「縮む地方」をどうするか 交付税の配分基準見直せ

佐藤 主光 ファカルティフェロー

地方と都市の二極化が進んでいる。秋田県の人口が100万人を割り込むなど地方が過疎化する一方、東京都心では人口が増加している。世田谷区の人口(約90万人)は鳥取県や島根県を上回る。

政府は一極集中を是正すべく地方創生(まち・ひと・しごと創生事業)に取り組んできた。2017年度予算では地方自治体が自主的・主体的に進める先導的な取り組みを支援するため、地方創生推進交付金を1000億円確保した。また地方財政計画では「まち・ひと・しごと創生事業費」(1兆円)を計上し、国から地方への財政移転である地方交付税の配分に反映させた。

地方創生は頑張る地域を応援し、地域の総合力を最大限発揮させることとされる。まち・ひと・しごと創生事業費を反映した交付税の配分についても、過疎化など支援の必要性から、若年者就業率など取り組みの成果に基づいた配分へのシフトを進める。また業務の民間委託などを交付税算定の標準とするトップランナー方式が導入された。いずれも頑張る地域へのインセンティブ(誘因)付与が狙いだ。

ただし支援は頑張る地域だけが対象ではない。成果を発揮することが困難な「条件不利地域」についても財源確保できるようにするという。結局、頑張りの程度にかかわらず、すべての自治体に配慮して誰も困らないようにする構造はこれまでと変わらない。

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国は自治体の財源を幅広くかつ手厚く保障してきた。この財源保障はマクロ(地方全体)とミクロ(個別自治体)に分かれる。地財計画では国(総務省)が見積もる地方全体の必要経費が計上される。

必要経費といっても、科学的・客観的な根拠があるわけでなく、地方歳出の過去の実績や経済対策など国の意向が反映される。社会保障、公共事業、教育などのほか地方債の元利償還費が含まれる。17年度ベースで総額86兆6000億円にのぼる。国の必要経費ではない独自の地方支出もあるので決算額と一致しないが、決算額の9割弱を占める。

地方税や省庁からの補助金(国庫支出金)、地方債などを充てても、なお不足する財源を交付税が賄う。制度上、交付税の原資は所得税・消費税など国税5税の一定割合だが、地財計画上の所要額(財源不足額)を下回ってきた。

その差額は国の一般会計から加算されるか、自治体が赤字地方債(臨時財政対策債)を起債して元利償還費は後年度、地財計画上の必要経費に算入されて交付税で措置(財源保障)される。地方債の信用は自治体の財政力でなく、こうした国の財源保障により裏付けられている。個別の自治体に対する交付税の配分は当該自治体の一般財源(交付税と地方税の合計)の必要経費(=基準財政需要)と地方税など財政力(=基準財政収入)の差額により決まる。

基準財政需要には前述した頑張る地域へのインセンティブの分も含まれる。ただし自治体への救済色が強い面は否めない。赤字地方債などの元利償還費が反映されるほか、小規模自治体など行政コストが高くつく自治体の基準財政需要はかさ上げされる。実際、人口の少ない市町村は財政力指数(=基準財政収入/基準財政需要)が低く、自前で必要財源を確保することが困難だ。その必要財源を充足するよう高額の交付税が配分されている(図参照)。

図:自治体人口別にみた1人当たり交付税と財政力指数
図:自治体人口別にみた1人当たり交付税と財政力指数
(出所)数値は2014年度ベース、東京特別区は含まず

交付税は人口規模や財政力にかかわらず、国が必要と判断する公共サービスを標準的な水準だけ提供できるように手当てされてきた。このことが自治体の交付税依存を助長し、財政規律を阻害するという批判も少なくない。

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自治体にも言い分がある。自治体は規模・財政力にかかわらず、社会保障・教育を含め国が関与・義務付けた政策を実施してきた。市町村の担う政策は政令指定都市、中核市と一般の市、町村との間で、都市計画や福祉などの事務に関しては多少違うが、おおむね等しい。交付税の財源保障はこうした政策の円滑な実施を確保するためにある。自治体に対する国の保護者責任は、国の幅広い関与・義務付けの裏返しといえる。

だが国の財政が悪化する中で、交付税の財源保障機能も揺らぎ始めている。国は今後も一般財源の総額(62兆円程度)を確保するというが、その持続可能性は定かでない。経済財政諮問会議では自治体の基金の残高が21兆円にのぼると指摘されている。特に交付税の基準財政需要に比べて基金の積み立て水準が高い自治体は財政力が弱く、65歳以上の人口比率が高いという。交付税への依存度が高い自治体は、交付税削減のリスクに備えているのかもしれない。

国が誰も困らぬよう腐心しても、当の自治体は不信を募らせている。将来の安心をうたう社会保障が国民にとって将来不安の要因であり、消費支出の抑制(高貯蓄)につながっているのと同じ構造だ。

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ではどうすればよいのか。以下では第1に市町村の事務の広域化や道府県への移管、第2に交付税の財源保障機能の改革を提言したい。

市町村は住民に身近な公共サービスを提供する基礎自治体であり、地方分権の受け皿と位置付けられてきた。平成の大合併も基礎自治体としての市町村の財政基盤の強化が狙いだった。しかし人口減少・高齢化により、すべての自治体が同等の役割を充足することが困難になってきた。さらなる合併が困難であれば、政策の広域化を通じた歳出の効率化や公共サービス供給の確保が不可避となる。

日本政策投資銀行によれば、水道事業への一般会計からの赤字補填を減らすには給水人口5万人以上が必要だ。水道事業など公営企業、医療、産業振興、公共交通、インフラの整備、徴税(特に滞納税の整理)を含め、政策の広域化は都道府県が調整するか、中核的な都市が担うべきだ。

政府の「経済財政運営と改革の基本方針2017」も「人口規模が小さく、行財政能力の限られる市町村」については、周辺の中核的な都市や都道府県との連携を踏まえ「公共サービスの広域化・共同化の取り組みを着実に推進する」と指摘している。こうした広域連携・共同化の制度としては既に定住自立圏構想や連携中枢都市圏構想などがあり、その活用を進めるべきだ。

「市町村=地方分権の受け皿」という従前の認識も改めねばならないだろう。来年度から国民健康保険の運営主体が市町村から都道府県に移る。他の政策も「行財政能力の限られる市町村」分については都道府県に移管する。強制ではなく自治体が自発的に進める選択肢があってもよい。今後は多様な地方分権の形を認めていくべきだ。

さらに交付税の配分基準(基準財政需要の算定)の見直しも必要だ。政府は人口減少が進むなど小規模な自治体に対して交付税額を割り増ししてきた。こうした自治体は「まち・ひと・しごと創生事業費」に関しても配慮されている。しかし本来、小さい自治体でも何とかなるよう財源保障するのではなく、配分基準を簡素化して広域化・都道府県化の選択に対して中立的な制度とすべきだ。

歳出が効率化すれば交付税の所要額も総じて減少し、その財源保障機能を中山間地域や離島など広域化の困難な自治体に重点化できる。このように人口減少による「縮む地方」という新たな経済・社会情勢に対応した地方財政制度の再構築が求められている。

2017年9月29日 日本経済新聞「経済教室」に掲載

2017年10月11日掲載

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