著者からひとこと

電力自由化の経済学

電力自由化の経済学

経済政策分析シリーズ8
電力自由化の経済学

  • 編著:八田 達夫、田中 誠

編著者による紹介文

「経済学」を分析の軸に、電力自由化の問題に取り組んだ本格的な研究書

欧米を中心とする世界中の多くの国・地域において、1990年代から、電力自由化が積極的に進められている。わが国においても、2005年を目途に小売供給の自由化を全ての高圧需要家に対してまで拡大することが決まっており、さらには、全国規模の卸電力取引市場の創設、送配電部門のルール策定・監視を行う中立機関の設立等、一連の制度改革が予定されている。ただし、改革は緒についたにすぎず、制度の詳細設計に関する重要課題が山積みとなっており、今後の道のりは長く険しい。

本書は、電力産業の特性を十分踏まえつつ、経済学の理論的枠組みに基づいて、自由化の制度設計に関する重要課題を体系的に分析したものである。わが国では、電力自由化の問題に関して、工学を分析の軸に据えた研究は多いが、経済学を分析の軸に据えた本格的な研究書の出版がまだ少ない。本書が、経済学的な視点から自由化の現状を位置付けることにより、現実の制度設計の議論に貢献できることを編者は期待している。ただし、本書は、政策立案に役立つことが期待されているが、全体を通じて1つに集約された政策を提言することは意図していない。本書に収録された論文は、それぞれ学術論文であり、直接的に政策を提言するというよりは、むしろ政策判断を下す上で役に立つ多様な知見を提供することに主眼が置かれている。

本書は、まず第一章で、電力市場の基本構造を論じている。具体的には、電力の自由化を徹底した時の最終的な姿を描いた上で、わが国で自由化を進める際の重要ポイントについて論じている。最初に、電力市場の標準モデルとして、ノルウェー市場の基本構造を紹介する。その上で、スウェーデン市場およびPJM(ペンシルバニア、ニュージャージー、メリーランド、他州)市場との比較を行っている。特に、それぞれの国・地域における送電ロスと送電混雑への対処法について、共通点と相違点が明らかにされている。本章の特徴は、代表的な国・地域の制度設計に関して、それぞれに細かい違いはあるものの、基本構造には共通性があることを論じていることである。とりわけ、電力自由化が、従来行われてきた送電ネットワークに対する過大な投資を抑制しつつ、系統安定性の確保をより確実にすることを明らかにしている。さらに、発電の効率的な立地を促し、ピーク時用の発電所の削減に貢献し、需要家にも、効率的な立地や、ピーク時消費の抑制を促すことを指摘している。結論部分では、このような電力競争市場の基本構造の特質のうち、わが国において最終的な自由化を進める上で特に重要なインプリケーションを整理している。

本書は、大きく分けて、4部から構成される。第I部は上記第1章を含む5つの章から成り、市場支配力、送電線の混雑管理、電力システムの安定運用など、電力市場と送電ネットワークに関する制度設計の詳細を論じる。第II部ではさらに、オークション理論、リアルタイム料金、品質を考慮した規制政策などの観点から、制度設計に関する先端研究を紹介する。第III部で、ユニバーサル・サービス、環境、原子力発電などの問題を取り上げ、電力自由化時代の公益的課題について検討し、第IV部で、ノルドプールやPJMなど、欧米における電力自由化の動向を詳説する。

八田 達夫
田中 誠

著者(編著者)紹介

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八田 達夫

国際基督教大学国際関係学科教授、経済産業研究所研究主幹、ファカルティフェロー。1966年国際基督教大学教養学部卒業。ジョンズ・ホプキンス大学経済学部大学院博士課程修了Ph.D.。ジョンズ・ホプキンス大学経済学部教授、大阪大学社会経済研究所教授・所長、東京大学空間情報科学研究センター教授等を経て現職。主な著書に『直接税改革』、『消費税はやはりいらない』、『年金改革』(共著、日経経済図書文化賞受賞)、『東京一極集中の経済分析』(編著)等、ほか、論文多数。

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田中 誠

政策研究大学院大学助教授。1991年東京大学経済学部卒業。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。博士(経済学)。東京電力株式会社、財務省財務総合政策研究所上席研究員等を経て現職。主な論文に「電力の急峻な需要変動を抑制するリアル・タイム料金」等。