プログラム

「新しい産業政策」プログラムについて

東日本大震災は、わが国が抱えていた問題点を改めて浮き彫りにした。円高や高い法人実効税率など、震災前から指摘されていたわが国企業を取り巻く環境が、昨今のエネルギー政策の見直し等でさらに厳しくなる中、製造業を中心として海外生産へのシフトが加速されることが懸念されている。産業構造がトレンドとして製造業からサービス業へとシフトしている中で、雇用の受け皿としての新たな産業分野の創出が望まれている。

こうした『「新しい産業」政策』への要請と並行して、リーマンショック直後の経済危機をきっかけとして、ここ10数年の間薄らいでいた産業政策への関心が世界的に高まっている。とりわけ急成長を政府主導のもとで遂げているように見える中国や韓国、ブラジルなどの新興国に対してどのように対抗していくのか。政策的な関心が寄せられる中で、これまでの産業政策に対する批判を踏まえた上での『新しい「産業政策』』へ理解を深める必要がある。

本プログラムは、上述のような『「新しい産業」政策』と『新しい「産業政策」』という2つの側面をバックグランドとして持ちながら、幅広い角度からのプロジェクトを企画している(下図参照)。

図:新しい産業政策プログラム(プロジェクト案)

リーマンショック後の経済危機を経て、ここ10数年の間薄らいでいた産業政策への関心が再び高まっている。わが国においても資源配分を古い産業から新しい産業へと迅速に移動させることにより、新しい財・サービスの創出につながる供給側の新陳代謝を高めて経済の持続的な成長を図るために政策的な取り組みが必要とされている。

日本経済の新陳代謝を促す上で、取り組むべき重要な課題はおおまかに、(1)新産業・新企業の創出・育成と(2)既存企業の再生・活性化の2点であろう。これらの課題は市場機能によって完全に解決することができず、政策的に取り組む余地が大きいことが今回の経済危機及び震災から明らかになった。

まず(1)については、経済成長とイノベーションの原動力となることが実証研究としても明らかにされつつあるが、独り立ちするまで長い年月を要し、息の長い取り組みが必要とされている。エネルギーや医療・介護分野でのイノベーションに大きな期待がかかる中で、国際的にも精彩を欠くわが国の起業状況についての分析も射程に入れたい。

起業や新産業の育成は息の長い長期にわたるプロセスであることを考えると、すでに存在する企業・産業の再生や活性化は、より即効性のある取り組みとして有効である。震災を通じて、サプライネットワークの断絶がもたらす外部負経済を政策的に防ぐことの重要性が再認識されることになった。他方で特定の企業が公的支援を受けるような透明性を欠く政策決定プロセスに対して不公平感が高まることも懸念される。公的支援によって国内市場における競争環境が歪むことの無いように、事前的・事後的な評価を行い、政府の失敗が最小限に食い止められるような競争政策的な視点からの研究も行うことを予定している。また人口減少とグローバル化の進展の中で、わが国の農業をいかに立て直すかもTPPの方向性を占う上での大切な視点であり、本プログラムの重要テーマである。

経済活動を活性化させるために、万能の処方箋があるわけではない。起業にしても企業再生にしても、それぞれの案件を取り巻く市場環境や産業構造を考慮した細やかな政策対応が望まれる。市場競争の規律を活かしつついかに公的支援を行うか、そしてそうした政策をどのような手法で評価するのか。これまでの研究が対象としなかった新たな視点が今日必要となっている。本プログラムは、他のプログラムとも適宜連携しつつ、こうした新しい論点に切り込んでいければと考えている。