マクロ経済学の再構築 ケインズとシュンペーター

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執筆者 著:吉川 洋
出版社 岩波書店 / 8800円
ISBN 978-4-00-024830-3
発行年月 2020年8月

内容

「ケインズ経済学はミクロ的基礎づけを持たない」という批判の下に出来上がった現代のマクロ経済学は、数学的には洗練されたが、リーマンショック時に分かった様に現実経済を説明できない。本書では、経済物理学という新たな道具を用い、ケインズとシュンペーターの遺産を生かし、現実を説明できるマクロ経済学を志向する。

目次

はしがき

序 章

第1章 標準的な「ミクロ的基礎づけ」はなぜ間違っているのか
 1. 代表的消費者/企業
 2. 「ミクロ的に基礎づけられたマクロ経済学」が仮定する「ミクロショック」――ルーカスモデル
 3. 非自己平均性現実的な「ミクロショック」の性質
 4. 合理的期待
 5. ワルラスの「一般均衡理論」

第2章 統計物理学の考え方とマクロ経済学
 1. マクロの法則
 2. 変分原理
 3. マクロとミクロ
 4. エントロピー
 5. 具体例――景気循環のモデル
 6. ラムゼーモデル
 7. マルコフモデル
 8. まとめ

第3章 ケインズ経済学のミクロ的基礎づけ――確率的マクロ均衡
 1. 生産性の分布の意義
 2. 生産性格差
 3. サーチ理論の限界
 4. 不完全競争――屈折個別需要曲線
 5. 限界費用
 6. 企業の最適行動
 7. 労働生産性の分布
 8. 職(job)の創造と破壊
 9. 生産性の分布を説明する理論モデル
 10. 失業
 11. シミュレーションによる説明
 12. まとめ――有効需要の原理

第4章 景気循環――有効需要の役割
 1. マクロ経済学の誕生
 2. 景気循環の原因RBC への批判
 3. 産業部門別データを用いた分析
 4. Great Recession
 5. 「循環」を生み出すメカニズム――投資の役割
 6. まとめ

第5章 需要の飽和と経済成長――ケインズとシュンペーターの出会うところ
 第1節 経済成長の理論
  1. ルイスモデル
  2. 戦後日本の高度成長
 第2節 需要の飽和
 第3節 プロダクトイノベーションと経済成長
  1. 供給サイドと需要サイド
  2. 需要と技術革新
  3. プロダクトイノベーションのモデル化
  4. 青木吉川モデル
 第4節 部門間シフトとマクロの経済成長
 まとめ――経済成長における需要の役割

第6章 物価と賃金
 第1節 デフレと日本経済
 第2節 金融政策と「期待」
 第3節 価格の決定
 第4節 個別の価格と一般物価
 第5節 賃金
 第6節 まとめ

第7章 金融市場/資産価格と実体経済
 第1節 新古典派的アプローチ
 第2節 資産価格変動の数理
  1. ベキ分布
  2. 独立な確率変数の和の極限分布
  3. エントロピー最大化
 第3節「バブル」について
 第4節 実体経済との違い
 第5節 金融市場の「合理性」
 まとめ

第8章 結論――マクロ経済学のあるべき姿
 1. ミクロの問題とマクロの問題
 2. ミクロの最適行動の詳細を追っても意味はない
 3. 景気の変動を決めるのは実質総需要の水準である
 4. 需要は「長期」の経済成長でも大きな役割を果たす
 5. 物価と賃金
 6. 金融市場の役割
 7. おわりに

補 論 先駆者たち
 1. チャンパーノウンによる所得分布に関する研究
 2. 1930年代の「ロシア学派」
 3. コブダグラス関数のミクロ的基礎
 4. トービンの「確率的マクロ均衡」
 5. 物理学者の貢献

参考文献
索 引