Research & Review (2004年12月号)

重点四技術分野におけるサイエンスリンケージの計測

玉田 俊平太 研究員

本研究の目的

科学が技術革新、ひいては経済成長の原動力となっているということは、科学者や経済学者の間では広く認識されており、それが、政府が学術研究(academic research)に対して支援を実施する主たる動機となっている。例えば、マンスフィールドは、もしも学術研究の貢献がなかったとすれば、新しい製品や製造方法の10%は、その登場が著しく遅れたであろうと推定している(Mansfield,1991)。

経済成長をもたらす技術革新の源として科学に注目が集まるにしたがい、科学が技術革新にどのように影響を及ぼしているのかに関する興味も増大してきている(Narin et al,1997)。産学連携の重要性についても、同様に注目が集まっている(OECD,1990)。

近年、技術革新の指標として「特許」を分析の対象とし、特許中の科学の指標として学術論文等の「特許以外の引用文献(NPR…Non Patent Reference、以下単に論文等とする)」を計測した指標、すなわち「特許1件あたりの引用論文等数」が注目されている。この指標は「サイエンスリンケージ」と呼ばれており、いくつかの留意点はあるものの、技術に科学が与えている影響を理解する指標として有効であると考えられている。そのため、米国や欧州に出願された特許のサイエンスリンケージを計測することによって、特許化された技術と科学の関係を解明しようとする先行研究が多数存在する。

しかし、日本特許については研究がほとんどなされていない。これは、日本特許を分析することが重要でないからではない。むしろ、日本という米国や欧州に比肩する国内総生産を持つ地域における技術革新のメカニズムを研究するためには、日本国特許庁に対して出願された特許を分析することが必要不可欠だと考えられる。なぜなら、海外出願される技術は、貿易財に関するものであるか、現地生産の際に必要不可欠なものであって、国内出願の2倍以上と言われるコストを払ってでも出願先国において知的財産権を確保するインセンティブが存在するもののみだからである。つまり、国内マーケットのみを対象とする非貿易財に関する技術や、輸出競争力のない財に関する技術の場合には、海外における知的財産権保護のメリットがないため海外出願は行われず、海外特許分析ではこうした技術については研究できないからである。また、米国や欧州等の特許庁に出願されたデータとの国際比較を行うためにも、日本特許データを研究することは極めて重要であると考えられる。

そのため、本研究においては、これまでほとんど研究されていない日本特許について、そのフロントページ及び明細書中で引用されている論文等を計測する。これにより、本研究は、特許性のある技術に、どの程度科学が影響を与えているのか、その影響は技術分野ごとに異なっているのか等について明らかとすることを目的とする。

本研究の手法

技術革新に対する科学の影響を研究するためには、被説明変数である技術革新と、説明変数である科学との両方を、何らかの方法で計測する必要がある。そのため、本研究では、技術革新の部分集合であり、日本特許法に照らして新規性があり、実用化可能かつ有用であるものとして一定の均一な基準で審査され、特許性有りとして公報に掲載された「特許」と、科学によって生み出された知識を形式知化したものと考えられる「定期刊行物に掲載された論文等の記事及び学会発表資料」(以下、これらを「論文等」と呼ぶ)との関係についての研究を行った。

(1)独自データベースの構築
まず、特許公報CD-ROMをもとに、日本特許データベースを独自に構築した。このデータの中から、1995年から1999年までの5年間に発行された特許公報(特許庁の審査を経て拒絶理由のなかったものとして発行された出願)を対象として分析を行った。分析するデータをこの範囲のものに限定した理由は、公報の技術分野の分類に使われる国際特許分類(IPC)が5年ごとに見直されており、この1995年から1999年までの5年間に発行された特許が、同じ国際特許分類第六版に基づいているためである。

(2)重点四技術分野特許の抽出
つぎに、この特許公報データベースから、第二次科学技術基本計画において重点分野とされている、バイオ、IT、ナノテク、環境の4つの技術分野における特許を選び出すためのフィルタリングプログラムを作成し、当該技術分野に該当する特許のデータベースからの抽出を行った。
その際、バイオ技術に関する特許を抽出するプログラムについては、Andersonの研究と極力類似させたアルゴリズムにより作成した。それにより、国際特許分類のうち、非常に狭い特定の領域の国際技術分類に該当するか、あるいはヒトゲノム関係のキーワードを含む特許を抽出した。
IT分野特許は、国際技術分類G06F「電気的デジタルデータ処理」及びH01L「半導体装置、他に属さない電気的固体装置」とした。この技術分野は、限定的なIT分野であり、分析結果には留意が必要である。本分野のフィルタは独自設計のものである。
ナノテクノロジー技術分野のフィルタは、経済産業省産業技術環境局技術調査課による「ナノ構造材料技術に関する技術動向調査(平成13年6月5日)」において用いられているフィルタに準拠した。
環境技術分野に関しては、日本国特許庁が、国際特許分類とは異なる観点から作成し、国際特許分類と組み合わせて使用される「ファセット分類記号」中、「ZAB 環境保全技術に関するもの」が付与されているものを抽出した。

(3)ランダムサンプリングによる標本の抽出
これらの方法で抽出したバイオ、IT、ナノテク、環境の4つの技術分野における特許集合から、疑似乱数による無作為抽出によって各分野300件、そして、比較対照として全特許集合から(分野を特定せずに)300件の特許を抽出した。すなわち、サンプル数は、300件×5(重点四分野+全分野)=1500件となる。

(4)目視によるサイエンスリンケージの計測
最後に、上記の1500件の特許サンプルの全文を対象に、それら特許が参照している、別の特許及び論文等を目視により抽出を行い、その傾向について分析を行った。具体的には、1500件のテキストファイルを1つずつ読み、引用部分を見つけ、引用文献を別ファイルに抽出し、特許及び論文等に分類した。

結果

論文等を引用している特許のサンプルに占める比率(科学依拠特許比率)においても、特許1件当たりの平均論文等引用件数(サイエンスリンケージ)においても、多い順に、バイオ技術分野特許、ナノテク分野特許、IT分野特許、最後に環境技術分野特許という明らかな傾向が見られた。この傾向は、特許がPCT条約に基づいて出願されているか否かにかかわらず、一定であった。

また、特許が属する技術分野の違いによってサイエンスリンケージが大きく異なるという結果について、その原因を分析するため、特許権者の国籍別の分析を行った。その結果、バイオ特許権者の50%が外国に住所がある機関からの出願であり、ナノテクノロジーでは28%、ITでは13%、環境関連技術では12%という結果となった。しかしながら、技術分野ごとにサンプリングされた特許を、さらに特許権者の国籍で分類したところ、サイエンスリンケージの水準こそ異なるものの、どの国籍群においても技術分野間のサイエンスリンケージの差異の傾向は同一であり、バイオが突出し、ナノテクがそれに続き、IT及び環境技術は少なかった。

さらに、サンプリングした四技術分野、1200件の特許について、特許1件ごとの請求項を数え、請求項とサイエンスリンケージの関係についても分析を行った。その結果、米国特許ではサイエンスリンケージも高い一方で、一特許当たりの請求項も多いため、サイエンスリンケージの出願人の国籍による差は縮小し、技術分野による差異が際立つ結果となった。ここでも、最もサイエンスリンケージの多い技術分野はバイオテクノロジーであり、ナノテクノロジーがそれに続いた(図)。

図

考察

上記の結果から、4つの主要技術分野特許サンプルにおいて観測されたサイエンスリンケージは、特許権者の国籍でコントロールし、さらに請求項数によってコントロールした場合でも、バイオテクノロジーが突出して多く、ナノテクがそれに続き、ITと環境技術は少ないという一定の傾向を持つという事実が明らかとなった。

すなわち、サイエンスリンケージの技術分野による大きな差異は、発明者の国籍にかかわらず、技術分野ごとに、その技術的思想が創作される課程で発明者が依拠した知識が、科学的知識であるのか先行技術の知識であるのかという、技術の創作過程そのものの本質的な差異に基づくものであることが実証されたと考えられる。

この事実は、技術分野によって技術が科学から受ける影響に違いがあることを示唆するものであり、今後の科学技術政策立案に際し、技術分野ごとの特性を踏まえた科学技術政策のあり方などを議論する定量的かつ実証的な基礎資料を与えうるものと考えられる。

具体的には、バイオ分野においてサイエンスリンケージが特に強いということは、発明者がその発明を思いついた際に、多くの科学的知識に依拠していたということを示していると考えられる。このことは、バイオ分野がサイエンス型産業と呼ばれ、有力大学の周辺にバイオベンチャーが生まれ、クラスターを形成していることと整合的である。今後産学連携政策や地域クラスター等の地域振興政策を立案する際には、技術分野によってサイエンスリンケージが大きく異なるという事実を踏まえ、技術分野ごとの特性を踏まえたよりきめ細かな政策の作り込みが求められよう。

また、本研究により、サイエンスリンケージに基づいて議論する際には、サイエンスリンケージが技術分野によって大きく異なっていることに留意が必要であることが明らかとなった。例えば、米国のサイエンスリンケージが他の国より多いことのみをもって、米国においては科学の技術への活用が他の国より進んでいるとする議論がみられるが、サイエンスリンケージが増大しているのは、単にバイオ分野の特許出願が他の分野よりも増加しているだけの可能性もあり、より詳細な研究が求められよう。

最後に、サイエンスリンケージを用いた研究の限界について述べる。前述したように、サイエンスリンケージとは、特許化された技術的知識の中に、学術論文等の科学的知識がどの程度引用されているかを計測した指標である。体重計で身長が測れないように、この指標を用いて計測できるのは特許中に引用されている論文数のみである。例えば、企業においても活発に研究が行われているIT分野では、きわめて基礎的・基盤的なアイディアでも論文として発表せず、まず特許として出願されるという。そうした場合、引用すべき科学論文は存在せず、結果としてそうした分野のサイエンスリンケージは低くなってしまう。日本の研究開発費約15兆円のうち、約12兆円は企業において支出されている。すなわち、日本のイノベーションシステムにおいて、企業は大きな比率を占めており、サイエンスリンケージ調査のみでは企業部門におけるイノベーション計測には限界がある。今後は、企業内における研究開発の調査や先行特許の引用の分析など、他の指標と組み合わせた研究の推進が求められよう。

参考文献
  • Mansfield E. 1991. Academic research and industrial innovation. Research Policy 20: 1-12
  • Narin F, Hamilton K, Olivastro D. 1997. The increasing linkage between U.S. technology and public science. Research Policy 26: 317-330
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  • 科学技術指標2000 科学技術政策研究所
  • Narin F, Pinski G, Gee HH. 1976. Structure of the Biomedical Literature, Journal of the American Society for Information Science January-February
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2004年1月5日掲載