政策シンポジウム他

アジア太平洋の安全保障環境

イベント概要

  • 日時:2002年12月18日(水)10:00-16:00
  • 会場:RIETIセミナールーム(経済産業省別館11F1121)
  • 開催言語:英語(日本語同時通訳つき)
  • 主催:RIETI
  • 開会挨拶

    AOKI Masahiko (RIETI / Stanford University)

    RIETI政策シンポジウム「9.11テロ後のアジア太平洋の安全保障環境」の開催にあたり、開会の挨拶をさせていただくことを光栄に存じます。

    経済産業研究所(RIETI)の第1のミッションは広義の公共政策研究に着手することでございます。中でも、経済政策研究を中心にしております。そして研究成果を公的機関や海外に普及することを目指しています。しかしながら、ますます複雑化している世界において、政治、社会環境を考慮することなく、国内・国際経済問題を分析し、意義深い政策提言を引き出すことはますます難しくなっています。経済、社会、政治の制度や出来事はますます結びつきを強めています。それ故、異なるディシプリンの社会科学者の間のコミュニケーションと対話は、公共政策研究の領域の中でこれまで以上に重要性を増しています。このような、国際的な分野におけるコミュニケーションと対話の促進が、我々の研究所の明白な目的の1つです。

    AOKI Masahiko具体的にいえば、この研究所の研究員の中には、他の経済関係と同様、新興するアジアの市場統合に関係のある研究プロジェクトに携わっている者もいます。EUの市場統合に比べ、アジアのそれは、未だその場限り、もしくは任意のものであります。そして、そのアジアの市場統合の将来は、明らかにアジア太平洋における政治安全保障環境に大きく左右されます。しかしながら、アジアの政治安全保障環境は、地域諸国間の政治制度、イデオロギー、軍事力、その他の要因が極めて多様であるために、複合的な構造になっています。この地域での国際関係における歴史的要素もまた、かなり複雑なものです。

    この視点から見れば、アジア安全保障環境についてのシンポジウムを開くのは、とても時宜にかなったものといえます。いうまでもなく、世界とアジア太平洋地域の安全保障の状況は、昨年の9.11テロ以降、重要な変容を遂げつつあります。テロリズムに関する議題は、さまざまな地域において、安全保障論議と同様に安全保障政策にもインパクトを与えています。アメリカの、単独行動主義(ユニラテラリズム)を含んだ世界大・地域大の安全保障における役割は、世界が注視する大きな争点となっております。

    テロリズムの原因の根元は複合的で、簡単な解決策はありません。しかし、1つ確かなことは、9.11テロはグローバルな市場経済および政治的リベラリズムへのアンチテーゼであったということです。ブッシュ政権は、テロリズムと正面から戦う決意を明白に表明しています。このようなアメリカの政策が、それぞれのアジア地域においてどのように認識されているのかということが、本シンポジウムの重要なテーマです。

    同様に重要なことは、9.11テロ後の進展がそれぞれの地域の安全保障ダイナミクスに与えた影響についてです。この政策シンポジウムではアジア安全保障の5人の専門家が、北東アジア、中央アジア、南太平洋、南アジア、そして東南アジアの視点から、最近の安全保障の展開について意見を発表します。

    これらすべての地域で、冷戦の終結は、さまざまな国の安全保障観や安全保障政策の再調整をせまりました。これらの再調整が推移する中で、多くのアジア諸国は、安全保障政策の前提を覆すような1997年のアジア通貨危機によって打撃を受けました。もっとも注目すべきは、経済危機後の段階において、経済安全保障が国、そして地域の伝統的安全保障とリンクするようになってきたことです。

    このような状況下で、中国は、新たに与えられた地域の経済成長の牽引車としての決定的な役割を担うようになってきました。最近の中国の活発な周辺地域への働きかけは、新たに浮上するアジア太平洋地域における安全保障環境への重大な影響を持つはずです。とりわけ、9.11テロが、中国主導の経済的ダイナミクスにどのようなインパクトを与えているかを考えることも、大変重要な課題です。