「貿易投資」プログラムについて

プログラムディレクター

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冨浦 英一(プログラムディレクター・ファカルティフェロー)

第4期中期計画の「貿易投資」プログラムは、第3期中期計画の同プログラムにおける各種プロジェクトを引き継いで研究を深めている。本プログラムでは、国際貿易、海外直接投資(FDI)、貿易政策、国際経済ルールについて、経済学を中心に、法学も加え、各方面の研究者が取り組んでいる。

近年の国際貿易は、一国内で生産工程が完結した完成品の貿易だけではなく、FDIの累積も受けて生産工程の過程で中間財が国境を複雑にまたぐ国際分業形態が無視できない。そこで、企業のサプライチェーンを国内・海外一体としてネットワークの視点でとらえ、ショックの伝播等に関する分析を行っている。また、FDIの展開により所有構造でつながる多国籍企業の企業内や企業の境界を越える取引について、財だけでなくサービスも含めて実態把握を試みている。こうした実証分析によって、世界経済とより深く統合された日本経済の成長に向けた政策の検討に資するとともに、財の貿易やFDIによる生産の海外移転にとどまらず、近年さらに複雑化しているグローバル企業活動をより正確に把握することになるものと期待できる。

国際貿易に際しては、輸送費、通信費用、関税、非関税障壁などさまざまな障壁が存在するが、それらを総体として「貿易費用」ととらえ、貿易費用が貿易に与える影響を理論的・実証的に分析している。こうした分析により、貿易に伴う障壁や摩擦を考慮した、より現実的な貿易理論の構築につながることが期待される。先進国間では関税の平均的水準が低下したこともあって、こうした貿易費用全般の低減が貿易促進により重要となってきているところである。また、貿易費用のうち関税等の政策的な障壁の影響については、一般均衡モデル等を用いて計量的に試算を行っている。世界では多数の自由貿易協定(FTA)が締結されており、これらがわが国や世界の主要国経済に与える効果(FTA締結以前の事前における予測および締結・発効後の事後における評価の両面)の正確な計測が重要な政策課題となっているため、通商政策上の要請が高い研究テーマである。

貿易・FDIには、関税だけでなく政府による各種の政策が強く影響する。そこで、日本との経済関係も緊密で経済大国となった中国を取り上げ、その貿易政策・産業政策が中国のみならず日本の企業に与える影響を分析している。また、日本における貿易自由化等の政策選択に対する個々人の支持と個人のさまざまな特性の関係について統計的分析を深めている。こうした実証分析によって、より望ましい政策実現への方途を探る前提となる実態理解が深まると期待される。

国際経済取引は現実にはさまざまな条約・協定の下で行われており、その内容が国際ルールを遵守しつつ国際化を深める日本経済に与える影響は無視できない。このため、世界貿易機関(WTO)の判例研究を蓄積し、政策当局への提言・助言を継続する。また、FTAの拡大、新興国経済の発展等に伴ってルール・システム上の新たな課題も生じていることから、政府介入下における競争の中立性確保など、国際通商・投資ルールの問題について法的側面から分析を行っている。