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2006年度政策研究領域(基盤政策研究領域)

II. 国際競争力を維持するためのイノベーションシステム

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我が国企業が国際競争力を維持していくためには、持続的なイノベーションが不可欠である。しかしイノベーションは、これを促進する政策も含め、それらを効果測定するのが難しい分野である。したがって、この研究の実施にあたっては、企業、産業レベルのイノベーションとマクロ経済の全要素生産性の相互関係を明らかにする理論的・実証的な分析枠組みが求められる。その中で、我が国産業が置かれている状況や個々の産業技術政策についての評価や分析を、イノベーション政策に活用していく。

1. 日本企業の研究開発の構造的特徴と今後の課題

プロジェクトリーダー

長岡 貞男ファカルティフェロー

概要

日本経済の今後の成長のためには、企業等における優れた研究開発が極めて重要である。しかしながら、研究開発の知識源、外部連携、スピルオーバー、資金制約、研究成果商業化への制約、発明者の動機などについての社会科学的知識は非常に限定されている。

本研究では、企業内の研究プロジェクトのレベルでこうした情報を体系的に収集するために、日本の発明者への包括的なサーベイを行う。このようなサーベイは日本で初めての取り組みとなる。

またサーベイで得られた情報と既存統計を組み合わせた統計的分析によって、日本企業の研究開発の構造的な特徴(たとえば、製造現場における発明の重要性)を明らかにすると共に、研究開発パフォーマンスの決定要因と今後の政策課題を分析する。更に、来年度以降、国際比較分析を実施するために、質問票や調査方法について欧州・米国の学者との国際的な意見交換などの準備作業を行う。

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2. 産業・企業の生産性と日本の経済成長

プロジェクトリーダー

深尾 京司ファカルティフェロー

概要

労働人口が減少する今後の日本においては、生産性上昇が経済成長の主要な源泉である。また全要素生産性は、物的・人的資本の収益率を規定し、設備・教育投資の動向を左右する点でも重要である。

本研究では、JIPデータベースを毎年更新することにより、日本経済の最近の生産性動向を分析可能にする。2006年度には1970−2004年をカバーすることを目指す。また、日本の経済活動全体をカバーするミクロデータとマクロ・産業レベルのデータを統合することにより、マクロ・産業レベルの全要素生産性・労働生産性上昇を個別企業・事業所内の生産性上昇、企業・事業所間の資源再配分、参入・退出の視点から分析する。

現在、2桁レベル(マクロ経済全体、72セクター)で生産性データベースを作成する作業が、EUコア諸国と米国についてはフローニンゲン大学を中心とするKLEMプロジェクト、韓国についてはソウル大学で進められている。JIPデータベースは、日本代表としてEU KLEMSプロジェクトに参加している。これらの組織やハーバード大学のジョルゲンソン教授と連携しながら、詳細な産業レベルで生産性国際比較を行う。さらに、経済産業省の諸部局と連携し、国際化が企業の生産性に与える影響(通商政策局企画調査室)、マクロおよび産業レベルの無形資産ストックの推計(技術振興課)、サービス産業の生産性に関する研究等を行う。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

国際ワークショップ

  • 「日・中・韓・欧州企業の生産性」 (2007年3月2日)

RIETI政策シンポジウム

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3. 東アジアにおけるリージョナル・イノベーションと企業経営

プロジェクトリーダー

浅川 和宏ファカルティフェロー

サブリーダー

三本松 進コンサルティングフェロー

概要

近年、企業が自国の優位性のみに立脚せず世界中の経営資源を獲得、活用してグローバル規模の競争優位を構築するといったメタナショナル経営の重要性が強調されている。しかし現状は依然、大企業を軸とし先進国を中心としたグローバル・イノベーションが主流である。そうした中、最近の東アジアにおける液晶ディスプレイ産業の動向は注目に値する。日韓台を中心とする東アジア地域でのイノベーションの連鎖による産業創造過程は、もはや先進国至上主義、自国中心主義では成り立たない。

本研究では、こうしたグローバル・イノベーションの新たな傾向に注目し、(1)東アジアにおける液晶ディスプレイ産業、および(2)中小企業による東アジア展開、に焦点を当て、グローバルないしリージョナル・イノベーションの新たな展開を分析し、わが国の企業経営ないし産業政策への示唆を導出したい。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

RIETI政策シンポジウム

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4. 生産性向上に関するマクロ・産業・企業レベルの統合的アプローチ

プロジェクトリーダー

西山 慶彦ファカルティフェロー

概要

90年代は「失われた10年」などともいわれ、生産性低下の時代であったと理解されている。しかし、何を真因としてマクロ的生産性低下が見られたのかは明らかではない。個々の企業の生産性の低下、低生産性企業の参入、高生産性企業の退出などの原因が考えられるが、事実としてどのような原因であったのかを探ることは実証的な問題である。これに対しては適切な経済モデルと適切な統計手法を組み合わせて調べる必要があるが、既存研究の中には直接適用することが妥当なものがないのが実情である。この先目指すべき持続可能な成長といった観点からも、企業や産業といった下部構造の変化とマクロレベルの変化の統一的理解は重要な課題である。

本研究ではこの問題に対し、理論・実証両面の包括的なアプローチを試みる。

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5. 大学・公的研究機関と民間企業との共同発明の研究

プロジェクトリーダー

玉田 俊平太ファカルティフェロー

概要

企業が新製品を開発するための技術課題の解決に必要とされる科学的知識や技術的知識を組織内で得ることができない場合、大学や独立行政法人等の公的研究機関と連携することが有効と考えられる。一方で、他の組織との連携にはサーチや契約のためのコストがかかる。

本研究は、公的研究機関に属する研究者と民間企業に属する研究者との共同発明について調査研究を行うことを通じて、大学や独立行政法人等の公的研究機関が果たしている役割について明らかとするとともに、我が国のイノベーションシステムを一層強化するための政策に対するインプリケーションを得ることを目的とする。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

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6. イノベーションによる価値獲得:情報機器・デジタル家電における日本企業の競争力と付加価値創造

プロジェクトリーダー

延岡 健太郎ファカルティフェロー

概要

日本経済にとって、イノベーションによる付加価値創造は最重要課題である。これまでの研究は、革新的な技術革新を起こし、それを基盤に市場・顧客ニーズに合致した商品を開発することができれば、国際競争力や生産性の向上に結びつくことが仮定されていた。しかし、近年の国際競争はより複雑性が高まり、日本企業が技術革新に成功してそこから優れた商品を開発しても、付加価値創造に結びつかない事例が急速に増えている。技術経営の理論でいえば、「価値創造」はできても、「価値獲得」ができないということである。特に、半導体やデジタル技術、通信技術を使った情報機器やデジタル家電において顕著である。日本企業が直面する価値獲得の失敗については、旧来のイノベーションシステムに関する理論枠組みでは説明できない部分が多い。

本研究では、価値獲得のあり方を理論的・実証的に明らかにし、日本企業の国際競争力を高めるための提言を行う。

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7. 日本企業の設計思想および設計プロセスの研究

プロジェクトリーダー

藤本 隆宏ファカルティフェロー

概要

経済学における貿易や産業競争力の議論、とりわけ比較優位の研究においては、暗黙のうちに、財の生産プロセス全体のうち物理的な製造プロセスの重要性、言い換えればそこにおける資源の効率的な利用が、一国の貿易構造・産業構造の基礎となることが前提とされてきた。しかしながら、収穫逓増と製品差別化が例外ではなく常態である現代の多くの貿易財産業においては、製造プロセスにおける資源の効率的な利用よりもむしろそれに先立つ設計プロセスにおける資源の効率的な利用が、一国に存続する産業構造を分析する上では重要ではないか、との推論が成り立つ。

以上の問題設定を踏まえて、本研究では、財(人工物)の製造を設計情報の作成から考え、それが市場へ向かう流れを最適化することを「ものづくり」と捉える設計論ベースの産業論にもとづき、日本の貿易構造・産業構造を再検討する。具体的には、歴史的経緯から日本に偏在する組織能力と、所与の製品が持つ設計思想(アーキテクチャ)との適合性から、産業競争力を推定する枠組みを考えてみる。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

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8. 我が国半導体型産業におけるイノベーション・プロセスに関する調査・分析

プロジェクトリーダー

中馬 宏之ファカルティフェロー

概要

サイエンス型産業において効果的なイノベーション・プロセスを実現するためには、企業内外の多種多様な専門家の英知を、より広範囲にわたって結集することが不可避と考えられる。しかし、残念ながら我が国においては、このような「英知の結集」が十分に広範囲なレベルで効果的に実現されているとは言い難い状況である。そのため、数多くの創造的な発見・発明・改良が生み出されている分野においても、関連するサイエンス型産業の競争力上昇に繋がりにくくなっている実例が、少なからず存在する。

本研究の目的は、このような現状認識に基づいて、我が国の代表的なサイエンス型産業である半導体(デバイス・装置・材料)産業のイノベーション・プロセスの特徴、特にその弱みと強みを再検討すると共に、その克服策を探ることである。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

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9. ソフトウエア・イノベーションについての実証的研究

プロジェクトリーダー

田中 辰雄ファカルティフェロー

サブリーダー

鈴木 潤ファカルティフェロー

概要

周知のように、ソフトウエア産業における日本の競争力は弱い。ソフトウエア産業全体では圧倒的に輸入超過であり、輸出は輸入の1割にも満たない。付加価値の高い先端技術産業のなかで、これだけ圧倒的に日本の競争力がない産業は珍しい。また、このことはIT技術を利用したビジネスプロセスの革新においても悪影響をもたらしている可能性もある。これはなぜであろうか。なぜこんなにも競争力に格差が生じたのだろうか。競争力を高めるための政策的処方箋はありうるのだろうか。

本研究の目的は、この問いに答えるための仮説を実証的に検討することで、日本のソフトウエア・イノベーションの現状を把握し、ソフトウエア産業の競争力強化とソフトウエアを利用したビジネス革新の推進のための政策を探ることにある。

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10. 今後のプロパテント政策のあり方について

プロジェクトリーダー

清川 寛上席研究員

概要

わが国の生き残りにはイノベーションの推進が不可欠で、それを支えるものとして知的財産権制度があり、プロパテントとはその強化のことである。このプロパテント化は、小泉政権下で戦略本部が設置され推進されてきたが、その発端は90年代半ばに遡る。当時は普及重視でその保護に欠け、イノベーション促進に合わないとの議論があった。

昨年度の研究において、現在までの制度変遷等を評価し、わが国プロパテントの水準は相当程度改善されたとの結論を得た。他方でわが国プロパテントの範となった米国では、保護の行過ぎからプロパテント見直しが行われ、また研究開発も複雑・高度化からむしろ連携しての取組が求められている。このような中、よりイノベーション促進的な知的財産権制度のあり方を検討する。具体的にはその保護程度(排他権)の見直しや、知的財産を活かした経営・事業戦略のあり方等につき、現場の企業の声も聞きつつ検討することとする。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

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11. 産業クラスターに関する調査研究(京都大学経済研究所との協同研究)

プロジェクトリーダー

児玉 俊洋京都大学経済研究所教授

概要

わが国の経済成長戦略にとって、イノベーション力の強化と地域経済活性化の両面において産業クラスター形成の重要性が高まっている。本研究は、経済産業省の「産業クラスター計画」のモデル事例と位置づけられている首都圏西部の“TAMA”に関する先行研究成果を活用しつつ、ハイテク企業と有力大学が集積する京都圏を調査することなどを通じて、産業クラスター形成のあり方に示唆を与えることを目的とする。

具体的には、京都市近郊から滋賀県南部にかけての「京滋地域」の製造業企業を対象とするアンケート調査によって、製品開発力に優れた中小企業を見出すとともに、大企業とこれら製品開発型中小企業との間で連携が発展する可能性を検討する。これにより、全国への示唆を含めて、有効な地域イノベーションシステムとして産業クラスターが発展するための方策および政策課題を検討していく。

主要成果物

RIETIディスカッションペーパー

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