プログラム

「貿易投資」プログラムについて

今年度から始まった第3期中期計画の「貿易投資」プログラムは、第2期中期計画において「経済のグローバル化、アジアにおける経済関係緊密化と我が国の国際戦略に関する研究」として行われてきた国際経済研究を引き継いで、さらに政策研究を深めようとしている。プログラムでは、国際貿易、直接投資、技術革新、経済成長とそれらに関連する貿易政策、国際経済ルールについて、経済学、経営学、法学、政治学の各方面の研究者が取り組むことになっている。研究の対象とする範囲はかなり広い。特に、東日本大震災から立ち上がろうとする日本経済が国際経済の中でどのように対応すべきかは極めて重要な課題だ。以下では、このプログラムを構成している4つのプロジェクトについて、そのねらいを紹介する。

「日本経済の創生と貿易・直接投資の研究」(プロジェクトリーダー:若杉FF・戸堂FF)は、第2期中期計画期間における「国際貿易と企業」研究の成果を踏まえてさらに研究を発展させる。これまで「企業の国際化(輸出・海外生産)」を日本経済の成長の鍵と捉え、企業の異質性を折り込んだ国際貿易の理論・実証分析やさまざまな政策提言を行ってきたが、日本企業の輸出・海外直接投資が雇用に与える影響、国際的な知的財産権の保護が企業R&Dやイノベーションに与える影響、企業の国際化が国際技術移転に与える影響にまで研究を発展させる。また、発展する中国市場に注目し、企業の集積・国際化(輸出・FDI)と中国経済の成長について分析する。特に重視したいのは、東日本大震災により日本の社会・経済が大きな打撃を受けたことだ。この深刻な被災をいかに克服するかが日本経済の今後の発展の鍵となる。プロジェクトでは、大震災の被災から日本経済を創生するために、企業の国際取引(貿易・海外投資)、特にグローバル市場における新しい生産ネットワーク・産業集積の形成、電力供給制約への対応がどうあるべきかを視野に入れた研究を行う。このプロジェクトは研究メンバーが10名の規模になる。

人口減少、少子高齢化は国内市場の縮小と労働力供給制約を深刻化させ、新興国経済の成長は我が国経済の相対的低下を招いている。一方、国際通商ルールに関しては、WTOラウンド交渉の行方は不透明であり、FTAネットワーク化が進みつつある。どのような貿易政策を選択するかは日本経済にとって益々重要となっている。このように重要な貿易政策の選択について、経済学者の間では自由貿易が支持される。しかし、自由貿易の実現には抵抗感が少なくないのも事実だ。そこには標準的な経済理論で想定されていない個々人の特性が貿易政策への支持・不支持に影響を与えている可能性がある。「我が国における貿易政策の支持に関する実証分析」(プロジェクトリーダー:冨浦FF)は、貿易政策の選択への国民の支持に関して、サーベイ調査とそれに基づく実証研究を行い、日本の貿易政策を形成する上での基盤的知見を提供する。

企業の生産技術は競争力と直結しているため、企業は日々、技術の開発・獲得競争を繰り広げており、生産性や技術力の向上を目指した企業活動は経済成長の源泉の1つである。これまで日本企業は輸出や海外直接投資などグローバル化の進展によって生産性や技術力を高め、最近では、技術取り込みを狙った買収やオフショアリングに伴う海外への技術移転・流出などを行っている。企業の技術を巡る様々なイシューは経済のグローバル化の進展と密接な関係にある。「グローバル経済における技術に関する経済分析」(プロジェクトリーダー:石川FF)は、技術開発、模倣、保護、移転、普及、標準化など、技術に関する様々なイシューを国際経済学の視点から理論的・実証的に分析し、グローバル経済において日本が成長する上で必要な生産性や技術力の向上に関わる政策的含意を導き出す。

国際経済取引は様々な条約・協定の下に成り立っており、その内容が日本経済に与える影響は無視できない。「現代国際通商システムの総合的研究」(プロジェクトリーダー:川瀬FF)は、第2期の成果をさらに発展させ、WTOを中心とした貿易・投資の国際通商秩序に関して法的、政治的側面から分析し、政策提言を行う。