国立大学財政ガバナンス:運営費交付金の構造を読み解く

赤井 伸郎
ファカルティフェロー

2004年4月より、国立大学は法人化して新たなスタートをきった。これにともない、文部科学省から国立大学運営のために配分される補助金は、使途自由な運営費交付金に統一された(2008年度予算で、総収入の約54%を占める)。運営費交付金は、2004年から一定のルールで削減され、2009年度まで続く予定である。2010年度より運営費交付金の配分額決定に成果主義が導入される方向で議論が進められている。成果指標次第では、大学間で交付金に格差が生じる可能性もある。このような観点で、今後、国民が国税を用いて、国立大学をどのようにガバナンスしていくのか、すなわち交付金のあり方は日本の将来を考える上でも重要であろう。

教育財政の経済学的分析の必要性

教育の理念や人的資本理論などが議論される一方で、教育財政の経済学的分析はほとんど行われていない。財政問題の関連では、2007年5月21日の財務省の財政制度等審議会において交付金配分の試算などが出され、また、直近では2008年5月19日の財務省の財政制度等審議会においても議論がなされている。そこで、交付金の算定ルールの評価として、財政配分に関しての考察を行った(詳細は、赤井(2008)参照)

現在の運営費交付金は、地方交付税と同様、算定された所要額(2003年度予算ベース)と、大学の独自収入(2003年度予算ベース)の差を埋め合わせるように算定され、財源保障型の配分が行われている。それは、大きく2つのカテゴリー「教育研究などに対する運営費交付金」と「付属病院に対する運営費交付金」に分類できる。一方で、実際に、病院において必要とされた交付金は、「付属病院運営費交付金収益(決算)」として計上されている。

まず、これらを2006年度で比較してみると、全国の病院の合計で見て、交付金算定における「付属病院運営費交付金」の全交付金に占める割合は5%程度であるのに対して、「付属病院運営費交付金収益(決算)」が、全交付金収益(決算)に占める割合は、17%にもなっている。これらの結果は、病院以外の経費として算定された交付金が、病院に回っていることを示している。その背景には、交付金算定における経費積算基準と、病院側で交付金を収益化する際の会計基準が異なっているからである。「教育研究などに対する運営費交付金」の中には、病院関係の経費(付属病院に所属する教員の人件費、非常勤である研修生、指導医の人件費、付属病院における教育・研究に要する経費)などが含まれているという事実がある。病院の実態に即した経費算定となっているのかを議論するためには、これらの基準の統一を通じた透明化が必要となろう。

次に、「付属病院運営費交付金」を算定するルールを見てみよう。付属病院運営費交付金(予算)は、以下の式で表される。

付属病院運営費交付金(予算)=一般診療経費(2004年度予算で固定)-付属病院収入
+付属病院特殊要因経費+債務償還経費

付属病院特殊要因経費および債務償還経費は、その年度で措置されるものである一方で、一般診療経費は、2004年度予算額で固定されており、また、付属病院収入も2003年度予算額から、毎年、2004年度付属病院収入予算額の2%を積み上げていったものとなっている。すなわち、経費は一定、収入は2%増加させるものと想定されている。

そこで、それらが実際に実現しているのかを確認してみよう。算定においては、キャッシュフローベースの付属病院収入が用いられているが、データの制約から、P/Lにある付属病院運営費交付金収益(決算)を用いた。また、その年度変化を見ると、付属病院運営費交付金は、多くの大学で、2%以上増加しており、収入の想定は実現されていることになる。では、経費の変化を見てみよう。ここでも、算定においては一般診療経費が用いられているが、データの制約から、P/Lで利用可能な診療経費(人件費を含まないなど一般診療経費とは区分が異なる)を用いた。その年度変化を見ると、診療経費は、増減のばらつきが大きく、増加しているものもある(交付金では一定と想定)。

したがって、各大学の地域事情により、大学病院の経営状態に差が生じており、交付金算定での想定(経費一定、収入2%増加)は必ずしも達成されておらず、算定に限界があることがわかる。2010年度以降の算定では、これらの実態をどのように評価し、交付金配分を行っていくのかが重要となる。

次に、運営費交付金の決定要因を分析してみよう。運営費交付金は2003年度の予算をベースにルールで決められているが、結果としてどのような配分になっているのかを見てみると、分析の結果、教員数、学生数ともに有意な正の関係が見られた。相対的には教員数の説明力が高い。

また、競争的に配分されている特別教育研究経費(注1)に着目してみると、1期前の特別教育経費との間に、負の関係が見られた。この結果から、特別教育研究経費は前年度配分の少ないところに、今年度配分する仕組みが伺える。すなわち、国は特別教育研究経費の配分に裁量の余地を有し、前年度配分が少ない大学に今年度に配分し、公平的な配分を行っていることになる(もちろん、研究プロジェクトは数年のものが多く、サイクルも考慮する必要はある)。これらに関しては、審査方法の透明性の確保やその効果を検証するなど、説明責任が必要となろう。

さらに、特別教育研究経費の配分が成果指標と関係があるのかどうかを、教育指標(教員数/学生数、教育経費/学生数)、研究指標(研究経費/教員数、(英語論文+日本語論文)/教員数、科学研究費補助金採択件数/教員数、特許公開件数/教員数)、社会貢献指標(受託事業等収益(国等以外から)/教員数、寄付金収益/教員数)を用いて、分析した。その結果からは、教育指標に関しては、教育経費よりも教員に応じた配分であり、研究指標に関しては、論文数よりも研究経費に応じた配分であり、社会貢献指標に関しては、受託収益・寄付金収益に応じた配分であることが分かった。ただし、指標の問題もあり、これらの結果から、教育研究経費の配分の是非を議論するまでには至っていない。

このような交付金の構造分析の結果から、現在の運営費交付金は、地方交付税のように財源保障型の配分が行われていることがわかる。このような配分は、公平的である一方で、効率性の面では、効率化努力のインセンティブに乏しく、効率性を重視した成果主義配分を少しでも行うべきとの圧力は避けられないであろう。

教育指標・社会貢献指標情報の整備を

成果配分を説得的に行うためには、指標情報の整備が重要である。研究指標情報の整備は比較的可能であるが、研究は外部資金や科研費で行えばよいとの議論もあり、その場合には、教育と研究経費の分離が1つの課題となる。教育指標情報の整備に関しては、教育プログラムの評価、学生満足度アンケートなど、多面的な評価が必要となろう。オーストラリアで行われているLTPF(Learning and Teaching Performance Fund)など海外事例も参考となろう。さらに、社会貢献指標情報の整備に関しては、研究成果に反映されない部分の把握がポイントとなろう。研究成果指標で相対的に低くなると思われる地方部の大学で、社会貢献指標がどのくらいあるのかが、地方の国立大学の存在意義を決めると思われる。今後の情報整備に期待する。

2008年5月27日
脚注
  • 注1)この経費は、「新たな教育研究ニーズに対応し、各国立大学等の個性に応じた意欲的な取組みを重点的に支援すること」を目的とし、公募・審査方式により、2007年度は、約845億円(予算)が配分されている。
文献

2008年5月27日掲載

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