新型コロナウイルス以降の職種ごとの在宅勤務の持続可能性について

荻島 駿
三井住友トラスト基礎研究所

権 赫旭
ファカルティフェロー

2020年3月以降の新型コロナウイルス感染症の流行拡大を契機に、多くの企業で在宅勤務(テレワーク)の導入・検討が進んでいる。こうした動きは新型コロナウイルスの終息後も継続し、ワークスペースやライフスタイルの在り方のトレンドにも影響を与える可能性が指摘される(例えば高林(2020)等)。こうした点を踏まえ、本稿では、在宅勤務の中心となるオフィスワーカー職種について、各職種が在宅勤務とどの程度親和性が高いかを、特に仕事におけるコミュニケーションの観点から考察していく。

どの職種で在宅勤務が可能か~海外の研究事例~

新型コロナウイルスの流行以降、職業ごとの在宅勤務の可能性については、米国を中心に海外での研究が進展しつつある。例えばDingel and Neiman(2020)においては、米国労働省の運営する職業情報データベースであるO*NETのデータを用いて、「どの職種で在宅勤務が可能か」を分析している。この研究では、O*NETに掲載されている約900の職種のうち、「屋外で仕事をする」や「車や機械設備を操作する」等の在宅では不可能な条件に当てはまる職種を、「在宅勤務が不可能な職種」としている。これをO*NETにおける22の職業分類ごとにまとめた結果が、以下の図表1である。「Computer and Mathematical」や「Legal」、「Business and Financial Operations」等、オフィスワーカー職種(赤い点線)が在宅勤務の中心的な対象であることがわかる。

図表1 Dingel and Neiman(2020)による在宅勤務が可能な職種の割合
図表1 Dingel and Neiman(2020)による在宅勤務が可能な職種の割合
(出所)データはDingel and Neiman(2020)による。グラフは筆者作成。
(注)点線の囲いは、オフィスワーカーが中心と考えられる職種に、筆者が付したもの。

在宅勤務による生産性の変化が今後の論点に

ただし、上記のDingel and Neiman(2020)の研究は、仕事の対象や職場環境について物理的な側面で在宅勤務が可能か、という観点での研究であり、在宅勤務による生産性の変化を考慮したものではない。例えば、オフィス内でPCを利用することで仕事が完結する仕事であっても、頻繁に近隣の同僚と会話をする必要がある場合、「在宅勤務は可能だが著しく作業効率(生産)は下がる」ということは十分に考えられる。

現在は緊急時であることから、やむを得ず在宅勤務を行っているケースも多いと思われるが、新型コロナウイルスの終息後を考えた場合、今後在宅勤務が進展していく職種は、物理的に在宅勤務が可能性である職種の中で、在宅勤務により生産性が上昇する(あるいは生産性の低下が少ない)職種に限られてくると考えられる。こうした点から今後は、各職種の特性を考慮した上で、在宅勤務が生産性にどの程度影響するかを詳細に検証していく必要がある。

他方、そうした研究は国内・海外問わず未だに研究事例が少なく、未知数である部分が大きい。限られた研究の中では、例えば森川(2020)のように、業務に必要とされる「フェイス・トゥ・フェイス・コミュニケーション」の量が在宅勤務での生産性に影響している可能性を指摘している。

オフィスワーカー職種ごとのコミュニケーション量の指数化

そこで本稿では、O*NETのデータを用いて、オフィスワーカー職種ごとに必要とされるフェイス・トゥ・フェイス・コミュケーションの量を数値化することで、将来の在宅勤務導入の可能性を考察していく。O*NETでは、掲載されている約900の職種について、必要とされるスキルや仕事内容、職場環境などの多様な項目を、0~100の数値で評価している。本稿ではこれを用いて、オフィスワーカー職種ごとのフェイス・トゥ・フェイス・コミュケーションの量を以下の5項目の数値の平均で評価した。

① 他者とのコンタクト(Contact with Others)
② 他者との調整または指導(Coordinate or Lead Others)
③ 外部の顧客への対応(Deal with External Customers)
④ 対面デスカッション(Face-to-Face Discussions)
⑤ グループやチームでの仕事(Work with Work Group or Team)

上記5項目の平均で約900職種ごとに作成した指数は、職種ごとの平均が0、分散が1となるように基準化を行い、さらに日本の職業分類に合わせて、在宅勤務の対象となり得る15のオフィスワーカー職種に独自に分類・集計を行った(O*NETにおけるオフィスワーカー以外の職種は集計の対象外とした)。

その結果を表したものが、次の図表2である。なお、以降では、この指数を「コミュニケーション指数」と呼ぶこととする。職種ごとのコミュニケーション指数をみると、我々の直観とも整合的に、役員・管理職や営業職、事務職等で高い数値となり、IT技術者を含む専門職では相対的に低い数値となっている。

図表2 職種ごとのコミュニケーション指数
図表2 職種ごとのコミュニケーション指数
(出所)米国労働省「O*NET Online」により筆者作成。
(注)職種分類は筆者によるもの。O*NETの900職種のうち当該の職種分類に該当するものについて平均することで算出。「金融・経営専門職」については、経営コンサルタントや公認会計士等の他に、マーケティングアナリスト等の会社内における専門的な事務の従事者も含む。「オペレーター」は機械操作やタイピング、データ入力等の事務。

コミュニケーション量と在宅勤務導入状況の関係

このコミュニケーション指数を、新型コロナウイルスの影響がより拡大した2020年4月以降の在宅勤務導入状況と合わせてみていこう。本稿では、4月以降における職種別の在宅勤務導入状況を公表しているパーソル総合研究所(2020)の調査結果を用いて考察を行う。在宅勤務導入とコミュニケーション指数の関係性をみると、概ね業務におけるコミュニケーション指数の低い職種ほど新型コロナウイルス流行後の在宅勤務導入も進んでいることがわかる(図表3)。

図表3 在宅勤務導入率とコミュニケーション指数
図表3 在宅勤務導入率とコミュニケーション指数
(出所)米国労働省「O*NET Online」、パーソル総合研究所(2020) により筆者作成。

今後の在宅勤務進展への展望

今後在宅勤務の導入を進めるにあたっては、本稿で示したような「コミュニケーションの量」が重要な指標となると考えられる。管理職や営業職等、フェイス・トゥ・フェイスでのコミュニケーションが多ければ、それだけ在宅勤務に伴う非効率は増大されることになり、従来と同様のワークスタイルが少なくとも一定程度は求められるはずである。そうでない専門職については、今回の新型コロナウイルス感染症の流行を契機に、今後在宅勤務がより進展していく可能性が高い。

経理等の事務職については、コミュニケーション指数では管理職・営業職と専門職の中間程度の位置づけとなっており、職場や細かい仕事内容によってケースバイケースで進展していくと考えられる。その一方で、これらの職種は「AIによる代替」による影響が大きい職種であることにも留意が必要である。

経済学の文脈では2000年代以降より、「機械による労働の代替」が議論の対象になっている(例えば、Abdih and Danninger (2017)等)。こうした研究では、単純なルーティンタスクの多い職種ほど、機械化による影響を受けやすいとされている。これをみるために、Abdih and Danninger (2017)と同様の方法でルーティンタスクの度合いを指数化したものが次の図表4である。

図表4 職種ごとのルーティンタスク指数
図表4 職種ごとのルーティンタスク指数
(出所)米国労働省「O*NET Online」により筆者作成。
(注)縦軸のルーティンタスク指数は、Abdih and Danninger (2017)を参考に、O*NETにおける「Degree of Automation」「Importance of Repeating Same Tasks」「Pace Determined by Speed of Equipment」「Spend Time Making Repetitive Motions」「Structured versus Unstructured Work」の5項目の平均を基準化し、筆者が作成したもの。

事務系の職種については、業務ごとのコミュニケーション量の大小によらず、他の職種よりルーティンタスクの量が多いことがわかる。こうした事務系の職種については、在宅勤務の導入を検討する以前に、そもそもAI等に置き換えてしまってはどうか、という議論に進展していく可能性も十分に考えられる。今後のオフィスワークの在り方を考える上では、こうした動きにも注目していく必要があるだろう。

本稿では、仕事におけるコミュニケーションの度合いに着目して、在宅勤務の可能性を議論してきたが、実際に在宅勤務を行った結果については、未だに十分なデータ揃っていない。今回の新型コロナウイルス流行を契機として、今後は、在宅勤務との親和性の高い仕事内容やコミュニケーションの在り方、また在宅勤務の拡大に伴う生産性、雇用、労働分配率などへの影響について、より詳細に検証されていけばと考える。

参考文献
  • Abdih, Y. and S. Danninger (2017) "What Explains the Decline of the U.S. Labor Share of Income? An Analysis of State and Industry Level Data," IMF Working Paper 17/167.
  • Dingel, J. and B. Neiman (2020) "How many jobs can be done at home?," Becker Friedman Institute White Paper.
  • 米国労働省 「O*NET Online」 (https://www.onetonline.org/)
  • 高林一樹(2020) 「在宅勤務拡大によって期待・再認識されるオフィスの役割とは」、三井住友トラスト基礎研究所レポート (https://www.smtri.jp/report_column/report/2020_04_28_4831.html)
  • パーソル総合研究所(2020) 「新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」 第二回調査(https://rc.persol-group.co.jp/news/202004170001.html)
  • 森川正之(2020) 「新型コロナウイルスと在宅勤務の生産性」、独立行政法人経済産業研究所(RIETI)、特別コラム(https://www.rieti.go.jp/jp/columns/a01_0549.html)

2020年5月7日掲載

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