コラム

日本企業のコーポレート・ガバナンスは改善されたのか?

齋藤 卓爾 慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授

2000年以降、日本企業のコーポレート・ガバナンスを巡る状況は大きく変化した。それまではメインバンク、株式持ち合い、内部者のみで構成された大規模な取締役会などに代表されるメカニズムが日本企業のコーポレート・ガバナンスにおいて大きな役割を果たしているとされてきたが、1997年の銀行危機以降は持ち合いの解消、銀行の保有株式売却が進み、その一方で外国人投資家の持株比率は大幅に増加した。またこの時期、株主構成だけでなく取締役会も取締役の減少、社外取締役の導入・増加など大きく変化した。このような変化に関してはすでに多くの研究が指摘しているが(たとえば、Aoki, Jackson, Miyajima;2007, 宮島; 2011)、このような変化は日本企業のコーポレート・ガバナンスを改善したのだろうか? という疑問に直接的に答えている研究は少ない。そこで本コラムでは以上の疑問に答えることを目指した筆者の研究を紹介してみたい。

コーポレート・ガバナンスの善し悪しを客観的に捉えることは極めて難しいことであるが、1つの方法として経営者の交代と企業業績の関係を計測するというやり方がある。すなわち、「コーポレート・ガバナンスが良い、機能している」とは企業業績を悪化させた経営者が懲罰的に交代させられている状況であり、「コーポレート・ガバナンスが悪い、機能していない」とは企業業績を悪化させた経営者が交代せず、居座っている状況、ということである(より詳しい説明は久保(2010)が行っている)。この考え方に沿うと、もし仮に近年日本企業のコーポレート・ガバナンスが改善しているのであれば、業績の悪化時に社長が懲罰的に交代させられる確率がかつてと比べて上昇していると考えることができる。

筆者はそのような事実があるのかどうかをテストするために1度でも日経225に入ったことのある企業約300社をサンプルとし、1984年から2007年までの社長交代の企業業績に対する感応度を測定した。以下、その結果を紹介していく。

図1は社長交代確率の推移を示している。全期間の平均は約15%であった。これは毎年社長の約15%が交代していることを意味している。社長交代は偶数年に行われる事が多いため、毎年の上下がみられるが、この数値は近年ほど高い傾向がみられた。たとえば1984年から1991年の8年間の平均値は約13%であったが、より近年の2000年から2007年の8年間の平均は約17%であった。この数値の差は小さく思えるが、13%の社長が交代することは社長の平均任期が約7.7年(1÷0.13)であることを意味しているのに対して、17%の社長が交代するということは社長の平均任期が約5.9年(1÷0.17)であることを意味している。つまりこの4%の平均値の上昇は社長の任期がこの期間に約1.8年も短くなったことを示しており社長交代に大きな変化があったことを示唆しているのである。

図1:社長交代確率の推移(社長交代数÷サンプル企業数)
図1:社長交代確率の推移(社長交代数÷サンプル企業数)

次に社長が退任後に着いた役職の変化を見ていく。図2は交代した社長に占める会長・副会長の就任者の比率の推移を示している。図が示すようにこの比率は低下傾向にあり、1984年から1991年の8年間の平均値が約85%であったのに対して、2000年から2007年の8年間の平均値は約70%であった。この平均値の低下は近年、社長退任後に会長、副会長として経営の中枢に残ることが難しくなっていることを示している。実際、社長退任後に取締役の地位を失った社長の数は1984年から1991年の8年間と2000年から2007年の8年間を比べると約2.5倍となっている。日本の社長交代の大きな特徴は、以上に見られるように、社長が退任後も会長などとして経営の実権を握り続けることである。このような社長交代はコーポレート・ガバナンスが機能した事例とは考えにくい。たとえば、業績を悪化させた社長が社長の地位を離れ、代表権のある会長となった場合、コーポレート・ガバナンスが機能し、懲罰的な社長交代が行われたとは考えにくい。このように考えると会長・副会長の就任者の比率の低下傾向はコーポレート・ガバナンスが機能した懲罰的な社長交代が近年増えていることを示唆していると考えられる。

図2:交代した社長に占める会長・副会長就任者の比率の推移
図2:交代した社長に占める会長・副会長就任者の比率の推移

では実際にコーポレート・ガバナンスが機能したと考えられる業績悪化に伴う懲罰的な社長交代は増えているのだろうか? このことを検証するために、社長退任後に会長・副会長に就任できなかったなど懲罰的と考えられる社長交代と企業業績の関係を見ていく。図3-1~図3-3は業績と社長退任後に会長・副会長に就任できなかったなど懲罰的と考えられる社長交代の関係を示している。業績は各社のROAから各企業の属する産業のROAの中央値を引いた産業調整済みROAを求め、それに基づいて5グループに分けている。すなわちたとえば、業績:最悪グループは各年の産業調整済みROAが下位5分の1だった企業で構成されており、業績:悪グループは下位5分の2、業績:最良グループは上位5分の1だった企業で構成されている。全ての年代に共通に見られる特徴は業績が最も悪いグループにおいて最も多くの懲罰的な社長交代が起こっていることである。このことは業績の悪化が主要な懲罰的な社長交代の原因となっていることを示唆している。次に、各年代グループの状況を見ていくと、1984年から1991年とその他のグループを比較すると、近年より多くの懲罰的な社長交代が業績の悪いグループで起こっていることがわかる。このことは近年、業績悪化に伴う懲罰的な社長交代が増えていることを示していると考えられる。つまり近年、社長は以前よりも業績を悪化させると交代させられる可能性が高まっているのである。このことは社長交代の有無を従属変数とし、企業業績を説明変数としたプロビットモデルによる分析でも確認することができた。

以上、近年の社長交代の変化をまとめると、社長交代は増加傾向にあり、特に業績悪化に伴う懲罰的な社長交代が増加しているといえる。このことは近年、日本企業のコーポレート・ガバナンスが改善していることを示しているとも考えられる。

図3-1~図3-3
図3-1~図3-3

ではどのような要因がこのような変化を生じさせたのだろうか? これを明らかにするために懲罰的な社長交代を従属変数、企業業績と株主構成(メインバンク持株比率、外国機関投資家持株比率)、取締役会構成ならびに企業業績と株主構成、取締役会構成の交差項を説明変数とした分析を行った。このような分析を行うことにより、株主構成ならびに取締役会構成が業績と経営者交代の関係にどのような影響を与えているのかを分析することができる。分析の結果は、メインバンクの持株比率もしくは外国人投資家の持株比率が高い企業ほど、業績悪化時に社長交代が起こりやすいことを示していた。また1984年から1991年、1992年から1999年、2000年から2007年の3つの時代に区分して分析を行った場合、メインバンク持株比率の効果に年代ごとの統計的に有意な差は見られなかった。これに対して、外国人投資家持株比率の効果は近年の方が、1984年から1991年よりも統計的に有意に大きかった。この結果は、業績悪化に伴う懲罰的な社長交代が近年増加した理由は外国人株主の増加ならびに、外国人株主の経営に対する圧力が増したことに起因する可能性があることを示唆している。

以上まとめると、この30年間ほどの間に業績悪化に伴う懲罰的な社長交代は増加傾向にあり、社長の地位を守ることは依然と比べて難しいものとなっている。このことは、日本企業のコーポレート・ガバナンスがこの30年ほどの間に改善されてきた1つの証と考えられる。このような改善は外国人株主の増加、そして外国人株主の経営に対する圧力の強まりによって主に引き起こされたと考えられ、現在外国人株主は日本企業のコーポレート・ガバナンスにおいて重要な役割を果たしているといえる。

2014年7月30日
参考文献
  • Aoki, M., Jackson, G., Miyajima, H., 2007. Corporate Governance in Japan: Institutional Change and Organizational Diversity. Oxford: Oxford University Press.
  • 久保克行, 2010.『コーポレート・ガバナンス 経営者の交代と報酬はどうあるべきか』.日本経済新聞社.
  • 宮島英昭編, 2011. 『日本の企業統治—その再設計と競争力の回復に向けて』.東洋経済新報社.

2014年7月30日掲載

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