「産業・企業生産性向上」プログラムについて

プログラムディレクター

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深尾 京司(プログラムディレクター・ファカルティフェロー)

研究活動は以下の4つのテーマについて行う。

1.東アジア産業生産性
日本の産業構造の変化と生産性動向を分析する基礎資料である日本産業生産性(JIP)データベースの更新と改良、および1993年以前への遡及を、一橋大学経済研究所と共同で行う。この作業に当たっては、EU KLEMSプロジェクトやWorld KLEMSプロジェクトと連携することにより、長期経済停滞、グローバル経済化の世界的後退、コロナウィルス禍の経済的影響等の問題についても、国際比較研究を可能にする。また、経済成長の大幅減速が危惧される中国経済を分析するため、中国産業生産性(CIP)データベースの更新と改良を、一橋大学経済研究所、北京大学国家発展研究院(NSD)と共同で行う。またJIPデータベースの構築方法と分析結果、サービス生産性の計測と向上策に焦点を当てた研究書を出版することを目指す。
本プログラムではまた、企業・事業所レベルのミクロデータを用いた分析も行う。特に①製造業を約300産業に分けてTFPの動向を計測するデータベース(米国のNBER-CES Manufacturing データバースにほぼ対応する)の構築と分析、②経済センサス2012年・2016年活動調査の個票データを用いた産業(約30)×通勤圏(約300)別労働生産性データベースの構築とこれを使った高齢化とICT、電子商取引等との関係に関する分析、③OECDのDynEmpプロジェクトと協力した生産性動学分析、等を行う。
また、今回のコロナウィルス禍が多くの先進諸国の医療制度の脆弱性を明らかにしたように、日本を含めた先進国諸国では災害や恐慌による生産の破滅的な低落とその後の長期停滞の危険を減らすためにも、社会的共通資本の再整備が必要と考えられる。本プログラムでは、この点に焦点を当てた分析も行う。

2.都道府県産業生産性(R-JIP)データベースの更新と分析
現行のR-JIP2017は、2012年までをカバーし、2008SNAにはまだ対応していない。本プログラムでは、内閣府が中心となって2019年7月に公表した2008SNA対応の県民経済計算(2006-15年をカバー)を出発点として、2006年から2015年の期間について新R-JIPデータベースを作成し公表することを目指す。
また、本社機能の地域間分業等を明らかにした2005年都道府県間産業連関表と同様の表を2011年について作成する。またサービス産業の生産性計測において重要な産業別土地投入について、現在の2005年に関する推計を年次化する。

3.医療・教育サービス産業の資源配分の改善と生産性向上に関する分析
今後の日本の経済において特に重要性が高い医療と教育産業について、詳細なミクロデータを活用することでサービスの質を調整したアウトプットや生産性を計測し、生産性の決定要因を分析する。特に因果関係の検証に注力し、政策形成や評価に資することを目的とする。医療に関しては資源配分の問題に焦点を当て、教育に関しては教育政策や実践の効果測定に焦点を当てた分析を行う。

4.企業成長と産業成長に関するミクロ実証分析
「企業成長のエンジン」を研究の中心的なテーマと設定した上で、因果関係の識別を明示的に考慮した実証分析を行い、政策立案や企業実務において参照可能な含意を抽出する。具体的には、外生的なショックを利用したクリーンな因果推論によって、①高齢化とイノベーション、②グローバル化と国内経済の空洞化、③中小企業の事業承継、④金融システムや金融政策と資源配分、⑤米中貿易摩擦と生産性ダイナミクス、等を分析する。また高粒度データと機械学習手法を用いた先進的な因果推論手法を用いて、企業・産業の成長メカニズムの原因と結果を明らかにする。特に、高粒度データの取得という点に関連して、ユニークな秘匿データ(例:企業の海外取引データ、地図データ、企業の金融契約(例:リース)データ、企業の保険契約データ)を保有している民間企業との協働体制を構築することで、既存研究がこれまで利用した実績のないデータを用いた実証研究を目指す。具体的には、⑥企業成長と退出の決定要因に関する機械学習ベースの統計的因果関係探索、⑦会計不正の決定要因に関する機械学習ベースの統計的因果関係探索、⑧金融契約(例:リース)に関する企業の異質性を考慮した需要関数推定とダイナミックプライシングへの応用、⑨成長要因の取引ネットワークを通じた波及プロセスの識別、等を分析対象の候補とする。