RIETI政策シンポジウム

Asian Economic Integration- Current Status and Future Prospects -

イベント概要

  • 日時:2002年4月22日(月)・23日(火)
  • 会場:国際連合大学(東京都渋谷区)
  • 開催言語:英語
  • 「制度的調和と多様性:コーポレートガバナンス」

    「制度的調和と多様性:コーポレートガバナンス」というテーマで開かれた4月23日午前のセッションでは、東アジア地域の競争力を高めるためにもコーポレートガバナンスを強化することが重要との認識が確認された。その上でさまざまな課題があることも認識された。

    韓国とヨーロッパの経験

    張夏成氏(高麗大学校)は、地域の持続的発展と社会福祉充実という観点からコーポレートガバナンス強化の重要性を唱え、「成長を支える資金は市場から調達しなければならず、その際のコストを削減するためにはコーポレートガバナンス強化が欠かせない」と述べた。透明性と説明責任の明確化は、株主のみならず従業員も含めた広い意味のステークホルダーの保護につながり、結果として企業の持続的成長が可能となる。さらに、産業界における透明性の高まりが社会全体の透明性と公正をもたらし、汚職を防止し、社会福祉を充実させると述べた。金融危機以降、韓国がどのようにアングロサクソン型コーポレートガバナンス制度を導入してきたかを紹介しながら、韓国のみならず日本その他のアジア諸国もコーポレートガバナンスを強化すべきとの見解を述べた。

    グレゴリ-・ジャクソン氏(RIETI)は、過去5年間のドイツにおける研究に基づき、欧州連合(EU)における企業統治制度統一に向けた努力とその結果について紹介した。まずEU諸国の元々の企業統治制度は各国ばらばらだったが、全体としてアングロサクソンモデルとは異なるものだったこと、さらに、制度統一に向けた努力はなされたものの失敗に終わったという経緯を説明。しかし、資本市場のグローバリゼーションが進む中、市場圧力に促されるかたちで、結局、ドイツを含めたEU主要国がそれぞれ米国型・市場重視型の企業統治モデルを採用するに至ったと述べた。その上で、ジャクソン氏は、情報技術革命が進展する今日、米国型のコーポレートガバナンスがもっとも優れたモデルと見なされているが、時代が変われば望ましい企業統治のあり方も変わるとし、アジア諸国は「10年前につくられた米国の成功例を真似る」のではなく、「継続して比較制度優位を求める」努力をすべきだと述べた。

    各国特有の課題

    林毅夫氏(北京大学中国研究センター)は、中国その他の多くのアジア諸国はコーポレートガバナンス以前に取組むべき多くの問題を抱えていると述べた。中国の国営企業問題に触れ、そのほとんどは政府の補助金と保護の上に成り立ち本来「自立存続不可能な状態」にあるが、都市就労人口の60%を雇用する重要な存在であることを説明、中国のみならず移行期経済においては多くの企業が同じような状態にあると指摘した。コーポレートガバナンスの強化は存続可能な企業を前提とした議論で、そもそも自立存続不可能な企業の場合、コーポレートガバナンスのあり方を変えても状況は改善しないと述べた。

    エドワード・スタインフェルド氏(マサチューセッツ工科大学)も中国について言及、驚くべき経済発展にもかかわらず、中国は多くの問題を抱え、多くの中国企業が時代に逆流する方向に向かっているとの見解を述べた。今日、「高度な専門性、資産所有権やサプライチェーン統合力の強化」が求められているにもかかわらず、中国企業は「小規模で、垂直的に統合され、サプライヤー(上流)から顧客(下流)に至るまで市町村・省レベルの特定地域に特化」したオペレーションを行っていると指摘、多くの中国企業が国際的なサプライチェーンに製品を供給しているにもかかわらず、複雑な製品スタンダードを満たすことができず、付加価値の低い製造部門に甘んじていると述べた。スタインフェルド氏は、その原因は「地域保護主義」にあるとし、地方政府による恣意的な介入が制度に関する疑心暗鬼を生み、企業経営者は将来、予期せぬ制度変更があったときのキャッシュフローを確保するために「とてつもなく複雑な企業構造」を作りあげていると述べた。

    張氏は、韓国が比較的成功しているとはいえ、その企業統治のあり方はまだまだ国際的に許容される最低基準を満たしていないとし、「30年の長きにわたり存在した企業経営における不正行為を一昼夜にして変えることはできないが、ゆっくりと少しずつ時間をかけて変えていく余裕はない」と述べた。鶴光太郎氏(RIETI)は、日韓を比較しながら、偶発的であるものの極めて完成度の高い統治制度を持つ日本の方が改革を進めるのが難しいと述べた。韓国はその統治制度の不完全さゆえ比較的簡単に破壊し、新たな段階に進んでいるが、日本には内部規律とメインバンク制という内部・外部両方からの規律に基づく完成された企業統治システムが存在し、これを破壊するのは難しいと説明した。鶴氏の発言を受けて、深川由起子氏(RIETI・青山学院大学)は、グローバリゼーションはアジアの途上国にとって「収斂したコーポレートガバナンスのプロトタイプ」を入手するチャンスであり、「ドイツや日本など制度変更に手間取る先進国を飛び越える」ことになるかもしれないと述べた。ただし、投資家が今後どういう企業統治のあり方を評価するか、その方向次第で資本の流れが一瞬にして変わると述べ、そういう意味で、新興国には試行錯誤を繰り返す時間があまりないことも指摘した。

    多様性v.s.統一性

    東アジアにおけるコーポレートガバナンスのあり方を統一すべきか否か、また、統一するとしたらどういう形で統一するかという点についてはさまざまな意見が出された。青木昌彦氏(RIETI・スタンフォード大学)は、企業が互いに競争し試行錯誤を繰り返すことで効率的な企業統治モデルが構築されるとし、はじめから東アジアに共通の企業統治制度を作ろうとするのではなく、数多くの実験を行い競争させれば、その中からおのずと効率的な仕組みが出てくるとの見解を示した。林氏も、それぞれの企業統治制度に利点と欠点があり、その中から最適のものを選ぶための競争環境が必要だと述べた。

    これに対し王充鍾氏(韓国経済政策研究所)は、東アジアの企業統治制度が全般的に国際的な最低基準を満たしていないことを指摘、安易に多様性を認めることに慎重な姿勢を示し、少なくとも国際的な水準を満たすべく、ある程度、制度を収斂させるべきだと述べた。チア・シオ・ユエ氏(東南アジア経済研究所)も最低限守るべき基準を設定すべきとの見解で、機関投資家が企業の財務諸表や企業統治の評価に基づいて投資活動を行う限り、仮に東アジアの企業の評価が難しいとなればより透明性ある米国やヨーロッパの企業に資金を振り向けてしまうとの見解を示した。

    一方、張氏は、企業統治で肝要なことは透明性と説明責任、つまり、「うそをつかない」ことと「行動に責任をもつ」ことであり、その点においてきわめてシンプルで明確であると述べた。現状、日本を含め多くのアジア諸国においてこの2原則が守られていないことを指摘し、どういうシステムが最適かという問題よりも、原則の部分に焦点をあてるべきとの見解を述べた。

    *この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。