著者からひとこと

石油をめぐる国々の角逐

石油をめぐる国々の角逐

石油をめぐる国々の角逐

  • 著:長谷川 榮一

著者による紹介文(本書「はしがき」より)

近年における原油価格の上昇が我が国にもたらす影響は?

我が国、そして国民生活に大きな影響をもつ石油価格が、2004年以来、上昇傾向を強めてきた。2008年には、年の初めから、その傾向が劇的なものとなり、国民生活にかつてない強い打撃を、それも必需物資であるが故に、広い範囲で加えている。石油は、世界中にとって必需物資であるため、世界経済全体も打撃を受けている。加えて、米国でサブプライムローン問題が噴出したため、世界経済全体が沈滞しかねない状況にある。2007年まではプラスの成長を続けてきた日本経済だが、年を追うごとに外需による成長寄与度が増してきた。2008年には秋以降、世界で経済が急速に冷え込み、それまで外需に成長を依ってきた日本経済はマイナス成長に転じた。2008年7月に1バレル当たり147ドルに達した原油価格は、その後、鎮静し、急落してきた。しかし、世界の人口が増え続け、人間が生活水準を向上したいとの意欲を持つ限り、エネルギーへの需要が長期的に増加傾向を辿ることは避け難い。このまま鎮静が続くと断ずることは楽観的に過ぎると思われる。したがって、この期間に世界各地で生じたこと、それをめぐる各国の動きを見ておくことは、将来またエネルギー需給が逼迫したり、その価格が高騰した場合に生じ得る不都合を予見する我々の能力を高めることになる。

歴史では何事にも当て嵌まるが、劇的な事象が起こる場合には、必ず背景や予兆がある。無資源国であり、少子高齢化の足音がますます高まってきている我が国の場合、資源価格の落ち着き、世界経済の復調の必要性は、他の国々に比べ特に高い。同時に、資源国であるロシアは力の面でも復興し、資源国は、供給国であると同時に多消費国にもなっている。かつ潤沢な資金を保有する中国が世界中に展開する資源外交、いろいろな意味で世界のリーダーである米国の通貨、すなわち米ドルの低価などは、我が国の安全保障上の意味合いも有する。そこで、2004年以来の高騰傾向が何に由来し、世界の主要なプレイヤーがどのような行動をとっているのか、その結果どのような反響が生じているのかを整理してみることは、今後の我が国としての対応を論ずるうえで有益な作業だと考えた。

本書は、私が独立行政法人・経済産業研究所上席研究員として作成した研究報告(「近年における原油価格の上昇と、背景及び影響」)に基づいている。この研究報告は、すでに経済産業研究所のHPを通じてご覧頂くことが可能であるが、同研究報告を、読み易い形にして、少しでも多くの方に知っていただきたいとの気持ちにより、本書を出版することにした。なお、私は、2008年7月11日の人事異動で同研究所を離れたので、本書は、原則として、同日前日の時点での内容となっている。

また、同研究、すなわち本書の作成に当たっては、日米英の新聞情報、特に米英のものに依拠し、それらを素に私の主観により論旨を構成・展開し、分析を加えることとした。これは、ロシアや中東湾岸諸国など多くの産油国や、需要面で主要な影響を与えている中国では、そもそも公開情報に乏しく、また、各国での公的機関が発表する現地情報を当方で検証することも極めて困難であること、一方で、米英の新聞が世界的にネットワークを有し、かつ、各国の原語の理解能力に優れるスタッフを有していることによる。この意味で、意志決定者の真意を捉えるには限界があるが、歴史のあらすじを捉えることはできると考えた。また、新聞情報に拠ることで、歴史の流れの一端を象徴するようなアネクドートは得ることができたと思っている。新聞記事の英語の和訳は、もっぱら私が行ったため、仮に原文記事の意が的確に表されていない場合には、非は、すべて私に有る。

最後に、読者の方々には、本書が、経済産業研究所研究員であった私個人の主観を著したものであることを御承知願いたい。

長谷川 榮一

著者(編著者)紹介

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長谷川 榮一

1952年千葉県生まれ。1976年東京大学法学部卒業、通商産業省入省。経済産業省大臣官房審議官(エネルギー需給対策担当)、同大臣官房審議官(通商政策局担当)、内閣広報官、経済産業研究所上席研究員を経て、現在中小企業庁長官。