人口減少が続く日本が経済活力と豊かさを維持する上で、生産性向上は喫緊の課題である。また1人当たりGDPが、物価の違いを考慮した購買力平価換算ではOECD加盟34カ国中19位(米国の71%)、円高が著しい市場為替レートで換算しても米国の88%、オランダの83%という現状(国連およびOECDによる2009年の国際比較に基づく)は、生産性のキャッチアップによって、我々の所得を増加させる大きな余地が残されていることを意味する。本プログラムでは、日本および東アジア諸国について産業・企業の生産性とその決定要因を計測し、生産性向上のためにはどのような政策が必要かを分析する。プログラムは下表の通り、7つのプロジェクトで構成されるが、プログラム全体の性格は以下の通りである。
プログラムの第1の特徴は、日本産業生産性(Japan Industrial Productivity,略称JIP)データベースをはじめ、日本と東アジアの産業構造や産業別生産性、地域経済構造を分析するための基礎資料となる産業別・地域別データベースを構築・更新し、原則全てのデータを公共財として公開する点にある。具体的には、一橋大学と協力してJIPデータベースの更新・拡張を進めると同時に、新たに中国産業生産性(China Industrial Productivity,略称CIP)データベースを構築する。また日本の都道府県別産業生産性データベースを構築し、震災が地域経済に及ぼす影響と復興政策を分析する。
第2の特徴は、マクロレベルや産業レベルの生産性動向を、それを構成する企業や工場の生産性動向の集計値として捉え、分析する点にある。政府統計ミクロデータや企業財務データを活用することにより、生産性の決定要因について新しい研究分野を開拓し、また政策効果について確かな知の提供を行うことができる。具体的には、日本や中国の政府統計ミクロデータや企業財務データを活用して、企業間生産性格差の決定要因、グローバル化や需要変動が企業のパフォーマンスに及ぼす影響、サービス産業における生産性向上政策、日中韓企業間の生産性格差動向や生産性ダイナミックスの国際比較、等について研究する。また、日中韓の全上場企業について全要素生産性を計測・国際比較する企業レベルのデータを構築し、これを公表する予定である。この他、イノベーションと生産性向上の源泉である、研究開発、ソフトウエア、企業内訓練、組織改編等の無形資産投資を、産業・企業レベルで計測しその経済効果を分析する。
プログラムの第3の特徴は、海外の研究プロジェクトや内外の研究・統計作成機関と連携することにより、日本と海外諸国の間で、生産性動向やその決定要因の比較を可能にすると同時に、政府・国際機関統計の改善や内外の生産性に関する政策研究に寄与する点にある。具体的には、以下のようなグローバルな連携を計画している。まず、アジア開発銀行研究所(ADBI)、シンガポール国立大学、ハーバード大学、フローニンゲン大学等と協力して、アジア諸国の産業構造と生産性を計測しこれを世界の他地域と比較するAsia KLEMSネットワークの構築を進める。また日本の産業構造・生産性データを、EUの世界産業連関表データベース(WIOD)プロジェクト、World KLEMSプロジェクト、OECD等に継続して提供する。この他、SNA統計と直結した生産性データベースの構築や医療・教育など非市場型サービス産業のアウトプット計測方法の開発を内閣府経済社会総合研究所(ESRI)の研究者と、イノベーションの源泉と効果に関する分析を文部科学省科学技術政策研究所(NISTEP)の研究者と連携して進める。また無形資産投資の国際比較をOECD、インペリアル・カレッジ、ソウル大学等の研究者と、企業生産性水準の国際比較を北京大学、西江大学等の研究者と連携して進める。更に生産性水準の国際比較にあたっては、購買力平価データについて世界銀行を中心とする国際比較プログラム(ICP)の協力を得る。