著者からひとこと

ブロードバンド時代の制度設計

ブロードバンド時代の制度設計

経済政策レビュー5
ブロードバンド時代の制度設計

    編著:林 紘一郎、池田 信夫

編著者による紹介文

ブロードバンド時代に向けて、「水平分離」の規制改革を考える

日本でも、昨年から急速にDSL(デジタル加入者線)が普及し、ケーブル・インターネットや光ファイバーを含めたブロードバンド人口は400万人に迫っています。しかし消費者にとっては、8メガビットとか100メガビットといわれても、何に使うのかよくわかりません。インフラは電話回線の何百倍も高速になったのに、コンテンツ(中身)が今までと変わらないのでは、高速道路を建設して自転車を走らせているようなものです。

こうなってしまう1つの原因に、通信と放送の制度が「縦割り」なため、コンテンツの自由な流通をさまたげていることが挙げられます。たとえばNHKのアーカイブ(資料庫)には180万本もの番組がオンライン配信可能な状態で保管されていますが、総務省は「NHKがインターネットで流せるのは番組の終了後1週間程度」という規制をしてしまいました。一方、NTTグループの放送事業への進出は、禁止に等しい状態です。こういう時代遅れの制度を放置して、いくらパイプだけを太くしても、ブロードバンドは米国のように息切れしてしまうでしょう。

光ファイバーでテレビの映像が流せる時代には、通信と放送を区別する意味はないので、既存業者に独占されているインフラをコンテンツ産業に広く開放しようというのが、IT戦略本部が昨年末に出した「水平分離」案です。これには民放連や新聞協会が「水平分離すると緊急報道ができない」などという理由で反対していますが、それでは水平分離されている欧州の放送局は緊急報道ができないのでしょうか。このように議論がかみあわない1つの原因は、世界的な通信・放送規制をめぐる論争が、日本でほとんど知られていないためでしょう。

本書は、昨年10月にスタンフォード大学のローレンス・レッシグ教授を迎えて開催したRIETI政策シンポジウムの記録をもとに、執筆した論文集です。30年以上前の米国の「コンピュータ調査」に始まる「水平分離」をめぐる論争を踏まえ、8人の著者がインターネットのガバナンスや電波政策、IPv6など最新の話題を紹介し、ブロードバンド時代にふさわしい規制改革のあり方を考えます。補足資料や参考文献は、サポート用ホームページをご覧ください。

池田 信夫

著者(編著者)紹介

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池田 信夫

経済産業研究所上席研究員。東京大学経済学部卒業後、NHKに勤務し、報道番組等を制作。NHK退職後、慶応大学大学院政策・メディア研究科入学。慶応大学大学院修士課程修了(学術修士)博士課程中退。国際大学GLOCOM教授を経て現職。主な著書に『ブロードバンド戦略・勝敗の分かれ目』(日本経済新聞社, 2001)、『情報化と経済システムの転換』(共著・東洋経済新報社, 2001)などがある。昨年10月に開催された「RIETI政策シンポジウム『ブロードバンド時代の制度設計』」ではセッション1のチェア・パーソンを務める。