(2010年2月16日現在)
他国に例を見ない急激な少子高齢化の中で、我が国の経済活力を維持していくため、経済構造改革推進のための方策、女性、高齢者、若者などの労働力参加率の上昇、労働と資本の生産性の向上、最適な世代間、世代内の給付・負担のバランスを確保する社会保障制度のあり方、効果的な財政政策と財政均衡の回復のあり方に関する多面的かつ統合的な研究を行う。
- 1. 少子高齢化のもとでの経済成長
- 2. 新しいマクロ経済モデルの構築および経済危機における政策のあり方
- 3. ITと生産性に関する実証分析
- 4. 社会保障問題の包括的解決をめざして:高齢化の新しい経済学
- 5. イディオシンクラティック・リスクと経済変動
- 6. 非完備市場における安定化政策
- 7. ワーク・ライフ・バランス施策の国際比較と日本企業における課題の検討
- 8. オープンイノベーションに関する実証研究
- 9. 少子高齢化と日本経済−経済成長・生産性・労働力・物価−
- 10. 持続可能な公的年金制度構築の為のマクロ経済・財政シミュレーション分析
- ドメインIの研究成果で2009年度研究プロジェクトに属さないもの
1. 少子高齢化のもとでの経済成長
活動期間:2007年9月1日〜2009年12月31日
プロジェクトリーダー
サブリーダー
プロジェクト概要
少子高齢化のもとで我が国の経済活力を維持していくためには、生産性の向上や技術進歩等に関する統合的な研究が必要である。本プロジェクトは、そうした政策課題を強く認識しながら、さまざまな角度から経済成長のメカニズムを解明しようとするものである。経済成長にかかわる既存研究が多分にTFP中心であったのに対して、本プロジェクトにおいては、試行的な研究や周縁的な研究まで含めて広範なテーマを取り扱う。とりわけ、(1)これまで実証研究の乏しいイノベーションや技術進歩の役割、産業構造の変化、(2)労働市場への参加や労働時間に関する研究を行う。
主要成果物
RIETIディスカッションペーパー
- "Stock ownership and corporate performance in Japan: Corporate governance by institutional investors" (SHINADA Naoki)
- "Pension Benefit and Hours Worked" (MIYAZAWA Kensuke)
- "Agglomeration or Selection? The Case of the Japanese Silk-reeling Industry, 1909-1916" (ARIMOTO Yutaka, NAKAJIMA Kentaro and OKAZAKI Tetsuji)
- "Knowledge Spillover on Complex Networks" (KONNO Tomohiko)
- "A Stochastic Model of Labor Productivity and Employment" (FUJIWARA Yoshi and AOYAMA Hideaki)
- 「外国人研修生・技能実習生を活用する企業の生産性に関する検証」 (橋本 由紀)
- 「集落営農が稲作の生産および費用に与える影響−大規模稲作経営のシミュレーション分析−」 (齋藤 経史、大橋 弘、西村 清彦)
- 「プロダクト・イノベーションと経済成長」 (吉川 洋、安藤 浩一、宮川 修子)
- 「需要誘発的イノベーションと需要の不確実性?薄型テレビのケーススタディ?」 (宇南山 卓、慶田 昌之)
- 「少子高齢化対策と女性の就業について?都道府県別データから分かること?」 (宇南山 卓)
- 「SNAと家計調査における貯蓄率の乖離?日本の貯蓄率低下の要因?」 (宇南山 卓)
- 「1990年代における日本企業の教育訓練支出に関する考察」 (須賀 優)
- 「産業構造の変化と戦後日本の経済成長」 (吉川 洋、宮川 修子)
2. 新しいマクロ経済モデルの構築および経済危機における政策のあり方
活動期間:2007年7月1日〜
プロジェクトリーダー
プロジェクト概要
グローバルな金融危機におけるマクロ経済政策のあり方を分析するため、金融システムや資産担保貸出など、金融問題を明示的に取り入れた定量的景気循環モデル(マクロ経済モデル)を構築する。そのモデルを使ったシミュレーション等を行うことによって、マクロ経済政策の政策評価に役立てることを研究目標とする。さらに、理論構築の新たな試みとして、サーチ理論や貨幣理論(特にLagos and Wrightの枠組み)を使って、銀行危機や金融危機を描写する新しい一般均衡モデルの構築を行う。さらに、平成17年度から発展させているBusiness cycle accounting(BCA)について、分析手法の限界とその克服方法などについて、研究を深め、実用性を高めていく。
また、金融産業主導のアメリカ経済が「最終的な消費者」として世界経済を牽引するという冷戦後の成長パターンが崩れ、今後、グローバルな経済運営が、現実にも、理念的にも、大きく変化することが予想される。これからのグローバルな成長構造のあり方、その中での東アジア地域の役割、さらに日本の経済構造や産業構造がどのような方向に進むべきか、という問題について、幅広く調査し研究を進めたい。
研究の柱を大きく次の4つに分類する。
Ⅰ.定量的景気循環モデルの構築とBusiness cycle accounting
Ⅱ.銀行危機モデルによる金融安定化政策とマクロ経済政策の比較考量
Ⅲ.経済危機における政策のあり方と過渡期の経済構造変化
Ⅳ.その他の関連する諸研究
主要成果物
RIETIディスカッションペーパー
- "Asset-Price Collapse and Market Disruption - A model of financial crises -" (KOBAYASHI Keiichiro)
- "A Monetary Model of Banking Crises" (KOBAYASHI Keiichiro)
- "Quantitative Significance of Collateral Constraints as an Amplification Mechanism" (INABA Masaru and KOBAYASHI Keiichiro)
- "The Role of Investment Wedges in the Carlstrom-Fuerst Economy and Business Cycle Accounting" (INABA Masaru and NUTAHARA Kengo)
- "The Impact of Immigration on the Japanese Economy: A multi-country simulation model" (SHIMASAWA Manabu and OGURO Kazumasa)
- 「昭和恐慌期前後の金融政策はどのように行われたのか?テイラー・ルールとマッカラム・ルールによる解釈?」 (原田 泰、佐藤 綾野)
3. ITと生産性に関する実証分析
活動期間:2008年5月13日〜2009年6月30日
プロジェクトリーダー
プロジェクト概要
少子高齢化社会において経済的な活力を維持するためには、生産性主導の経済成長を実現することが必要である。そのためにはまずTFPの決定要因について実証分析を行うことが重要である。ここではITイノベーションをTFPの決定要因としての中心的なファクターとしてとらえ、米国やアジア諸国との国際比較もスコープに入れた実証分析を行う。90年代後半以降、日本企業は積極的にIT投資を行っているのにもかかわらず、その生産性に対する効果は限定的であるといわれている。
ITは幅広い産業において活用され、特に非製造業におけるビジネスイノベーションを実現するための重要な補完的技術である。従って、ITの有効な利活用を進めることは、マクロレベルでみたTFPの動向にも大きな影響を及ぼすものと考えられる。ここでは、マクロレベルで見たITと生産性の関係をITセクターにおけるイノベーションとITを活用することによる生産性上昇に分けて、それぞれについて実証的な研究を行う。
主要成果物
RIETIディスカッションペーパー
- "A Two-dimensional Analysis of the Impact of Outward FDI on Performance at Home: Evidence from Japanese manufacturing firms" (OBASHI Ayako, HAYAKAWA Kazuo, MATSUURA Toshiyuki and MOTOHASHI Kazuyuki)
- "Software Patent and its Impact on Software Innovation in Japan" (MOTOHASHI Kazuyuki)
- 「ITイノベーションと経済成長:マクロレベル生産性におけるムーアの法則の重要性」 (元橋 一之)
4. 社会保障問題の包括的解決をめざして:高齢化の新しい経済学
活動期間:2009年2月24日〜2010年3月31日
プロジェクトリーダー
サブリーダー
プロジェクト概要
世界的に例を見ない高齢化のスピードを経験する中で、高齢者の生活の質を落とすことなく、持続的な社会保障システムを構築することが不可欠である。このプロジェクトでは、これまでの医療・介護・年金ごとの分野別アプローチやマクロモデルを使ったシミュレーション分析の限界を超え、高齢者の多様性を前提にしたミクロ的かつ包括的な市場指向型の「新しい」アプローチを実現する。既に実施したパイロット調査や同様の高齢者調査(HRS/ELSA/SHARE)の知的支援も十分に踏まえ、「世界標準」の中高年者パネル調査を開始する。健康状態、経済状況、家族関係、就業状況、社会参加といった多面的でかつ国際的に比較可能なデータ収集を行い、豊富なミクロデータを踏まえた“Evidence-Based Policy Making”を日本の社会保障政策分野で確立するとともに、日本の経験を踏まえて諸外国の政策立案にも貢献する。
主要成果物
RIETIディスカッションペーパー
5. イディオシンクラティック・リスクと経済変動
活動期間:2007年5月18日〜2008年6月30日
プロジェクトリーダー
プロジェクト概要
経済におけるリスクには2種類ある。経済全体のリスク(Aggregate Risk)と、個々の経済主体の直面するリスク(Idiosyncratic Risk)である。完全な金融市場の下では、Idiosyncratic Riskは完全に保険することができるので問題とはならないが、不完全な金融市場のもとでは、マクロ経済政策を考える上で重要なファクターとなる。いわゆる「格差問題」も、金融市場の不完全性の下でIdiosyncratic Riskのもたらす問題の一つとみなすことができる。そのようなIdiosyncratic Riskが存在する場合の望ましいマクロ経済政策について理論的・数量的に分析することが本プロジェクトの課題である。
主要成果物
RIETIディスカッションペーパー
6. 非完備市場における安定化政策
活動期間:2008年9月29日〜2009年9月30日
プロジェクトリーダー
プロジェクト概要
グローバルな金融危機と同時に、日本をはじめ各国で労働所得格差の拡大が進行している。格差問題については、労働制度の問題も重要であるが、マクロ経済学的な視点からは「市場の非完備性」が格差拡大の大きな要因になっていると考えることも出来る。ここでは、市場の非完備性が(労働市場の非効率などを通じて)景気全体にどのような影響を与えているのかを考察し、市場の非完備性があるときには、マクロ経済政策(安定化政策)の効果がこれまで考えられていたよりも大きくなる可能性を考察する。
主要成果物
RIETIディスカッションペーパー
7. ワーク・ライフ・バランス施策の国際比較と日本企業における課題の検討
活動期間:2008年6月18日〜2011年3月31日
プロジェクトリーダー
プロジェクト概要
本研究は、わが国でワーク・ライフ・バランス(WLB)社会を実現するにあたっては企業の役割が重要であることに鑑み、企業がWLB施策を導入・運用する上での課題を整理し、必要な方策を検討することを目的とする。具体的には、1)企業のWLB施策導入にあたっての費用・便益構造の分析、2)WLB施策を展開する上で企業が直面する運用上の課題等の把握と対応策の検討、3)WLB施策が職場レベルで定着し従業員の仕事と生活の調和が図れるような取組が進むための課題等の把握と対応策の検討、を行う。研究にあたっては、諸外国の制度、施策を参照しつつ、企業・職場を対象とするアンケート調査、ヒアリング調査を行い、実証的に現状を分析・評価した上で、課題の抽出を行い、必要な提言に結びつけることとしたい。
8. オープンイノベーションに関する実証研究
活動期間:2009年6月8日〜2011年3月31日
プロジェクトリーダー
プロジェクト概要
日本のイノベーションシステムは大企業中心の自前主義が特徴といわれてきたが、技術革新の進展やグローバル競争の激化などに伴って、外部連携をとりいれたオープンイノベーションの重要性が高まっている。しかしながら、欧米企業と比較して、日本企業のオープンイノベーションに対する取り組みは遅れているともいわれている。また、イノベーションに関する外部連携に関する形態は業種によっても異なる。たとえば医薬品産業においては必要な化合物の導入・導出を中心とする一方で、エレクトロニクス産業においては製品・事業領域の複雑化が進みエコシステムを形成していくことが重要になっている。更に、外部連携が活発に行われるネットワーク型のイノベーションシステムを構築するためには、産学連携の活性化や「死の谷」を埋めるベンチャー企業の育成も重要な問題である。ここでは、イノベーションに関する技術分野・業種別の特性を踏まえながら、日本におけるオープンイノベーションの現状と課題を定量的な分析によって明らかにする。
9. 少子高齢化と日本経済−経済成長・生産性・労働力・物価−
活動期間:2009年12月22日〜2011年3月31日
プロジェクトリーダー
サブリーダー
プロジェクト概要
本プロジェクトでは、少子高齢化が日本経済、具体的には経済成長・生産性・労働力・物価にどのような影響を与えるかをさまざまな角度から分析する。
少子高齢化のもとでの経済成長にとっては、技術進歩が鍵を握ることは広く認識されている。とりわけプロダクト・イノベーションが重要であるが、従来のサプライ・サイドと「付加価値」に焦点を当てた全要素生産性(TFP)に関する実証分析では、プロダクト・イノベーションが経済成長に与えるインパクトを十分にとらえることはできない。本プロジェクトでは、プロダクト・イノベーションに関する理論的・実証的分析を行う。このほか生産性、人的資本の蓄積に関する分析、家計の労働供給、物価などについても少子高齢化との関連で分析を行う。
10. 持続可能な公的年金制度構築の為のマクロ経済・財政シミュレーション分析
活動期間:2008年度4月8日〜
プロジェクトリーダー
プロジェクト概要
2004年の年金制度改正を経た現在でも、公的年金制度の持続可能性に対する国民の疑念は払拭されておらず、医療・介護といった、年金以外の社会保障制度に対する国民の信頼も、一向に回復の兆しを見せていない。これは、ひとつには厚生労働省が行う年金財政シミュレーションを中心とする社会保障財政の見通しに対する国民の信頼が回復していないことが影響していると思われる。特に、厚労省予測の追試や様々な想定変更に基づく追試などの可能性が限られていることが、国民の制度に対する不信を増大させている。そこで本研究は、プロジェクトリーダーが開発した年金財政シミュレーション・モデル(RIETIモデル)の拡張を中心として次の3点に関する知見を得ることを目的に据える。
1)一般均衡論的見地から見て整合性のとれた前提に基づく年金財政シミュレーション分析
2)個票データを用いた基礎率の推定を行った上での年金制度統合一元化案の再評価
3)年金財政と医療・介護財政の超長期的見通しに関するシミュレーション・モデルの開発