「融合領域」プログラムについて

2020年度から始まった第5期中期目標期間において、RIETIは、『我が国は、急速な少子高齢化に伴う人口減の深刻化、エネルギー・環境問題など様々な課題に直面している。こうした課題を解決するために、AI・IoT・ビッグ・データなど第4次産業革命の進展による「Society5.0」の実現が求められている。経済産業省をはじめ政府では、様々な課題を解決するため、「Society5.0」の推進を提唱している。今後、「Society5.0」を実現するためには、新たな汎用技術の社会実装に加え、それに合わせて「組織」と「人」の変革を進め、経済社会システム全体の再構築を図る必要がある。そのためには社会科学的な要素と産業技術の融合(いわゆる文理融合)が不可欠であり、研究所では他の研究機関との連携等を通じてネットワークの拡充をはかり多角的な研究を進める。また、多様化・複雑化する経済社会の問題解決のためにはEBPM(Evidence-Based Policy Making(証拠に基づく政策立案))分析が今後一層重要』という見方に立ち、総合的な研究を推進する計画である。

この計画にある「社会科学的な要素と産業技術の融合(いわゆる文理融合)」を通じて、『「組織」と「人」の変革を進め、経済社会システム全体の再構築を図る』ためには、現在、日本経済が抱える「垣根」の問題を解決する必要がある。これまでRIETIは正規労働者・非正規労働者の垣根、職場における男女の垣根など、経済におけるさまざまな垣根の問題を扱ってきた。これも社会に根強く存在する「垣根」が経済の発展を阻んでいるという見方を反映している。

学問の世界もまた、「垣根」の問題に悩まされ続けてきた。文系理系の垣根、法学と経済学の垣根、マクロ経済学とミクロ経済学の垣根、理論と実証の垣根など、さまざまな垣根が大学にも、研究組織にも存在する。これを壊すことが、イノベーション力を高め、組織の高度化を図る上でも不可欠である。また、2020年初頭には、これまで人文科学を除く科学技術振興を念頭においた科学技術基本法が改正され、人文科学も含めた科学技術イノベーション基本法に衣がえされたのは、RIETIも主張してきた日本社会における「垣根」の弊害が強く意識されるようになったものとも言える。

融合領域プログラムでは、こうした潮流を受け、理系分野や法学、政治学、社会学など異分野の新しい知見を経済学・政策研究に取り込む努力を強化する。生命科学や情報学といった大きく発展しつつある自然科学分野の知見を積極的に経済学に取り入れるため、独自のデータ構築を推進し、データに基づき、独自の研究を推進する。健康、バイオマーカーといった要素を取り入れ、ソーシャル・キャピタルの分析などを通じて社会を構築する要因を解明する。また、RIETIが独自に構築してきた政治の不安定性に関するビッグデータを消費のビッグデータと関連させ、消費と社会の関連を新しいデータ、新しい分析手法を駆使して解明する。また、企業のガバナンス、市場の高質化に向けた法制度のあり方、といった法と経済学的研究や、異民族間の対立、男女格差などの問題を政治学的な視点から解明する。さらに、異分野融合を基礎に、今後の社会における喫緊の問題の解明に取り組む。