「地域経済」プログラムについて

プログラムディレクター

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浜口 伸明(プログラムディレクター・ファカルティフェロー)

生産活動がより効率的、革新的に行われ、人々がより高い満足を得られる働き方や消費を実現し、それらが長期的に安定的かつ持続的に発展するように構造転換が進むことが望ましい。そのために政策介入を行う必要がある場合がある。政策介入が必要とされる理由の1つは、市場メカニズムが社会を最も望ましい結果に導くことができない市場の失敗があるからである。もう1つの理由は、構造転換がどのような新たな技術的パラダイムによるのかについてステークホルダー間で調整の失敗があるからである。

市場の失敗と調整の失敗に介入する政策の一部として、産業ごとの異質性を考慮した産業政策(industrial policies: INPs)があるように、地域ごとの異質性を考慮して「場」あるいは「地域」の特徴に基づいて実施する政策(place-based policies: PBPs)を体系化する必要がある。INPとPBPが複数形で表記されるのは、産業および地域の異質性を考慮すれば政策も多様でなければならないからである。地域経済プログラムでは日本において必要とされているPBPsおよびPBPs+INPsを研究する。

日本経済をけん引する需要と雇用の好循環、国際化、規制緩和と知識創造の相互作用は、大都市を中心に進み、地方では恩恵が少ない。それは、これらの事象が規模の経済、ネットワークの外部性、知識のスピルオーバーなど、近接性を必要とする作用に基づいているからである。大都市においては、このようなメカニズムを活用して集積の経済的メリットを活用しつつ、混雑から生じる弊害を抑制するPBPsが求められる。具体的に、土地利用、空間整備、交通、住宅、消費・アメニティを考察し、イノベーションと国際競争で大都市が国の経済を先導するために重要なインフラ、積極的に支援すべき経済主体と必要な支援の在り方を明らかにする。

他方、地方においては集積の経済的メリットが弱く、成長回復の波に乗り切れないばかりか、人口減少と少子化が先んじて進み、経済規模の縮小が一層進むことが予想されている。地方で求められるPBPsは各地域に固有な地域資源を革新的かつ持続可能な形で利用して高い付加価値を生む生産活動を行っていく構造転換を促すことである。そのために、先端的な情報通信・輸送技術を活用してグローバルな知識を取り入れる企業間・人的ネットワークの活用、資源管理を行うコミュニティの再生、世代間の経営資源・伝統知識の継承と新規スタートアップの誕生を促す制度設計のあり方を明らかにし、地方財政と地域金融の役割についても考察する。

さらに、大都市と地方のバランスの最適化を図る政策についても研究を進める。大都市と地方は別々に存在しているのではなく、相互に関連して国全体で均衡システムを形成している。情報通信・輸送インフラの発展がもたらす影響を実証的に明らかにしつつ、多様な規模の都市が空間上の位置にも意味を持ちながら階層的構造を形成するメカニズムを解明する。