著者からひとこと

都心回帰の経済学

都心回帰の経済学

都心回帰の経済学

  • 編:八田 達夫

編著者による紹介文(本書「まえがき」より)

経済再生の契機となりうる都市集積

戦後の高度経済成長期以降の日本では、人口50万以上の都市のほとんど、小都市の人口を吸収して成長した。大都市における人口増加は、特に景気拡大期に顕著に見られてきた。

現在、日本経済の回復とともに、大都市におけるオフィスビルやマンション建設が盛んになってきた。これは、景気拡大期に大都市人口が増える上記の傾向を基本的には反映していると考えられる。しかし顕著な違いもある。その1つは、今回の回復では、都心回帰の兆候がはっきりと見えることである。すなわち、人口の増大が郊外化の形をとらず、都心のオフィスビルやマンションの建設が進んでいる。東京においても大阪においても、最近では都心人口の伸びのほうが郊外人口の伸びよりも大きい。

この背景には、2000年代初頭において、都市再生のために様々な法的整備、特に都心再生のための整備が行われたことがある。さらに、政策の骨組みとしての「国土の均衡ある発展」という方針が放棄されたこと、工業(場)等制限法が廃止されたことがある。
これまでの好況時には、様々な規制のために、都心の床不足を生んできた。しかし、今回の景気回復は、大都市の都心再生および、それと並行した東京・大阪の発展の足かせの除去という法的整備を背景として起きている。このことが、これまでの景気回復と異なった環境を作り出したといえよう。

このような都心回帰の政策転換を学術的に基礎付けることが、本書の目指すところである。具体的には、4つの目的がある。

第1に、大都市における高い生産性の主要因が、その就業者密度のよるものであることを明らかにする。

第2に、これまでの都心および大都市抑制政策が、いかに大都市の集積を妨げていたかを示し、それからの政策転換が現在の都市回帰を助けていることを明らかにする。さらに政策転換と並んで、都心回帰を現在引き起こしている要因をも探る。大都市への集中の抑制策として、これまでは中心的や役割を果たしてきた容積率規制に代わる有効な混雑抑制手段を示す。

第3に、東京と大阪の過去と将来を分析する。まず東京の成長の要因を明らかにする。一方で、大阪は日本の大都市の中でほとんど唯一停滞してきた。大阪の停滞の原因を明らかにし、大阪の活性化のためには何ができるかを提案する。さらに、東京および大阪の成長の最大の制約の1つとなるのは空港である。この政策をどう変えていくべきかについて、港湾のあり方を含め具体的な提案を行う。

第4に、都市集積がもたらす生産性向上の便益と混雑の増大による社会的費用を比較し、費用便益分析を行う。

本書の主な結論は以下のとおりである。
まず、従来の都心抑制策から都心回帰可能型政策に転換し、容積率規制の緩和を行った場合、便益が通勤混雑増加の費用を大幅に上回る。さらに、郊外における生産年齢人口の相対的な減少を考えると、都市再生による通勤混雑の弊害はますます発生しにくくなると考えられる。したがって、都心回帰可能型政策への政策転換は正当化できる。

次に、都心への集積がもたらす混雑を抑制するためには、集積の利益自体を抑制してしまう容積率規制ではなく、混雑に対する直接的な対策であるピークロードプライシングを適用すべきである。

さらに、都市の制約要因としての空港整備に関しては、首都圏では、これまでのしがらみに縛られることなく、成田・羽田空港間の路線再配分を行えば、費用を大幅に上回る社会的な便益をもたらすことができる。また関西圏では、既存空港の廃止と新規空港建設により、同様のことを期待できる。

また、過去の大阪の衰退の原因を分析することで次のことが明かになった。まず、工場等制限法の廃止は、大阪地区の経済を再生させる契機となりうる。さらにそれを加速するためには、都心の集積化、空港の立地の抜本的みなおし、ガバナンスの再編が必要である。

本書作成においては、現代経済研究グループのメンバーからの多くの励ましと、提案とをいただいた。特に、大阪の再生を、広範な角度から論じているのは、このメンバーの方々からのサジェスチョンに基づいている。

なお、本書は、平成16年から17年度に経済産業研究所において実施された「東アジア経済の統合と日本の都市集積」研究プロジェクトの研究成果を中心としてとりまとめたものである。同研究所の所員の皆様、とくに久武昌人氏には、いくつもの有益なコメントをいただいた。

最後に、日本経済新聞社出版局編集部の増山修、堀口祐介、平井修一の各氏には、あらゆる段階において貴重なガイダンスをいただいた。厚くお礼申し上げたい。

2006年5月
八田 達夫

著者(編著者)紹介

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八田 達夫

国際基督教大学国際関係学科教授、経済産業研究所研究主幹、ファカルティフェロー。1966年国際基督教大学教養学部卒業。ジョンズ・ホプキンス大学経済学部大学院博士課程修了Ph.D.。ジョンズ・ホプキンス大学経済学部教授、大阪大学社会経済研究所教授・所長、東京大学空間情報科学研究センター教授等を経て現職。主な著書に『直接税改革』、『消費税はやはりいらない』、『年金改革』(共著、日経経済図書文化賞受賞)、『東京一極集中の経済分析』(編著)等、ほか、論文多数。