IT@RIETI

no.47: 特別企画:著作権法改正についての論点整理(その2)

真紀奈
ヴァーチャルネット法律娘

前回は書籍の貸与権についてと、損害賠償制度についてとりあげました。今回は輸入権について取り上げようかと思うのですけど、その前に数点前回の補足説明を入れておこうと思います。

前回、書籍の貸与権の対象について以下のように書きました。

今回の改正案で対象となるのは貸本屋やレンタルコミック屋等の営利目的でのレンタル業です。

けれど実際にはもうちょっと広く対象になりそうです。詳しくはサイトの方に書きましたのでそちらを参照して頂ければと思いますけど、法改正として附則4条の2の廃止という形を取ると、「営利目的で無料の貸与」と「非営利目的で有料の貸与」も対象となるかも知れないんですね。企業内図書館とか、対価を徴収している専門図書館などは対象になる可能性があるわけです。最初から対象とするつもりだったのか、法改正の都合上対象となってしまったのかまではわからないのですけど、この点についての審議が行われていないようなのが気になります。

あと貸本屋については、貸本業界と出版業界の間で以下のような合意を結んでいるという話がありますけど、法律にこの条件が書かれるわけではないので実際にいつまでどの範囲で効力を持つのかというのはわからないと考えています。

下記の要件を併せて充たす店舗に対しては、貸与権獲得後も権利行使をしない。

1.平成12年1月1日以前に「貸本店」として営業を開始し、転廃業などをせずに現在までその営業を継続している店舗。

2.貸出対象書籍が1万冊以下である店舗。

ついでに書いておきますと、書籍の貸与権の創設によってマンガ喫茶等は影響を受けません。「貸与」というのは「占有の移転」を指しますので、店から持ち出せない以上貸与には当たらないんですね。これについても著作権の対象としようという議論(展示権の拡大など)があるのですけど、今回は割愛します。

さて、それでは予定していたとおり輸入権についての話に移ろうと思います。

現在この問題は「日本販売禁止レコードの還流防止措置」という表現が使われています。これを作ろうとしている背景については結構報道もされているので、簡単におさらいするだけにしておきます。

日本の音楽レコードを海外でも販売しようという時、レコードの価格を現地の価格にあわせないとなかなか売れないという事情があるそうです。そのため、レコードを現地等でライセンス生産して現地の価格で販売するという方法をとることになります。

このような方法をとると、価格差の問題から海外で生産されたレコードが国内に逆輸入されることが問題になります。アジアの場合レコードの販売価格は1500円を切ることもよくあるとのことですから、それが流入すると国内製のレコードよりもかなり安く入ってくることになってしまいます。そうすると国内製のレコードが売れにくくなってレコード会社や著作者に被害が及びかねないということから問題とされているわけです。

そこで海外でライセンス生産されたレコードが国内に還流してくるのを防止しようという話になり、今回の法改正が行われようとしています。

具体的にどのような改正を行うかというと、「海外でライセンス生産された邦楽レコードについて、国内での販売を目的として輸入する行為は、権利者の利益が不当に害される場合に限り著作権侵害とみなす」という形にすると報道されています。また、この権利には禁止期間を設けて、国内で最初に発行されてから5年程度の期間内だけ適用されるという話も出ていますね。

では、これに関する論点には何があるのでしょうか。まだ法案化されていないので推測も混ざってしまいますが、いくつかあげておこうと思います。

まず1つ目は、この方法をとると音楽レコードの価格が固定化されてしまうという点です。日本には再販制度というシステムがあるため国内でのレコード価格の競争がほとんどありません。その上海外からの逆輸入盤までが入ってこないとなると、競争が行われなくなってしまいかねないんですね。つまりレコード価格が高止まりする可能性があるということです。

2点目は、この改正案だと邦楽の逆輸入盤だけではなく、洋楽の並行輸入盤等まで規制される可能性があるということです。日本の著作権法上、海外の業者にも同様の権利が与えられるため、法律上洋楽の並行輸入盤等も規制可能な形になってしまうんです。

今のところアメリカの5大メジャーレーベルとの間では現行の方法でビジネスが行われることが確認されているらしいですけど、法的に並行輸入盤を規制することが可能なことに変わりはありませんし、合意が行われていないレコード会社もたくさんあります。この点についてはこれ自体が論点にもなりますけど、それ以上にこのような可能性があることについてほとんど報道がされていないこと、きちんとした説明がなされていないことが問題だと思っています。

3点目としては、独占禁止法との関係があります。公正取引委員会が独占禁止法の取引妨害に当たるのではないかと指摘しているんですね。この点についてもちゃんとした解決策が出ているのかというと、はっきりしていません。

他にもレコード輸入権については色々な論点があります。このIT@RIETIでも池田信夫さん境真良さんが取り上げていますので、そちらも参照してみると総合的にわかるのではないかと思います。

日本販売禁止レコードの還流防止措置にしろ書籍の貸与権にしろ、色々と問題点があるにも関わらず、それらを抱えたままで今回の法律改正へと進んでいます。今週中には閣議決定が行われるという話を聞いていますので、すぐにも法案が出てくる状態にはなっているのでしょう。

韓国の文化開放等にあわせて急いでいるのはわかるのですけど、議論が性急に進みすぎではないでしょうか。この間のパブリックコメントであれだけ多くの意見が出たことを考慮してもう少し慎重な議論を行ってもらいたいと思いますし、最低でも個々の意見をまとめたものくらいは出して欲しいと思うのです。賛成、反対の数にしてもミス等が出ているようですし、そもそもあのような形になるのだったら、賛成・反対だけでも応募しようという人はもっと多かったと思います。

著作権法は一度権利を拡大すると、縮小するのはほとんど無理という形で改正されてきました。権利の拡大にはもっと議論を重ねて、慎重に行った方がいいのではないでしょうか。真紀奈はそう考えています。

2004年3月3日

This work is licensed under a Creative Commons License.

2004年3月3日掲載

この著者の記事