地方の法人課税は不要

土居 丈朗 RIETIファカルティフェロー

税制健全化は喫緊の課題だが、税制論議の中では経済成長や活力維持の観点も重要である。景気回復に伴い地方財政は今後転換する見込みで、自治体の法人課税(法人事業税など)は原則、不要である。徹底的な地方の歳出削減を行った後、法人課税を地方消費税に振り替えるのがよい。

法人課税の動向 企業活動を左右

歳出歳入一体改革の議論が本格化している。財政健全化のためには、積極的な歳出削減は不可欠だが、消費税率引き上げを含めいつどのように税制改革を行うかも、重要な課題である。それとともに、少子高齢化・人口減少、グローバル化という大きな経済社会の変化の中で、経済の活力を維持・強化し、持続的な経済成長を実現していくことで、財政健全化を継続して行える経済環境を整えることも必要である。

以下では、今後議論が避けられない増税と経済成長促進をどう両立させるか、考察したい。

確かに税や社会保険料の負担を急激に高めると、経済成長を損ねかねない。しかし、増税をいつまでも先送りすれば、将来の負担増がより大きくなるだけで、目先の経済は成長しても、将来大きく成長を損ねる羽目になる。どの税を増税するかで、経済成長に与える影響も違ってくる。

特に、法人課税は、経済成長の原動力となる企業行動を大きく左右する税である。世間には、法人税だから法人が負担する税金で、消費税は消費者だけが負担するものという発想があるが、経済学的には間違っている。

法人税も消費税も、納税義務者は企業側であり、消費者に税負担をどれだけ転嫁するかで、実質的な負担者が決まる。法人税も消費税も、企業が製品価格に転嫁できなければ消費者に転嫁できない。その代わりに、賃金を抑えれば従業員に税負担を転嫁したことになるし、配当を圧縮すれば株主に転嫁したことになる。だから、消費税といえども消費者だけが負担しているわけではなく、法人税でも消費者に転嫁されることもある。

他方、グローバル化の中で、わが国で諸外国よりも法人課税の負担が重いと、日本企業は国際市場の中で不利になり、価格競争力を失うことになる点にも、十分注意を払う必要がある。

例示して言えば、日本で生産されようと、外国で生産されようと、日本の消費者に製品やサービスを売ろうとする限り、日本での消費税の課税は逃れられない。だから、消費税が日本でどんなに高率で課税されようとも、企業が製品をどこで生産しても税負担は基本的には同じである。

他方、法人課税は生産活動が営まれた場所が重要で、税率が低い場所(国)で生産し法人所得が発生したことにすれば、納税額は少なくて済む。

だから、日本の法人税率が高いと、日本で生産している企業は、税率がより低い国で生産している企業より、税負担をより多く消費者に転嫁させるか、自らがより税負担を強いられるかどちらかになり、競争上不利になる。それだけに、国際競争力との関係では、法人課税の問題が重要といえる。日本の法人課税の実効税率は、近年低下したとはいえ、いまだ世界で相当高い水準にある。

今年2月の米大統領経済報告では、日本が米国より税率が高い世界唯一の国として紹介されている。欧米諸国にはさらにこれを引き下げる動きがあり、現在の水準で安穏としていられる状況ではない。また、アジア諸国との税率差も看過できない。韓国は、法人実効税率が日本より12-13%も低くなっている。

時代錯誤的な地方課税強化

わが国の法人課税は、地方の法人課税負担が重い点に大きな特徴がある。国税の法人税は軽減される方向だが、地方税では逆に法人課税を強化する動きがある。

都道府県財政は、住民税と法人事業税を二本柱として税収を確保してきた。ところが、バブル崩壊後に事業税収が大幅に減り、都道府県財政が悪化したために、事業税収を立て直す狙いで外形標準課税が導入され、法人課税が強化された。

しかし、これは「江戸の敵を長崎で討つ」式のやり方で、グローバル化に逆らう時代錯誤的な税制改正である。都道府県財政を立て直すには、当然税収を増やす必要があるが、それを事業税で行う必然性はない。地方の法人課税は、企業活動が都市部に集中することから、税収の偏在も常につきまとう難点もある。

地方自治の精神からも、地方税は、個人住民税や固定資産税など、選挙権のある住民に対して課すことが適当であって、地方の法人課税は、法人住民税の均等割を除いて原則不要である。地域経済活性化の観点からも、法人課税は今後早期に抑制する必要がある。

地方分権の時代に向けて、自治体は十分な税収を確保すべきだとの主張がある。必要な行政サービスの提供のためには、地方の税源強化は当然求められよう。ただ、そのために、消費税の国と地方の配分を地方にさらに多くしたり、地方交付税に充当する国税の割合(地方交付税率)を引き上げる必要はない。

筆者が、5月9日の政府税制調査会で公表した分析結果によると、今後の経済成長の回復により、地方税収は現行税制のままでも大きく増加し、国民が納得する地方の行財政改革を行えば、10年後には地方全体では地方交付税がわずかでも収入が十分に確保できるほど、地方財政は余裕が出てくると見込まれる。数年前までは経済成長の低迷で地方税収も低迷していたが、今後地方税収は上昇する成長率と同率で増加する(税収弾性値が1)はずである。

現行税制でも地方税は余る

例えば、地方の一般歳出を10年間毎年2%削減すれば、2011年度以降地方債は発行せずに済み、15年度には交付税を2兆円しかもらわなくても地方歳出を十分まかなえる地方税収が得られる。あるいは、地方交付税を現行のまま温存すれば、歳出削減が緩くなる。

民間よりも高い公務員給与や不要不急の公共事業など、支出をたくさん施している状態で、目先は財源不足といえども景気回復によって税収が回復すると見込まれる地方財政に、さらなる財源を与えることは、ぬれ手で粟となるだけである。まずは、自治体も国民が納得できるように徹底的な歳出削減をさらに行うべきである。

しかも、先の分析では、徹底した地方の歳出削減で、現行税制のままでも地方税収は余るほどになるわけで、その余裕は、地方法人課税の減税にも回せよう。都市と農村の税収格差は、別途財政調整を行えばよい。地方の言い分もわかるが、国の赤字の深刻さを考えれば、地方交付税率はむしろ引き下げが必要だ。

企業収益が改善しつつある今日だが、法人にもっと税負担を負わせるべきだとする声は以前より小さいだろう。しかし、国民の間には、先に述べた法人税と消費税の錯覚が、未だ一般に根強く、消費税の大幅増税にも強い忌避感がある。未曾有の財政赤字を抱えるわが国財政において、所得税や消費税の増税は避けられない見通しの中で、法人税だけを軽減するという主張は、政治的な支持を集めるのは厳しい状況だろう。

それでも、今後企業の国際競争はますます厳しくなる方向にあり、わが国だけ法人課税を重くすれば、日本の産業の成長を圧迫しかねない。その観点からいえば、法人課税を軽減して消費税に振り替えていくことが有効な手段だろう。

ただ、今すぐに地方法人課税を軽減して地方消費税を増やすのは、前述の理由で望ましくない。むしろ、地方歳出のさらに徹底した削減と、消費税収を国の財政支出に見あうだけ国の取り分を増やすことが先である。

目下、国民が払う消費税のうち、8割(税率4%)が国に、2割(税率1%)が地方に収められている。そして、国の消費税収のうち29.5%が地方交付税の財源となり自治体に配分されている。だから、国民が払う消費税は、国には結局56%しか届いていない。今の仕組みのまま、国が増税を国民に説得しても、増収分の44%が自動的に自治体の懐に入ることになり、自治体は何ら説明責任を果たさなくとも棚ボタ式に増収となる。その仕組みは改めなければならない。

国の財政健全化と地方の歳出削減に早期にめどをつけ、第二段階で地方が法人課税から地方消費税へ振り替えに着手するのがよい。財政健全化と経済成長を両立させる視点での長期的な税制改革の戦略が必要である。

2006年5月26日 日本経済新聞「経済教室」に掲載

2006年6月2日掲載

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