新春特別コラム:2008年の日本経済を読む

日本経済の展望

深尾 光洋 ファカルティフェロー

2007-2008年度の名実成長率見込み

2007年度は建築確認の厳格化で、住宅や設備投資の着工が相当落ち込んでいるため、成長率は1.3%程度まで低下すると見ている。潜在成長率は1.5~1.7%程度と推定されるので、2007年度には需給ギャップが若干悪化して需給が引き緩み、GDPデフレーター・インフレ率も-0.6%となり、名実逆転が続く。原油などの一次産品価格が上昇する中での、デフレーターの低下は、企業部門がコスト高を販売価格に転嫁できず、給与を削って利益を維持していることに対応している。企業にとっての投入価格は上昇を続けているが、国内需要が弱く販売価格への転嫁は十分に進まない。無理に上げれば、販売量の減少による売上高への悪影響も懸念されるためである。雇用者報酬の伸びが低いため、消費の伸びも期待できず、年度内は低成長が続くだろう。

しかし来年度にはいると建築着工が回復してくることから、現状程度の円相場と中国経済の高成長が続けば、2008年度は2%程度の成長が見込める。しかし需給の回復は遅く、GDPデフレーター・インフレ率の改善も非常に緩やかなものとなる。このため、2008年度でも、名目成長率は実質成長率とほぼ同じ程度の伸びに止まり、名実逆転の解消は年度末頃までかかるのではないか。

日本経済回復のシナリオが抱えるリスク

しかしこの回復シナリオには、いくつかのリスク要因がある。1つは中国経済の過熱である。中国経済は、日本で言えば1972-73年頃の状況に似てきている。当時の日本では、スミソニアン合意の後、「再切り上げ反対」の声が極めて強く、当時の中曾根通産大臣が「調整インフレ」を示唆した。金融の引き締めはしない、為替の切り上げもしないということで突っ走って、1973年には高率のインフレにしてしまった。これと同じことが、2008年度の中国に起きる可能性がある。中国の消費者物価指数は、従来、1-2%ぐらいのところで比較的安定してきたが、2007に入ってからは急速に上がっている。2007年10月(速報)では6.5%と、政府の年間目標(3%以下)を大幅に上回っている。このように消費者物価の上昇が加速しつつあるが、資本流入をおそれて金利引き上げが遅れており、預金の実質金利はかなり大幅なマイナスになっている。労働者の賃金引き上げも前年比20%近くに達しており、中国人民銀行が早期に本格的な利上げに踏み切らなければ、2008年には消費者物価上昇率が二桁に達する可能性が高い。そうなると、政府は本格的な引き締め政策を採用せざるを得なくなり、反動不況が発生するリスクがある。

米国でも、サブプライム問題によるアメリカ経済の回復の遅れのリスクが高まっている。米国の成長率低下と連銀による米国の金利引き下げが続くと、円金利との差が縮小するため、円高圧力が強まろう。アメリカ経済は、住宅、特に個人向けの住宅はあまり良くないが、設備投資や輸出が比較的堅調である。その理由としては、米ドル相場が弱いため、中国やヨーロッパ向けの輸出が好調を持続していることが挙げられる。このため家計の所得環境の悪化に比較して、企業部門はさほど悪化していない。住宅着工は低下しているが、建設労働者の雇用は、さほど悪くない。これは、商業ビルや工場等の建築は相対的に好調を維持しているため、住宅の落ち込みにもかかわらず、比較的、雇用は堅調に推移している。これからの米国経済は、連銀の利下げペースに依存している。現在の金融市場は、アメリカ金利のさらなる引き下げを織り込んでいる。

舵取り難しい局面が続く日本の金融政策

こうした状況の中で、2008年の金融政策は、非常に舵取りが難しい局面が続こう。海外経済の停滞や円高という2つの景気のダウンサイドリスクが実際に発生すると、日銀には金利の引き下げ余地はほとんどないため、日本経済が再度デフレに陥る可能性も否定できない。日本銀行は、2007年2月の金融政策決定会合で0.5%に引き上げた無担保コールレート翌日物の誘導目標を、早ければ2007年夏に再び上げる意欲を見せていた。しかし、サブプライムローン問題に端を発する金融市場の混乱から利上げタイミングを先送りしている。日本銀行は国内需要の着実な伸びと企業の価格転嫁の進展を十分にチェックし、慎重な対応をとるべきであろう。日銀は当面、金利の引き上げを見送るべきである。

第3回は森川正之上席研究員による『2008年の日本経済:ヴォラティリティは低下したか?』です。

2008年1月15日

2008年1月15日掲載

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