経済を見る眼 政府税制調査会が目指すこれからの税制とは

佐藤 主光
ファカルティフェロー

筆者も特別委員として参加する政府税制調査会が1月末に再始動した。岸田文雄首相からは「デフレからの完全脱却と経済の新たなステージへの移行を実現する」べく、「経済社会の構造変化に対応したこれからの税制のあり方」を審議するよう諮問された。

昨今、税に対する国民の関心が高い。日本漢字能力検定協会主催の2023年「今年の漢字」第1位は「税」だった。防衛増税や異次元の子育て支援の財源など税をめぐる議論があったことが背景にある。

とはいえ国民の税に対する評価は肯定的とは言いがたい。税・社会保険料の国民負担率が5割に近づいたことを、ネットなどでは江戸時代の年貢に例えて「五公五民」とも揶揄していた。税は国民からの搾取というわけだ。

しかし民主国家において税とは国・自治体が提供する公共サービス・インフラへの対価としての性格を有する。消費税率を10%に引き上げた「社会保障と税の一体改革」も、消費税を社会保障給付の財源と位置づけた。

税制の現状と課題

ただ、国民の多くにとって税負担と受益が必ずしも結び付いていないようだ。結果として、防衛力強化や子育て支援の拡充には賛成しても、その財源確保のための負担増には反対する風潮になりやすい。

むろん、税には公平性、中立性、簡素性が求められる。しばしば消費税は低所得者の負担が重く「逆進的」と批判される。であれば、消費税に反対するのではなく、低所得層への給付などで逆進性を是正する措置を講じればよい。従前の低所得者支援は非課税世帯に偏ってきた。必ずしも低所得者=非課税世帯ではない。低所得者の所得を正しく捕捉して実態に応じた支援を行う仕組みがあってよい。

課税はデフレからの完全脱却に悪影響を及ぼすとの懸念もある。であれば、経済活動と親和性の高い税制を構築する。例えば法人税の課税ベースをキャッシュフロー(売り上げから人件費などのほか、投資を即時控除)に替え、投資に対して中立的にすることも選択肢だ。OECD(経済協力開発機構)が提言したピラー1のように、多国籍企業への新たな国際課税としてキャッシュフロー税と効果が同じ(独占利潤などに起因する)超過収益への課税も関心を集めている。

また、諮問にある「経済社会の構造変化」の1つに働き方の多様化がある。雇用的自営(フリーランス)や副業に従事する納税者は毎年、確定申告をしなければならない。このとき収入から控除する経費を正しく帳簿に記帳しておく負担は小さくない。申告手続きを簡素化するようサラリーマンと同じ経費の概算控除(給与所得控除)を彼らにも認めることが一案だ。

政府税制調査会の役割

このように、税を忌み嫌うのではなく、経済活動や日常生活との親和性を高めるよう税制を見直すべきなのだ。税は社会の基盤であり、将来世代に残すべき財産でもある。国民全員が「自分事」として冷静に考えることが望まれる。

政府税制調査会は中長期的な視点から税制のあるべき姿を論じる場である。新たな経済社会にかなって国民の理解が得られる税制の再構築を提言し、もって国民的な議論を喚起するのが役割だろう。

週刊東洋経済 2024年2月24日号に掲載

2024年3月5日掲載

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