リレーコラム:『日本の企業統治』をめぐって

第2回「どのような企業が社外取締役を導入しているのか?」

齋藤 卓爾
京都産業大学経済学部

本稿は、『日本の企業統治:その再設計と競争力の回復に向けて』第4章「日本企業による社外取締役の導入の決定要因とその効果」のエッセンスを紹介しています。

公開会社が必ず設置しなければならない組織が取締役会である。取締役会の主な役割は業務に関する意思決定、経営の監督、代表取締役の選任および解任である。取締役会は少なくとも3人以上の取締役によって構成されねばならない。取締役は主に2つのタイプ、社内取締役と社外取締役に分けられる。社内取締役とは会社の経営・業務の執行を行っている者のことであり、社外取締役とは経営・業務執行に関わっておらず、基本的に経営者との利害関係のない者のことである。それゆえに、社外取締役には特に経営を監視し、また外部の視点から経営に助言を与えることが期待されている。では両者の取締役会における比率はどうあるべきなのだろうか?

1つの考え方は社外取締役が多ければ多いほど、経営者に対する監視が厳しくなるので、望ましいというものである。しかしながら、多くの米国の先行研究は社外取締役の比率と企業業績の間に正の関係を見いだせないことを示しており、取締役会に社外取締役を多くおけば、企業業績が良くなるわけではないことを示している。

この結果は社外取締役が役に立っていないことを示しているのだろうか? そのように考えるのは早計であり、むしろ役に立っているからこそ、企業業績と社外取締役の比率には正の関係が見られないと考えることもできる。なぜそのように考えられるのだろうか? その答えは企業によってビジネスの状況などはさまざまであり、多くの社外取締役を任命することが効率的な企業もあれば、非効率な企業もあると考えられるからである。たとえば、ベンチャー企業のように経営者が多くの株式を保有し、内部留保が少ない場合には経営を監視する必要性は低く、社外取締役を増やしてもあまり効果は見られないと考えられる。しかし、成熟した大企業のように経営者が自社株をほとんど持たず、内部留保が厚い企業では資金が浪費されないように経営者を監視するために社外取締役を増やすことが効率的だと考えられる。つまり、社外取締役が多いことが常に望ましいのではなく、望ましい取締役会構成は各社の状況によって異なるということである。

では実際に企業は自社の環境に応じて最適な人数の社外取締役を任命しているのだろうか? 先行研究は米国の上場企業は一般的に環境に応じて相応しい取締役会構成を選択していることを実証的に示している。つまり例に沿うと、実際にベンチャー企業では社外取締役の比率が低く、成熟した大企業では社外取締役の比率が高くなっているのである。このような場合、社外取締役は役割を果たしていたとしてもその比率と業績の間に正の相関は見られなくなる。

日本においても各社は自社の環境に応じて最適な社外取締役の人数を選択しているのだろうか? 『日本の企業統治』第4章では、この点を分析した。図1は日経500に含まれている企業の1996年から2008年までの取締役会構成の変遷を示している。既に多く指摘されている様に近年、多くの企業が社外取締役を導入し、取締役会に占める社外取締役の比率は上昇傾向にある。

図:日経500企業に占める社外取締役導入企業比率
図:日経500企業に占める社外取締役導入企業比率

この上昇傾向は各社が自社の環境に応じて適切な取締役会構成を選択した結果なのであろうか? しかしながら、実証研究の結果は日本において各社が自社の環境に応じて最適な構成を選択していることを支持していなかった。むしろ、社外取締役の導入が効率的と考えられる企業が、導入を避ける傾向があることが明らかとなった。たとえばキャッシュフローが多く、経営者が資金を浪費する可能性が高い企業ほど社外取締役の導入確率が低いのである。

なぜ米国では各社が環境に応じて最適な取締役会構成を選択しているのに対して、日本ではそうなっていないのだろうか? その理由の1つに取締役の選任プロセスの違いが考えられる。米国では社外取締役のみによって構成された選任委員会によって社外を含む取締役が選ばれるのが一般的である。これに対して日本では選任委員会を持つ企業は極めて少なく、経営者が取締役を選任しているのが現実である。監視される側である経営者が社外取締役の導入を決定できる場合、キャッシュフローが多いなど社外取締役による経営の監視が効果的な環境に自社がある場合、経営者は社外取締役の導入を避けようとするのである。

このように多くの日本企業の取締役会構成には非効率な側面がある。ではこれを解決するにはどうすればよいのだろうか? 1つの解決方法は社外取締役の義務化である。社外取締役の義務化は既に多くの国で実施され、英国、韓国の義務化の効果を分析した研究は、義務化が企業業績に貢献したことを示している。日本においても現状が効率的でないとすれば、義務化が企業業績を向上させる可能性はあると考えられる。しかし、業績の向上はあくまでも平均的なものであり、全ての企業において業績の向上を保障するものではなく、社外取締役を必要としない一部の企業の業績は悪化する可能性もある。ゆえに、義務化を行うとしても、対象を全上場会社とはせず、大規模な上場会社に限るなどする必要があるかもしれない。

2011年9月2日

2011年9月2日掲載

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