著者からひとこと

政府の大きさと社会保障制度

編者による紹介文(本書「まえがき」より)

成長と公平の両方を満たす最適な政府の大きさと最適な税・社会保障の国民負担率を探る

日本国民が抱いている最大の不安の1つは、年金や医療といった社会保障制度の行方である。社会保障制度を持続できないのであれば、国民は一挙に生活不安の谷底に落ち込むことになる。将来にわたって信頼できる社会保障制度を得るために、改革が必要であることはいうまでもない。

一方、日本の財政は大幅な赤字の状態にある。財政再建は緊急の課題である。しかし、少子・高齢化の時代にあって、高い経済成長率を望むことは困難であるし、少子・高齢化そのものが社会保障制度の維持を難しくしている面もある。

このような状況の下、政府はどのような社会保障制度の改革を行えばよいのだろうか。成長と公平の両方を満たす最適な政府の規模・大きさとは、どの程度のものだろうか。最適な税・社会保障の国民負担率はいくらであると言えるのだろうか。財源をどこに求めるのが望ましいのだろうか。このような問題意識に応えるために、本書の研究が経済産業研究所で企画され、2004-05(平成16-17)年度に同研究所で実施された「最適な租税・社会保険料負担率」研究プロジェクトの成果として出版されることとなった。

この課題に立ち向かう方法として、本書は次の2つを採用した。1つは、国民にアンケートを実施して、国民がこれらの問題に関してどのような意識をもっているのかを問うてみた。アンケートの分析結果から、いくつかの率直でかつ重要な知見を得ることができた。

2つ目は、ライフサイクル一般均衡モデルを作成し、そのモデルを用いてさまざまなシミュレーションを行い、経済学の立場からこれらの問題をどのように理解したらよいのかを探求した。いわば、科学的な手法を用いて、論理的な解答を求めたのである。

これら2つの接近方法は大規模な作業量を要するので、多額の資金と多人数の研究人員を必要とした。経済産業研究所に私達の希望を受け入れていただき、ほぼ初期の計画通りの研究プロジェクトの遂行が可能になった。吉冨勝前所長(現特別顧問)をはじめ、及川耕造理事長、前副所長田辺靖雄氏、前研究ディレクター細谷裕二氏、それにスタッフの方々のご支援に心から感謝したい。

さらに、本書の出版を可能にし、かつ的確な編集の仕事をされた、東大出版会の佐藤一絵氏に感謝したい。

本書の内容は著者たちの個人的な責任で書かれたものであり、経済産業省や経済産業研究所の意向とは無関係である。もし内容に不備があるとか、主張に不合理な点や政府の意向と矛盾があるのなら、その責任は一重に私達著者にすべてが帰されるべきものである。

橘木 俊詔

著者(編著者)紹介

橘木 俊詔顔写真

橘木 俊詔

同志社大学経済学部教授。1943年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了Ph.D。京都大学大学院経済学研究科教授を経て2007年4月より現職。主な著書に、『日本の経済格差』(岩波新書、1998年:第39回エコノミスト賞)、『日本の貧困研究』(共著、東京大学出版会、2006年)、『格差社会』(岩波新書、2006年)などがある。