを考える前に、この地域の脅威の要素を概観したい。この脅威の起源は中央アジア地域の域内、域外の両方に存在する。

    域内的には大きく分けて4つの脅威が存在する。第1にはイスラム過激派が中央アジアにおいてその活動の拠点を見出したことである。第2には独裁体制や抑圧の仕組みが強化されていることである。このような傾向によって、民主主義勢力のような新しく台頭すべき政治勢力が締め出されている。第3の点は、中央アジアの経済的窮乏と貧困の増大である。ソ連の崩壊によって最も大きな影響を受けたのはこの地域であり、今現在も事態は回復していない。そして、この貧困がイスラム過激派の台頭につながっていると考えられる。最後は、この地域では民族紛争が頻発している点が挙げられる。これらの脅威は近い将来なくなるとは考えにくい。

    Mehrdad HAGHAYEGHI他方、域外的な安全保障上の脅威には3つのものが存在する。第1の点は中国の拡張主義的政策である。特にキルギスタンでは、中国が領土を拡張したことをひとつの要因として、政治的不安定が広がっている。中国が拡張した地域はキルギスタンにとって、戦略的にも資源的にも重要な地域であった。第2に、この地域周辺のテロリスト集団の存在である。これらが、この地域における麻薬や武器の密売に深く関与している。3つ目はイランの一部の政治勢力がこういったイスラム過激派との関連を深め、経済的援助などを拡大していることである。この勢力は中東でもさまざまな影響を持っている。

    さて、9.11テロやその後のアメリカのこの地域での活動はどのような影響を及ぼしたのであろうか。域内におけるプラス面としてはアメリカのプレゼンスによって、アルカイダやタリバンのようなイスラム過激派の脅威が減少してきている。また、9.11テロ後のアメリカによる中央アジア諸国への経済支援の約束というのも、プラスの側面と考えることが出来る。なぜならば、このことによって政治的不安定が解消されるからである。ただし、この支援が軍事的利用などではなく、一般市民レベルがよい影響を受けるように使われることが重要である。

    また、域内におけるマイナスの面としては、アメリカがウズベキスタンのような「テロとの戦争」の戦略上重要な国家と関係を深めることによって、そういった国家内部で新興民主主義勢力が既存の独裁政権に対抗することが難しくなることが挙げられる。つまり、中央アジア地域のいくつかの国家内で独裁政権が力を持つという結果をもたらしている。

    アメリカのこの地域における存在が域外に与えた影響には、ロシアと中国というこの地域と国境を接する2大大国が受けた恩恵も含まれる。ロシアにはチェチェンにイスラム過激派が存在するが、アメリカの存在によってロシアは国際世論を味方につけやすくなった。中国においては新疆ウイグル地方の分離主義者が存在しているが、彼らが訓練を受けていた中央アジア地域にアメリカが存在することは、中国にとって有利に作用することとなる。

    また同時に、アメリカの存在の影響として、中ロ間の古典的大国間政治の傾向が強まっていることが挙げられる。つまり、両国は集団安全保障の枠組みや政治、経済の取り決めを構築するために中央アジアに再関与するようになっている。

    イランは「悪の枢軸」として挙げられているため、自国周辺すなわち中央アジア地域におけるアメリカの存在によって圧迫感を感じている。そして、イラン・アフガニスタン国境周辺のテロリストへの資金供与は減少している。

    最後に、米国の中央アジアでの行動について論じたい。米国の行動は成功しているかに見えるが、多少疑問が残る。しかしながら、今後の中央アジア地域の安定にはアメリカのアフガンでの存在が必要となるであろう。もしアメリカの関与がなくなればこの地域の不安定性は慢性的なものとなろう。