プログラム

「人的資本」プログラムについて

RIETIは創立10年を迎え、第3期では大きな研究分野毎に新たにプログラムを設けることとなった。その中で、雇用・労働・教育に関わる研究については、「人的資本」と名付けられたプログラムで行う。以下、「人的資本プログラム」が今後取り組む研究テーマなどをプログラムディレクターの立場から、特に、関与の深いものにつき簡単に解説したい。

RIETIにおいて、雇用・労働・教育といったテーマが「人的資本」という言葉でくくられているのはそれなりに意味があると考えている。なぜなら、急速な高齢化の進行、グローバル競争の強まり、東日本大震災からの復興の中で、資源小国である日本が経済活力を維持・強化し、成長力を高めていくためには、人的資源の活用が大きなカギを握っているためである。逆にいえば、雇用・労働・教育の研究を行う場合でも、最終的には日本経済の成長にいかに結びつけるかという視点が重要となる。

「人的資本プログラム」では大きく分けて、2つの視点を考えている。第1の視点は、労働者のインセンティブや能力を高めるような労働市場制度の設計である。RIETIでは第2期において労働市場制度改革プロジェクトを立ち上げ、この6月出版の『非正規雇用改革―日本の働き方をいかに変えるか』(鶴・樋口・水町編著日本評論社)も含め多彩な研究活動を続けてきた。

第3期においても引き続き推進予定のこのプロジェクトの関係では、特に、労働者のパフォーマンスに大きな影響を与える賃金・処遇に焦点を当てたシンポジウムを12月に開催する予定である。そこでは、吃緊のテーマである今回の大震災の影響や雇用・労働政策のあり方も議論する予定である。また、このテーマの延長線上として、最低賃金に焦点を当て、その労働市場への影響や政策のあり方を包括的に論じるような書籍の出版及びそのための研究を企画している。

さらに、最近の労働経済学の実証分析をみても、独自のパネルデータの構築が重要となっている。RIETIでも労働・雇用分野でこれまでいくつかのアンケート調査を行ってきたが、第3期はそれらを更に強化し、労働の供給側、需要側(企業・従業員ベース)両面で包括的なパネルデータを構築できるようなアンケート調査にも取り組むつもりである。

第2の視点は、ライフ・サイクル全体からみた人的資本、人材力強化の方策である。人材というと職業訓練や能力開発といった就業期の人材育成が重視されがちであるが、最近の研究では幼児教育の重要性が指摘されている。また、就業期への橋渡しを行う高等教育のあり方も問われている。さらに、超高齢化社会に向けて急速に進む中で、若者への技術等の伝承や子供の教育における高齢者の役割も期待されている。こうしたライフ・サイクル全体の視点からの人的資本・人材力強化の方策について多面的、総合的な研究を行うことを目的とした新たなプロジェクトの立ち上げも検討しているところである。

プログラム案(例)プログラム案(例)

このようにいくつかのプロジェクトが人的資本プログラムの一環として、相互に情報の共有や連携を行うことで、全体としてシナジー効果やまとまりのあるプログラムになることを目指して研究を進めていくことにしたい。