RIETIは第3期から大きな研究分野ごとに新たにプログラムが設けられ、雇用・労働・教育に関わる研究については、「人的資本」プログラムの下で行われてきた。その成果の概要については、鶴光太郎「雇用制度・人材教育改革に向けて」(2015)、藤田昌久編『日本経済の持続的成長―エビデンスに基づく政策提言』にまとめられている。
RIETIにおいて、雇用・労働・教育といったテーマが「人的資本」という言葉でくくられているのはそれなりに意味があると考えている。なぜなら、日本が人口減少、資源小国という制約を克服し、その強みを生かしながら成長力を高めていくためには、人的資源の活用が大きなカギを握っているためである。逆にいえば、雇用・労働・教育の研究を行う場合でも、最終的には日本経済の成長にいかに結びつけるかという視点が重要となる。
第4期については、大きく分けて、以下のような3つのテーマを考えることとしたい。第一は、「日本的雇用システムの再構築」である。90年代からの日本経済は大きな構造転換、制度変化を経験してきたが、2020年という節目の年を数年後に控え、それまでの「移りゆく30年」の下で日本的な雇用システムの何が変わり、何が変わらなかったか、そしてどこへ行くのかを明らかにすることが今こそ求められているといえる。
具体的には、正規、非正規の雇用ポートフォリオが大きく変化する中で、日本的雇用システムの特徴といわれた、正社員の①長期雇用、②後払い式(年功型)賃金、③新卒一括採用と遅い昇進、④長時間労働、⑤人事ローテーション・出向と企業特殊スキル形成(企業内訓練、能力開発)などが新たな国際比較も交えながら、どこが変わり、どこが変わらなかったのかなどを明らかにする。80年代末に青木昌彦氏や小池和男氏が確立した日本的雇用システム論の再評価も行う。その上で、正社員改革、非正社員改革を合わせた日本的雇用システムの再構築の在り方について包括的な視点を提供し、政策提言を行う。
第二は、こうした「日本的雇用システムの再構築」に向けて引き続き重要な取り組みとなる、長時間労働是正、メンタルヘルスへの対処などを含むワーク・ライフ・バランスの達成、女性の活躍を含めたダイバーシティの推進である。新たなデータ・セットや学際的なアプローチも活用しながら、さらに実証分析を積み重ね、政策提言を行う。
第三は、「日本的雇用システムの再構築」を目指す上で、雇用システム改革と制度補完的な教育・人材改革である。この分野で「エビデンスに基づいた政策」を行うには教育経済学に基づいた実証分析がまだかなり不足している状況である。また、教育経済学は経済学の中でも新しい分野であり、日本の研究者は、数もまだわずかであり、若手を中心に散在している状況である。このため、研究者の交流や組織化は遅れていることは否めない。従って、教育に関する実証分析、政策提言のストックを拡張していくためには、まず、研究者の集積と人的ネットワークの構築が必要である。第4期においては、「人的資本」プログラムにおいて、教育に関わる分析・研究・政策提言が人的資本プログラムの柱の1つにまで成長できるような取り組みを行いたい。
なお、これまで同様、所属する各プロジェクトが、人的資本プログラムの一環として、相互に情報の共有や連携を行うことで、全体としてシナジー効果やまとまりのあるプログラムになることを目指して研究を進めていくことにしたい。