日本経済は、アベノミクスの下、戦後最長の7年に及ぶ景気回復が続いているとみられるが、2020年も続くのであろうか?
米中間の関税引き上げ合戦をはじめとした米中摩擦は、世界貿易を抑制し、世界経済の減速につながっている。中国経済は、もともと企業の過剰債務に対する懸念がくすぶる中、米中摩擦の影響も加わって輸出入が停滞し、景気の緩やかな減速が続いている。香港や中東の情勢も先行き不透明感が強い。
このため、世界経済の減速や先行き不透明感が日本の家計や企業のマインドを下押し、2020年夏の東京オリンピック・パラリンピックが終わった後の反動減も加わることで、日本の景気は2020年後半に停滞するという見方も少なくない。
しかしながら、日本経済は、下振れリスクを抱えてはいるものの、企業の設備投資や政府の公共投資が底堅く推移し、2020年も景気回復が続く、というのが私の予想である。本コラムでは、企業の設備投資や政府の公共投資の先行きにフォーカスをして、2020年の景気見通しについて私見を述べることとしたい。
東京オリンピック・パラリンピック後の反動減?
東京オリンピック・パラリンピックでメインスタジアムとなる国立競技場が2019年11月に竣工した。2020年春に山手線の新駅となる「高輪ゲートウェイ駅」が開業する予定であるなど、東京オリンピック・パラリンピックを控えて首都圏の再開発事業が次々と完成を迎える。こうした建設ラッシュが終わり、反動減が生じることが景気の停滞をもたらす、との見方がある。
しかしながら、私は、これらの反動減が経済全体に与える影響は限定的になる、とみている。その理由は主に3つある。
第一に、首都圏の再開発事業は、東京オリンピック・パラリンピック後も続いていく建設プロジェクトが数多く残っている。例えば、上述した高輪ゲートウェイ駅は2020年春に開業するが、同駅の周辺ビルの建設が2024年近くまで続く計画である。また、渋谷駅周辺の再開発事業も2019年に複数のビルが竣工・開業したが、引き続き2020年代を通じて建設工事が大規模に進む計画となっている(注1)。
第二に、首都圏の再開発事業以外にも大規模な設備投資案件が見込まれている。「中央リニア新幹線」の東京・名古屋間の建設工事は総額5兆円超と見積もられる巨額プロジェクトであるが、2027年の開業を目指して建設工事が進んでいる。情報通信の世界では、次世代通信規格5Gに関係する設備投資が見込まれる。通信大手4社は基地局整備などのため今後5年間で3兆円弱の投資を行う計画だと報じられている(注2)。さらに、人工知能(AI)、ビックデータ、ロボットなど、第四次産業革命といわれる技術革新の波が大きなうねりをみせる中、企業が生き残りをかけて研究開発や設備投資に取り組む姿勢が続くだろう。
加えて、2020年の東京オリンピック・パラリンピックが終わった後も、2025年に「大阪・関西万博」が控えている。大阪・関西万博は、日本が第四次産業革命の技術革新の成果を世界に発信できる一大イベントとなり得る。それに向けて、新たな技術革新の社会実装や都市圏の再開発を進め、世界中からインバウンドを取り込んでいく気運が国全体で続いていくことが期待される。
第三に、政府は2019年12月に事業規模26兆円、財政支出13兆円程度の経済対策を閣議決定し、補正予算案を2020年1月下旬からと見込まれる通常国会に提出する予定である(注3)。政府の補正予算案には、2019年の台風の被害なども踏まえ、自然災害からの復旧・復興と防災・減災、国土強靱化などの取組に2.3兆円が計上されている。補正予算案が成立し、公共事業等が執行されていけば、2020年の景気を相当程度、下支えする効果が見込まれる。
企業に対する調査の結果は、設備投資の底堅さを示唆している
2019年12月13日に公表された日銀短観(12月調査)によれば、大企業製造業の業況判断DI(業況が良いとの回答割合から業況が悪いとの回答割合を差し引いた指数)は前回の9月調査から5%ポイント低下し、0%ポイントとなった。世界経済の先行き不透明感や貿易の鈍化などを背景に、企業の業況判断が慎重さを増していることが示された。しかしながら、今回の日銀短観では、大企業(全産業)が回答した2019年度の設備投資計画が前年度比6.8%増と、前回の9月調査とほぼ同じ増加率を維持していることも明らかになった。業況判断の悪化が設備投資計画の下方修正にはつながっておらず、設備投資は底堅さを示している。
内閣府が年に一度、上場企業からの回答を集計する「企業行動に関するアンケート調査」によると、2019年3月に公表した調査結果において「今後3年間(2019年度~2021年度)」の設備投資増減率の見通しは、全産業の年度平均が4.8%増であり、前回の調査(2018年3月公表)における今後3年間(2018年度~2020年度)の設備投資見通しの4.8%増と同じ増勢を維持した。前々回の調査(2017年2月公表)では、今後3年間(2017年度~2019年度)の設備投資見通しが4.4%増であったことから、東京オリンピック・パラリンピック後の建設需要の反動減が生じうる2020年度や2021年度が「今後3年間」の見通し期間に入るようになった前回や今回の調査結果において、上場企業の設備投資見通しに減速はみられない。これは、東京オリンピック・パラリンピック後の反動減の影響が限定的であり、設備投資が底堅く推移していく可能性を示している。
設備投資の底堅さが示す景気回復の持続シナリオ
日本のGDP(2018年547兆円)の構成比として、企業の設備投資が占める割合は16%、公共投資は5%であるのに対し、個人消費は56%という大きなウェートを占める。もっとも、GDPの変化という観点からは、個人消費の変化率に比べて設備投資は景気動向次第で大きく変化する傾向がある(注4)。景気をみる上で個人消費も重要であるものの、設備投資は景気動向を如実に映す。
米中摩擦などの影響が世界経済の下押し圧力となり、日本企業の輸出や企業収益に悪影響を与えているが、日本企業は世界経済のリスクを注視しながらも、今後の成長につながる必要な投資は行っていく姿勢を維持しているといえよう。
このため、2020年の日本経済は、海外経済を巡る下振れリスクを抱えながらも、底堅く推移する設備投資や公共投資に支えられ、経済の好循環が回り続けることから、緩やかな景気回復を維持するとみられる。
過度な楽観は慎むべきであるが、過度な悲観もチャンスを逸する恐れはある。2020年は、先行きの不透明感が強いのは事実であるが、リスクを見極め、許容できるリスクであれば、将来の成長に必要な投資にリスクを取って挑戦していくことが望まれよう。