「産業フロンティア」プログラムについて

プログラムディレクター

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大橋 弘(プログラムディレクター・ファカルティフェロー)

AI(人工知能)、IoT(Internet of Things)、ビッグ・データ解析などといった技術革新の成果が、私たちの日常生活や職場の景色を急速に変えはじめている。IoT機器の普及やAIの深化等によって、多種多様かつ大量のデータを効率的かつ効果的に収集・保有・分析できるようになり、位置情報やクッキー(Cookie)情報、音声情報などといった詳細な粒度のデータを活用して、産業競争力の強化や国民生活の利便性の向上につなげる動きがみられ始めている。他方で、事業者間や事業者およびび個人間[1]におけるデータ流通をめぐり、さまざまな懸念も投げかけられている。例えば、企業によるデータ蓄積が市場競争をゆがめる可能性を指摘する競争政策上の課題や、AIを用いたプロファイリングによって個人の信用度をスコアリングするサービスが引き起こす課題は、数ある懸念の一部に過ぎない。

本格的な少子高齢化を迎えたわが国が、需要・供給の双方における成長制約を乗り越えるためには、社会変革を促すイノベーションが不可欠である。人口減の中での働き方改革を遂行するには、AIやビッグ・データを用いたデジタル化技術を社会実装することにより、労働の質を高めるような生産性向上が不可欠である。またビッグ・データを経済成長に最大限生かすためには、これまでの業界や産業の垣根を超えてデジタル時代に合った規制のあり方を検討する必要もある。他方で、破壊的なイノベーションのもとで大国間のハイテク覇権競争が繰り広げられる中、わが国はグローバル的な観点から自らの戦略的な立ち位置を見極めつつ、世界に不可欠な存在としての位置づけを見出さなければならない。同時にパンデミックや自然災害の頻度が高まる中で、不確実性に対応した政策立案もあり方も議論されるべきだ。

このように人口減少とデジタル化の進展は、官と民との役割分担の再検討ばかりでなく、中央と地方との分権体制のあり方や、市場メカニズムと産業政策とのリバランスも求めている。本プログラムでは、上記のようなわが国経済・社会に要請される変革を意識しつつ、従来型の個別産業の政策に加えて、産業横断的な政策を視野に入れて、わが国経済が直面する課題を乗り越えるための政策のあり方などについて幅広い観点からのプロジェクトを用意して研究を行う。広範な論点を横断的に扱うことから、本プログラムでは、他のプログラムとも適宜連携しながら、上記のようなデジタル時代の深化を通じて進行しているSociety 5.0の実現が、社会経済に問いかける新たな論点に切り込んでいければと考えている。

[1] 個人間のデータ流通も、特に継続反復して事業を行う個人では問題が起こり得る。