「イノベーション」プログラムについて

プログラムディレクター

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長岡 貞男(プログラムディレクター・ファカルティフェロー)

情報通信技術(ICT)の累積的な発展の上に,AIの革新が加わって,幅広い産業分野で第四次産業革命へのイノベーション機会が拡大している。また、地球環境の保護、エネルギー資源の節約、パンデミックの防止等経済成長を制約する要因への最も抜本的な解決策も、新技術の研究開発とそれを活用したイノベーションである。「イノベーション」プログラムでは、このようなイノベーションの過程の根幹である、新たな知識の創造と問題解決への活用の過程を把握できるオリジナルなデータを開発し、それを活用して、イノベーションを加速するための、政策、制度そして組織の在り方を分析することを目的としている。

本プログラムの特徴は、第1に知識の創造過程、エントレプレノーシップやイノベーション過程などを把握できるオリジナルなデータの開発である。研究開発やイノベーションを駆動しているのは新しい知識であり、利用可能な知識ストックの量と質、産業による融合化や組み合わせ能力、そして知識を広い市場や問題解決に活用出来る能力が研究開発のパフォーマンスを決める。イノベーションにおける垂直分業の進展に見られるように、産業組織のあり方もイノベーションの推進に大きな影響を与える。本プログラムでは、新しいサーベイ、特許やその引用文献など知的財産に係る公表データから新たに構築するデータ、企業活動や研究開発に関わる政府統計の個票、従来実施してきた発明者サーベイなどを活用して、このようなイノベーションの過程とそれを担う個人や企業などの体系的な理解を進める研究を行う。

本プログラムの第2の特徴は、こうしたデータを活用して、また、研究開発支援、起業エコシステムの形成への支援、知的財産制度、標準制度、産学連携などイノベーションを支える制度や政策の在り方についてオリジナルな分析をして、その政策含意を求めること目指している。現在、科学技術イノベーション政策においても、「Science for science policy」の重要性が国際的に認識され、日本でもこれを支援するプログラムを実施している。また米国特許庁、欧州特許庁、世界知的所有機関など主要な特許庁にはチーフエコノミスト・オフィスが設置され、広汎な知財データを公開し、それによるイノベーションと知的財産の関係の分析が深められている。RIETIの本プログラムでは、こうした流れと連携しつつ、客観的なエビデンスによる政策分析に資する。

本プログラムの第3の特徴は、国際的な視野に立った研究の実施である。研究開発競争は本来的に国際的であり、研究開発投資からの専有可能性はその成果をどの程度グローバルに活用できるかに依存している。加えて、近年、国境や国籍を超えた資源を融合した研究開発も高まっており、それが研究開発のパフォーマンスにも重要な意味を持つようになっている。更に、世界的に見れば、研究開発やイノベーションを支える制度や組織には多様性があり、その中で日本の強みの源泉を理解し、またその改善の可能性を明らかにしていく上で、国際的な観点からの分析が有用である。RIETIのイノベーションのプログラムでは、日米及び日米欧の大規模な発明者サーベイを含めて国際的なデータベースを利用し、産業のパフォーマンスの国際比較を含めて、国際的な視野に立った研究を行う。