「第8回地域クラスター・セミナー」議事概要

  • 日時 / 場所:
    2004年3月8日(月)18:00-20:00/ 独立行政法人経済産業研究所セミナー室1121
    テーマ:
    a.「浜松地域クラスターと地域産業の振興」(柴田氏)
    b.「静岡大学の産学官連携活動」(岡本氏)
    講師:
    a.柴田義文(しばたよしふみ)氏((財)浜松地域テクノポリス推進機構知的クラスター本部事業総括 / 三遠南信バイタライゼーション推進協議会会長)
    b.岡本尚道(おかもとなおみち)氏(静岡大学イノベーション共同研究センター長)
    講演概要:
    a.産学官の密接な連携のもとに進めている浜松地域クラスター事業は、知的クラスター創成事業の「浜松地域オプトロニクスクラスター構想」、産業クラスター事業の「三遠南信バイタライゼーション」、地域結集型共同研究事業の「超高密度フォトン産業基盤技術開発」等から構成されている。「光技術」を地域産業の中核とし、新技術等の創出を目指して総合力で取り組んでいる事業の内容や戦略、成果等について紹介する。
    b.静岡県浜松地域は強固な産学官連携活動が行われているが、本学は国立大学法人化を契機に学内の産学官連携組織、地域共同研究センターおよび同インキュベーション施設、サテライト・ベンチャー・ビジネス・ラボラトリを統合・拡充して、イノベーション共同研究センターを昨年10月に設置した。産学連携窓口の一本化により、組織的な活動が可能になるとともに、知的財産本部をセンター内におき、知的財産の創出支援、一括管理、活用を連携して行うことで、相乗効果を狙う。また、大学発ベンチャーの産学官金融連携による総合的支援のため、静大ファンドを設置した。この経緯の中で、地域金融機関と大学との新たな連携が生まれつつある。
    主催:
    研究・技術計画学会地域科学技術政策分科会(東京地区)
    文部科学省科学技術政策研究所
    独立行政法人経済産業研究所
    出席者数:
    72名前後(日本側参加者67名、海外アタッシェ5名他)

[開会の辞]

斎藤尚樹(文部科学省科学技術政策研究所第3調査研究グループ総括上席研究官)

  • 主催者側から本セミナーの趣旨と第8回目の今回は、国内事例の2回目として浜松地域を取り上げることの説明がされ、本日の講演者である、柴田義文氏と岡本尚道氏の紹介がなされた。

[講演 (18:05-19:20)]

  • 本講演では、「光技術」を地域産業の中核として新技術等の創出を目指し、静岡大学との連携を図りながら、総合的に取り組む浜松地域におけるクラスター事業の内容や戦略、成果等についてのプレゼンテーションがされた。
  • 初めに、浜松地域テクノポリス推進機構の柴田氏から、クラスター事業の概要、産学官のネットワークや共同研究の成果等について、次に静岡大学の岡本教授から、イノベーション共同研究センターの概要とセンター内に設置した知的財産本部など、産学官連携活動についての説明がされた。クラスター形成活動、特に産学連携の担い手となる企業、また、静岡大学における地域との産学連携の積み重ね、経験に基づきイノベーション共同研究センターの組織構成がデザインされたことなどの解説がされた。

[質疑応答]

モデレータ:児玉俊洋(独立行政法人経済産業研究所上席研究員/地域科学技術分科会東京地区幹事)

C1:モデレータ
  • 本地域クラスターセミナーの特徴の1つは、各地域事例相互の比較ができることである。国内事例としては前々回に紹介したTAMAと比較すると、TAMAでは、域内の個別地域には商工会議所や自治体の支援組織があるが、TAMAという広域の地域全体としてはこれを対象とするクラスター推進組織はTAMA協会という単一の組織である。これに対して、浜松地域では、テクノポリス推進機構、商工会議所、静岡大学など、複数の支援機関が相互に連絡をとりながらクラスター形成に携わっていることが1つの特徴である。全国的には、そのような地域が多いと思われ、そのような意味でも本日の浜松の事例は参考になる点が多いと思う。
Q1:
  • 企業の業種や規模、企業数、独立系企業など、浜松の工業集積はどのような特徴があるか。
A1:柴田義文(財)浜松地域テクノポリス推進機構知的クラスター本部事業総括(以下、「柴田事業総括」)
  • 浜松商工会議所の統計によると、浜松市の製造品出荷額はバブルの頃は2兆1000億円ぐらいあり、その後落ち込み、現在は1兆8~9000億円程度。この中で一番大きいのは、オートバイであり、14年度は約1兆6000億円の実績である。浜松はもともと繊維から始まり、楽器産業に移行し、オートバイ産業に移ったわけだが、繊維は国際競争力が悪化し、現在500億円弱ぐらいの出荷額。楽器は1000億円を切り、現在800億円台だと思う。
  • 一時、生産拠点を海外に作ったため、国内からの輸出が落ち込んだが、平成14年度の実績は輸送用機器が前年対比約13%伸びた。特に1月に急激に良い数字が出た。15年度は正式な数字を掴んでいないが、1-6月では前年比3%強伸びたが後半落ち込み、年平均すると出荷額で輸送用機器が0.5%程度マイナスで、生産額は0.5%程度プラスとなっており、ほぼ横ばいとなっている。
  • その他では、ハイテクエレクトロニクス関連の電気機器関連が既に2000億円ぐらいの出荷額を誇っている。しかし半導体関連は数字がつかみにくく、浜松にあるソニーの関連会社が3社ぐらい統合し、急激に出荷額が伸びたが、本社の地域での数字がでるものだからその辺が実際の数値に比べて数値が出すぎている感じがする。
  • 商工会議所の会員は約1万4000社あるが、製造業は4000社強あり、その中の大部分は大企業の下請けである。もともと浜松地域は大手企業が何社かあり、その下請けの系列で成り立っている。親会社の生産動向に左右される。輸送用機器関連は、バブル崩壊後もそれほど落ち込まず、その点で恵まれた地域であると思う。
Q2:
  • 産学官連携や他社に経営資源を求めたマッチングも重要だが、それによって中小企業の場合、事業転換や組織・管理体制の変更などが必要となる場合があるが、そのような中小企業に対する経営改革・改善のサポート体制はどうなっているのか。
A2:柴田事業総括
  • 積極的に、自立性をもって事業展開をしている企業がある一方、下請けをやっていて、仕事がまあまああり、赤字でなければ良いという企業が大部分である。
  • いつまでも成熟産業が続くとは限らないため、危機感のない企業を刺激し、事業転換の方向性を探るため、最初は商工会議所において空洞化特別委員会を作り、会員のモノづくりの中小企業にアンケートを実施した。その結果、何かやるべきだが、何から手をつけるべきかわからないとの意見が多かったため、商工会議所の新産業検討特別委員会において検討した結果、従来の光関連の研究会の実績もあり、成長分野でもあることから光技術を選んだ。
  • 既存の中小企業を刺激して新たな展開を図っていただきたく、第2創業塾も行った。岡本先生のところの地域共同研究センター主催でビジネスプランコンテストをやったが、その後浜松地域テクノポリス推進機構が引き継いでいるが、昨今みるとモノづくりから離れ、商店とか、コンピュータなどの情報関連などが増えているが、これはこれで良いと思っている。
  • 地域産業の状態が良い今のうちに、早く次の産業に繋がる種を植え付けたいということで、商工会議所や行政関係がさまざまな試みを行っているが、なかなかうまくいかない。一例として、1つの研究会で1000部程度の案内を配るが、実際に手が挙がるのは、30社か40社である。まだまだPRの必要性を感じている。
Q3:(モデレータ)
  • 企業との共同研究の実績が増え、そのなかで、地域中小企業との間では5年間で5倍増となっているとのことだが、下請け企業が多いというなかで、産学連携の担い手になるような地域中小企業がそれなりに出現しつつあるのか。
A3-1:岡本尚道静岡大学イノベーション共同研究センター長(以下、「岡本センター長」)
  • さきほど事例として紹介した半導体レーザが反射して戻ってくる光を利用した振動計測装置は、もともとは大学の先生が研究成果を特許化したものを、地域のベンチャー企業がこれまでの事業とは別に振動計測の新事業に活用できたものである。そういった例が最近増えてきており、企業側から大学への相談の件数が増えてきている。
A3-2:柴田事業総括
  • 業種別に見ると電気機器関連、ハイテクエレクトロニクス関連は、比較的多額の研究費を投じており、大学との連携も多い。一方、自動車関連の下請け企業の研究意識・レベルはまだまだであり、研究に対する意識付けについて商工会議所でも問題意識をもって色々な催しをやっており、目新しいものとして医工連携とか、農工連携にも取り組んでいる。
Q4:
  • 私は以前、浜松における一部意欲のある企業の多くは、静岡大学工学部の卒業生によるものであり、卒業生のネットワークを通して大学との連携などが活発に行われていると伺った。今後卒業生はもちろんのこと、静岡大工学部と関係ない新しい方々を引き込むことが重要だと思うが、現在はどのような状況か。
A4-1:柴田事業総括
  • 20年程前、異業種交流が盛んになり、1982年に浜松にも異業種交流の積極的に促進する会ができた。そのメンバーの何割かは静岡大学工学部や高専の卒業生であった。
  • 昔は、企業にいる静岡大学卒業生を窓口にして共同研究をしていたし、卒業生が企業を興して、中核となった企業が積極的に大学と交流をした。
  • しかし、昨今は、意欲があり積極的に出ているのは、どちらかというと大企業をスピンアウトしたり、リストラにあった人たちだと思う。
  • 静岡大学地域共同研究センターは十数年前に設立され、地域としてもすぐに約100社で協力会を作った。ここからはなかなか新企業は生まれてこない。バブルで栄えた時のため、大学の研究と結びつかなかった面もある。
A4-2:岡本センター長
  • 共同研究が最近急増していて、正確に調べたわけではないが、静岡大学卒業生の範囲でカバーしている限りでは、とてもここまで増えない。センターでは企業ニーズ調査を組織的に行えるようになってきたが、地域の下請け企業が自前の技術を欲しているという状況があり、企業側も積極的になっている事情があると思う。もちろんベースには卒業生があるが、その範囲はかなり広がっていると考える。
Q5:
  • 静岡大学が持つ研究シーズをカテゴリー化して企業側に提示すると、企業側のニーズと結びつきやすいのではないか。
  • 外国の研究機関との連携や、スライドにも静岡大学と徳島大学の共同開発の事例が紹介されているが、地域の繋がりを超えた連携が実を結ぶこともあると考えるが、現状はいかがか。
A5:岡本センター長
  • 研究シーズのカテゴリー化については、これからはっきりした形のカテゴリー化をしなければならないと思う。センター内の知的財産本部で検索システムが整備され、大学として組織的に売り込む方法も重要なので、これから是非やっていきたい。
  • ちなみに、共同研究の分野別の話をすると一番多いのが電気電子系であり、2番目は化学系で僅差である。次がバイオ関係、4番目が情報系であり、最近はバイオ系の増加が著しい。
  • 知的財産本部整備事業の海外調査で2カ国を訪問したが、特にカナダのヴィクトリア大学 IDC(TLO)の手法は非常に参考になった。知財の活用は短期間での勝負が基本であり、発明が出てからおおむね2年ぐらいでけりをつけるとのことであった。今後は、海外との学学連携に加え、海外企業も日本企業も一緒になっての産学連携の展開も重要と考えている。
Q6:
  • 浜松のクラスターについて、海外へのアピールをどの程度やられているのか。そして、海外の企業、大学からの引き合いはあるのか。また、海外から、あるいは浜松以外の地域から、ビジネスのために進出してきた動きはあるのか。
  • 静岡大学の運営として、特定の分野を重点化していく方針はあるか。また、それに関連した先生方をスカウトするなどのマネジメントがなされているのか。
A6-1:柴田事業総括
  • 現在、テクノポリス推進機構が中国関連と地域企業との交流会を実施しているが、目に見える成果はこれからだと思う。中国についてはさまざまな情報があり、我々も研究の必要性を痛感し、大学の先生とJETROの方を招いて、今年は2回、中国に関するお話を伺った。また、ドイツとの交流を図るなど、海外と連携をしている企業も一部にある。
  • 全体の動きとして、海外との連携はないが、地域を越えた活動を意識している。もともと産業クラスターは三遠南信といい、これは南信州と浜松は関東経済産業局の管内であるが、豊橋地域は中部経済産業局の所管である。今まで関東経済産業局が積極的にリードしていただいたが、今は中部経済産業局の担当者にも浜松に来ていただき積極的に広域の連携を模索し、中部エリアの東海ものづくり創生関連の事業などにも参加している。地域を超えた連携の実績は出ていないが、今後大いに期待が持てる。
A6-2:岡本センター長
  • 浜松キャンパスは、光分野それから情報分野が主であり、静岡キャンパスはバイオと環境分野、環境分野は両キャンパスにかかるが、この4分野を重点に挙げている。
  • 人材の重点配置については、イノベーション共同研究センターに教官ポストを2つ増やし、1人は電子、バイオの両分野を専門とする人材を採用できた。また、電子工学研究所でもイメージング関連の有為な人材を採用しつつある。今後はかなり積極的にやっていく必要があるが、そのためには、研究しやすい環境づくりを併せて考えなければならず、大学として組織的に対応する必要がある。
Q7:
  • 静岡大学の知的財産本部は、どのような考え、いきさつでイノベーション共同研究センターの中に設置されることとなったか。
  • 三遠南信バイタライゼーションは、3支部が独自に事業展開を行うとなっているが、このいきさつと、共同で実施するデメリットは何か。
A7-1:岡本センター長
  • 知的財産本部の仕事の範囲は非常に広く、また、当時の地域共同研究センターの所掌業務を見ると、大学発ベンチャーの支援や知的財産の創出支援など、かなり関連があることがわかり、学外の知財専門家の方々のご意見もいただき、センターの中に設置した。
  • 実際の仕事をしてみると、イノベーション共同研究センターの他の3部門、即ち共同研究開発部門、インキュベーション部門、未踏技術開発部門との連携は、結構重要なことがある。実際の活動で連携が非常にうまくいっている気がする。
  • 知的財産本部の最高責任者は、現在は研究担当の副学長になっている。これは知的財産の取り扱いが、大学全体の重要な問題であることの認知を図るためでもある。
  • 知的財産本部長がセンター長と兼ねていることもあり大変な業務がある。特に平成15年度は、新センターと本部両組織の同時立ち上げで苦労した。知的財産関連の規則等の整備は順調に終了したので、16年度から本格的に実務がスタートすることになる。
A7-2:柴田事業総括
  • 浜松地域テクノポリス推進機構の前身である財団法人ローカル技術開発協会が浜松技術交流プラザ82を立ち上げた際、豊橋技術科学大学の学長もメンバーに入っていただいた。
  • 以前の一般的な大学はどちらかというと象牙の塔的であったが、技科大は産学連携に理解があり、我々も積極的にアプローチをして、共同研究などをやってきた。
  • その後、静岡大学が地域共同研究センターを設置して、大学の研究シーズをローカル技術開発協会が年5000冊ぐらい冊子を作って県内全域に配布したが、現実に企業と大学の交流がなかなか起こらなかった。当時は先生のところに、電話したら怒鳴られたとかあったらしいが、時代の流れとともに、最近はそういうことはなくなった。
  • 三遠南信の区分けについてだが、地域の産業が根本的に違う。しかし、これからの新技術は複合的なものになるので、お互いの地域にあった産業を育成すると同時に、今のところ年1回会合をやって地域の共通のテーマについては、お互い協力関係の構築を目指している。
  • 浜松商工会議所も、浜松で技科大の先生に研究シーズの発表していただき、地域産業との融合を図っている。飯田はバイオ、食品というテーマがあり、私ども浜松は光関連、豊橋は現在、園芸施設の情報化等のテーマにも取り組んでおり、また、技科大の先生のチタン関連技術もあり、近いうちに実を結ぶのではないか。
Q8:
  • イノベーション共同研究センターの2名の産学連携コーディネータは、どうような経歴の方か。
  • 独立法人化により、これまでの国立大学の規制が緩和されるが、産学連携活動などで、これまでできなかったこと、今後ぜひやりたいことは何か。
A8:岡本センター長
  • 産学連携コーディネータは、2人とも企業での研究開発の経験がある方であり、1人は東芝の研究開発担当の部長を務めた方で、もう1人は、富士電気化学の研究開発部門の経験がある方。
  • 独法化に対応して、新しいセンターの中で企業のニーズに対応した実用化研究をもっと充実できないかと考えている。そのためには、産学官の協力をいただける別の組織・仕組みが必要なのかなと思う。なぜなら、迅速な決定と行動が求められるところであり、大学全体の決定のもとで進むようでは、スピードが遅すぎる。
C2:モデレータ
  • 昨年6月、EU本部にてEU研究総局の地域政策担当の方と会談をした。EUの構造基金の運用については各国に裁量権があるが、基金はいろいろな目的に使うことが出来る。日本でいう地方交付税交付金のようなものである。その基金を科学技術やイノベーション関係の用途に使った場合は、研究総局がそれに対して「ボーナス」を与えているという。つまり、EUの政策として自らの研究開発予算(全EU加盟国の研究開発費総額の5%ほど)から構造基金の運用に関してこのような誘導策を取っているということだ。但し、EUの中の配分バランスを考えると、強い地域に集中するよりは、むしろ弱い地域に配分する考えのようだ。

[閉会の辞]

斎藤尚樹(文部科学省科学技術政策研究所)

  • 次回の当セミナーは、海外事例としてフィンランドを取り上げ、2004年4月23日に開催予定。イノベーション政策、ネットワーククラスター形成のための取り組み等、フィンランドの具体的な事例紹介を予定している。

この議事概要は主催者の責任で編集したものである。
なお、質疑応答参加者で要修正箇所を発見した方は、主催者までご連絡願いたい。