「貿易投資」プログラムについて

プログラムディレクター

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冨浦 英一(プログラムディレクター・ファカルティフェロー)

経済産業政策の立案には内外の経済に関する深い理解が不可欠であるが、グローバル化により国際経済に関する研究が一層重要となっている。インターネットの普及、発展途上国にも広がった貿易自由化、先進国を中心に広がった自由貿易協定のネットワーク化等もあって、経済成長を上回る貿易の持続的拡大、最終財を上回る中間財の貿易の増大、情報通信関連から技術、旅行に至る広範なサービス貿易の広がり、海外直接投資による海外生産比率の上昇等、グローバル化は長期にわたり進展・深化してきたが、近年においては、世界はAIやビッグ・データによる第4次産業革命とも呼ぶべき変革の中にあって、欧米を始めとした国々における反移民・グローバル化反対の動き、中国等による市場経済から逸脱した国家介入が見られ、米中間を始めとして貿易制限措置の増大が懸念されている。さらには、狭義の経済の外から異常気象、巨大地震、パンデミックなどさまざまなショックも加わり、グローバル化の流れは変調をきたし、世界経済を巡る不確実性が高まっている。このため、将来予測は益々困難となっているが、通商政策立案上の直近の関心に応えるとともに、今後の的確な政策展望を得るためにも、グローバル・サプライチェーン、アウトソーシング、オフショアリング、さらにはデジタル・データ移転を通じて複雑に連結された国際経済の長期的趨勢や構造の正確な把握が求められている。そこで、国際貿易、海外直接投資、その他の実体面における様々な国際経済活動について、経済学を中心に、法学の観点も加え、各種プロジェクトを推進し研究を進める。

国際貿易・海外直接投資については、従来から研究が進められている輸入競争・直接投資が国内の労働市場等に与える影響、企業の貿易・直接投資への参画等のテーマについてより詳細な分析を加えるとともに、国境を越えたデータの移動を含むデジタル貿易、中間財の国際貿易と精緻な国際分業を伴うグローバル・バリューチェーンといった新たなイシューの分析に取り組む。また、経済連携協定を含む通商政策にとどまらず、各種の国内経済政策が貿易や企業のグローバル活動に与える影響等を分析していく。その際、今世紀に入ってから国際経済学で研究成果が蓄積された同じ産業の中でも顕著な企業の異質性を考慮して、経済理論による分析に加え、政府統計の個票や独自調査に基づくミクロデータを含む各種データを用いた計量実証分析を進める。特に、デジタル化の進展により新たに利用可能となったデータの活用を目指す。

国際通商ルールは、国際経済活動に多大な影響を与えることから、我が国としても、国際ルール形成への積極的関与が求められている。このため、世界貿易機関(WTO)の判例研究を蓄積して政策当局への提言・助言を継続していくとともに、デジタル貿易の国際ルールや、国有企業を含む公的支援の競争中立性など、新たに現実経済で重要となった課題について法的側面から分析を行い、ルール・制度の構築に向けた政策提言につなげることを目指す。